2018年1月17日水曜日

侵害訴訟 特許  平成29(ネ)10027  知財高裁 請求認容

事件名
 特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日
 平成29年12月21日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部                     
 裁判長裁判官                森              義      之                           
 裁判官               永      田      早      苗                          
 裁判官           古      庄              研  

「 2  被告サービス1について
(1)  争点(1)ア(構成要件1Bの「値幅を示す情報」の充足性)及び同イ(構成要件1Bの「利幅を示す情報」の充足性)について
    ア  被告サービス1の認定
 証拠(甲7,乙4)及び弁論の全趣旨によると,被告サービス1は,以下のとおりのものと認定することができる。
(ア)  被控訴人のウェブサイトで,「サイクル注文」を選択すると,「新規注文入力」と題する画面1が表示される。画面1では,顧客は,①「通貨ペア」,②「注文種類」,③「参考期間」,④「想定変動幅」,⑤「ポジション方向」及び⑥「対象資産(円)」の各情報を入力し,その後に同画面の「計算」ボタンをクリックすると,別の「新規注文入力」と題する画面2に遷移する。
(イ)  画面2においては,画面1で顧客が入力した情報に基づく計算結果が,注文数,値幅,並びに,新規指定レート及び利食いレートを持つ複数の注文情報群として示される。各注文情報群の新規指定レートと利食いレートとの差は等しい。各注文情報群の新規指定レート及び利食いレートは,顧客において変更することができ,新規指定レート又は利食いレートを変更した場合,一の高値側の新規指定レートの値と一つ安値側の利食いレートの値は連動して変化するが,それ以外の新規指定レート及び利食いレートが自動的に変更されることはない。また,顧客は,画面2の「数量」入力欄に,注文希望数を,金額に相当する単位で入力する。顧客が画面2の「注文」ボタンをクリックすると,取引が開始する。顧客は,画面2の「戻る」ボタンをクリックして画面1に戻って前記①~⑥の情報を再入力することや,画面2の「キャンセル」ボタンをクリックして,注文をしないこととすることもできる。
(ウ)  上記の新規指定レート及び利食いレートを持つ複数の注文情報群は,新規指定レートのうち一番先頭の価格を最高価格としてより安値側にした複数の新規指定レートと利食いレートのうち一番先頭の価格を最高価格としてより安値側にした複数の利食いレートから成り,これら複数の新規指定レートと複数の利食いレートとは互いに売りと買いの関係にある。
(エ)  上記の複数の注文情報群は,取引のため金融商品取引管理システムに一旦格納されることとなる。
(オ)  取引が開始した後は,画面2で表示された複数の注文情報群全てにおいて,例えば,第一注文が買い注文で第二注文が売り注文である場合,それぞれの注文情報群の買い注文は注文中,売り注文は待機とされ,ある注文情報群の買い注文が成約すれば,対応する売り注文が注文中とされ,売り注文が成約すれば,同一注文情報群の買い注文が再び注文中とされ,約定と注文が繰り返される構成となっている。
(カ)  以上のとおり,被告サービス1は,あらかじめ指定した変動幅の中で,複数のイフダン注文を一度に同時発注し,決済成立後,あらかじめ指定した変動幅の範囲で成立した決済注文と同条件のイフダン新規注文をシステムが自動的に繰り返し発注する連続注文機能を有するものである。
    イ  「値幅を示す情報」及び「利幅を示す情報」の充足性
 上記認定によると,顧客は,画面2において,複数の注文同士の「値幅」を認識し,新規指定レートと利食いレートとの差から「利幅」を認識し,必要に応じて変更を加えた上で,「戻る」ボタンや「キャンセル」ボタンをクリックして注文しないことを選択できるにもかかわらず,「注文」ボタンをクリックして画面2において示された値幅及び利幅による注文情報群の注文をすることができるのであるから,顧客が「値幅を示す情報」及び「利幅を示す情報」を売買注文申込情報として入力し,被告サービス1はこれを受信して受け付けているものと認めるのが相当である。
ウ  構成要件1Bの充足性
「画面2」において示され「注文」ボタンをクリックすることによって送られる情報のうち,「通貨ペア」,「数量」,及び「新規指定レートのうち一番先頭の価格」が,それぞれ,構成要件1Bにおける,「売買を希望する前記金融商品の種類を選択するための情報」,「前記金融商品の売買注文における,注文価格ごとの注文金額を示す情報」,及び「前記金融商品の販売注文価格又は購入注文価格としての一の注文価格を示す情報」に相当するといえ,これらの情報はいずれも売買注文に用いられるから,「金融商品の売買注文を行うための売買注文申込情報」であるといえる。
 以上より,被告サービス1は,本件発明1の構成要件1Bを充足することになる。
    エ  被控訴人の主張について
      (ア)  被控訴人は,本件明細書等1においては,顧客が「値幅を示す情報」及び「利幅を示す情報」を含む五個の情報を入力する実施例のみが開示されていることから,これら五個の情報は,顧客が入力するものである,と主張する。
 しかし,構成要件1Bは,顧客が各情報を,プルダウンメニューから選択したり,キーボードで数字を打ち込んだりすることを要件としていないから,これらの操作と,画面上に示された情報を確認して実行することとを区別する理由はない。
(イ)  被控訴人は,人間である顧客が「値幅を示す情報」及び「利幅を示す情報」を含む五つの情報を入力したといえるためには,入力した情報が「金融商品取引管理システム」によって,どのような情報として受け付けられるのかを分かる必要があるところ,被告サービス1ではそのような構成になっていない旨主張する。 
  しかし,上記認定のとおり,顧客は,被告サービス1の画面2において,画面2に表示された値幅及び利幅における注文をすることを決定して,「注文」ボタンをクリックするものであるから,被告サービス1において,顧客は,自ら望み具体的に認識した値幅及び利幅が,「値幅を示す情報」及び「利幅を示す情報」として「金融商品取引管理システム」に受け付けられることを認識しているといえる。
        (ウ)  被控訴人は,「値幅を示す情報」及び「利幅を示す情報」は,「金融商品取引管理システム」に入力されるものであるから,「金融商品取引管理システム」の外部にあるものでなければならない,と主張する。
 しかし,被告サービス1においては,値幅と利幅が,「金融商品取引管理システム」の内部で何らかの算定式等に基づいて生成された情報であっても,情報が生成されれば直ちに売買注文申込情報となるのではなく,顧客が「注文」ボタンをクリックして初めて,売買注文申込情報として受け付けられるものである。このような値幅及び利幅について,「金融商品取引管理システム」の内部で生成された情報であることを理由に,「値幅を示す情報」「利幅を示す情報」に該当しないということはできない。 」

【コメント】
 FX取引の方法等についての特許権侵害訴訟の事案です。有り体に言えば,フィンテックの特許侵害事件です。
 一審は,ここでも取り上げましたが,請求棄却でした。
 原告つまり特許権者がマネースクウェアで,被告は外為オンラインです。
 それが逆転で,請求認容となったものです。
 クレーム等は一審を見てもらうといいのですが,最悪なのは私のコメントです。
 実は,今回の事件については,報道で少し話題になりました。 私は,最初それを聞いて別事件のことかと思ったのですが,この事件の方でした。いかに私が節穴でものを見る目がないかがわかります。
 
 ま,順に見てみましょう。今回のシステムの画面遷移です。
 
  この画面1において,顧客が①~⑥の情報を入力し,「計算」アイコンを押すと,下の画面2に遷移するようです。
 そうすると,この新規指定レートと利食いレートの所に,所望のレートが出ているわけです。
 そして,この場合, 各新規指定レートと利食いレートの差,つまり利幅はどれも同じです(この例だと,1.17円です。)。また各注文同士の値幅は,この画面から当然分かります。
 ですので,確かに1審が指摘するとおり,利幅と値幅自体を顧客が入力する所はないけれど(顧客が入力するのは,画面1での ①「通貨ペア」,②「注文種類」,③「参考期間」,④「想定変動幅」,⑤「ポジション方向」及び⑥「対象資産(円)」),それを自動計算して,画面2に遷移し,上記のとおりの,新規指定レートと利食いレートとして表れる,これで十分なのだ!という認定なのですね。
 要するに,クレーム上も, 利幅と値幅の情報を顧客が入力しないといけない,とはなっていなかった,わけです。
(参考のために,クレーム1Bのみ示します。
 1B      売買を希望する前記金融商品の種類を選択するための情報と,前記金融商品の売買注文における,注文価格ごとの注文金額を示す情報と,前記金融商品の販売注文価格又は購入注文価格としての一の注文価格を示す情報と,一の前記注文価格の前記金融商品を前記一の注文価格で販売した後に他の価格で購入した場合の利幅又は一の前記注文価格の前記金融商品を前記一の注文価格で購入した後に他の注文価