2018年2月9日金曜日

侵害訴訟 特許 平成29(ワ)5074  東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 特許権に基づく差止等請求事件
裁判年月日
 平成30年1月30日
裁判所名
東京地方裁判所民事第47部    
裁判長裁判官          沖      中      康      人      
裁判官          矢      口      俊      哉      
裁判官           廣   瀨      達      人


「(2)  本件発明に係る特許請求の範囲の記載に加え, 本件明細書の各記載,特に【課題を解決するための手段】として「該円筒回転体の周面部位には前記円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面を配設し,」,「前記円筒回転体に吸い上げられた牌の方向を揃えるため前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」「を設け,前記円筒回転体によって下方位置にて取り上げられた牌は,前記案内部材にそって牌の向きを揃えながら上方に移動する」(段落【0008】)との記載を勘案すると,本件発明の構成要件I及びKは,それぞれ円筒回転体の周面部位に配設された「円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」上で,吸着面からはみ出た牌の部分に「前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」を当接させることによって,牌の向きを揃えるという技術的意義を有するものと認められる(なお,本件明細
書の「図10及び図11を参照して、吸着面401Bに様々な角度にて吸着した牌10が、整列機構500により縦長方向に整列する動作について説明する。案内部材501の入り口付近で吸着面401Bからはみ出た側面が、案内部材先端502に接触して抵抗を受けるが、牌10に埋設されている磁石11の中心が、円筒回転体401に埋設されている磁石401Cの中心に吸引されて回転しながら向きを変え、当該側面が案内部材501の内壁面501Aと並行状態になって整列機構500の内部に進入する。」との実施例の記載(段落【0033】)も上記認定を裏付けるものといえる。)。
 そうすると,本件発明の構成要件Iの「円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」は,吸着面の幅が,牌の横幅(短辺)と同一か,牌の吸着面からはみ出た部分に案内部材を接触させることによって牌の方向を揃えることができる程度に狭くなっていることを意味し,少なくとも牌の縦幅に近似した幅を有する吸着面はこれに含まれないと解するのが相当である。また,構成要件Kの「前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」は,吸着面の幅が上記のようなものであることを前提として,吸着面からはみ出した牌の部分に当接して牌の向きを揃えることができる位置に案内部材を配設することを意味し,少なくとも吸着面の外側の軌道に近似する線よりも内側に配設された案内部材はこれに含まれないと解するのが相当である。
  そこで,まず,構成要件Iの充足性について検討するに,各被告製品の吸着面の幅(円筒回転体の一側端からの幅)が32.6mmであるのに対し,牌の横幅は24.0mm,牌の縦幅は32.9mmであって(乙4及び当事者間に争いがない事実),各被告製品の吸着面の幅はむしろ牌の縦幅に近似するものと認められるから,構成要件Iの「円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」を充足しない。
 これに対し,原告は,①吸着面の幅は牌の横幅より9mmほど長めであるにすぎない,②本件明細書の段落【0009】の記載からすると,円筒回転体の幅が牌の縦幅と略等しい場合にも構成要件Iを充足することが強く示唆され 5 ているなどと主張する。
 しかしながら,まず,上記①について,各被告製品は,吸着面の幅が牌の横幅より9mmも長い一方で牌の縦幅よりわずかに0.3mm短いにすぎないのであるから,円筒回転体の周面部位に配設された「円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面」上で,吸着面からはみ出た牌の部分に「前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」を当接させることによって,牌の向きを揃えるという本件発明の技術的意義(上記(2))を発揮することができない。また,上記②について,被告が指摘する本件明細書の段落【0009】の記載は,「円筒回転体の幅は牌の縦幅と略等しい寸法でよく」としているにすぎず,吸着面の幅が牌の縦幅とほぼ等しい場合に構成要件Iを充足することの根拠となるものとは認め難い(なお,本件明細書の段落【0021】及び図7には,円筒回転体の幅が牌の縦幅と略等しい長さ(l L   )であるのに対し,吸着面の幅が牌の横幅分の長さ(ls  )である実施例が開示されている。)。したがって,原告の主張はいずれも採用の限りでない。
 (4) 次に,構成要件Kの充足性について検討するに,乙2の写真3及び4並びに弁論の全趣旨によれば,各被告製品の案内部材は吸着面の外側の軌道から約5.6mmも内側に配設されていると認められるから,よれば,各被告製品は,構成要件Kの「前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材」も充足しない。 」

【コメント】 
 「自動麻雀卓」の特許権(許第4367956号)の特許権侵害訴訟の事件です。
 特段凄く重要な論点があるわけではないのですが,さまざまに教訓めいたことを得られると思い,取り上げました。

 まずはクレームからです。
「A  各場へ牌を供給するための4つの開口が設けられている天板を有する本体と,
B  磁性体を埋設した牌を攪拌するため前記本体内に設けられた攪拌装置と,
C  前記各場の開口に対応してそれぞれ前記攪拌装置から牌を取り上げる汲上機構と, 
D  該汲上機構によって取り上げられた牌を一方向に整列して送り出すための整列機構と,
E  該整列機構から牌を受け取り所定の整列牌を形成して待機させるための形成・待機機構と,
F  該形成・待機機構で形成され待機している前記整列牌を対応する開口から天板上に上昇させる機構とを備えた自動麻雀卓であって,
G  前記攪拌装置は回転するターンテーブルと外壁とが設けられ,攪拌された牌は前記ターンテーブルの回転により外壁に向かって移動させ,
H  前記牌を取り上げる汲上機構は円筒回転体が設けられ,
I  該円筒回転体の周面部位には前記円筒回転体の一側端から牌の横幅ほどの幅をもつ吸着面を配設し,
J  前記吸着面の中心には磁石を埋没し,前記吸着面に磁気力により牌を吸着して下方から上方に吸い上げるように円筒回転体を回転させ,
K  前記整列機構は,前記円筒回転体に吸い上げられた牌の方向を揃えるため前記吸着面の外側の軌道に沿って配設した案内部材と,  
L  該案内部材の延長上であって前記円筒回転体の頂上付近には前記円筒回転体の吸着面から牌を剥離して前記形成・待機機構に導くための誘導路を設け,
M  前記円筒回転体によって下方位置にて取り上げられた牌は,前記案内部材にそって牌の向きを揃えながら上方に移動するとともに前記誘導路の一端に捕捉されて前記円筒回転体から離脱するようにした
N  ことを特徴とする自動麻雀卓。

 麻雀を卓上でどういうふうにやるかということが分かれば,構成要件Fまでは問題なく理解できると思います。
 しかし,その後は機構が文章化されていますので,図面がないと恐らく理解不可能でしょう。

 ということで,図面を掲示します。
 
 これが汲上機構の斜視図です。

 そして,ポイントとなるのは,構成要件Iの円筒回転体401です。
 これは下の図のようなものです。 
 
 ここに,麻雀パイが吸着され,上の方に汲み上げられるのですが,その位置関係は以下のようになっています。
 
 
 明細書の説明だと,「円筒回転体401は牌10の縦幅と略等しい長さ(lL )の高さ寸法を有した円筒形状をした樹脂材からなり、一側端から牌の横幅分の長さ(ls )の位置には溝401Aが形成されている。」です。
 こうすると何が良いかというと,「スペース的には従来の水平方向に回転する汲上方式とは異なり円筒回転体の幅は牌の縦幅と略等しい寸法でよく,かつ,水平方向の移動は円筒回転体の幅があれば良いから,これらにより,攪拌装置から牌を取り上げる汲上機構を小型にすることができ,結果として,自動麻雀卓の全体が小型,軽量,コンパクトとなり経済的に有利となる。」というわけです。

 つまりは幅の小さい汲上機構ゆえ,小型・コンパクトに出来る!という所がいいのですね。だから,「牌の横幅」 ということが非常に重要だったわけです。
 ところが,被告製品の該当部分は,短い横幅ではなく長い縦幅程度あり・・・つまりは,コンパクトにできていなかったわけです。

 ということで,文言上該当しないのは当然に見えます。

 これは普通は訴訟を提起しないパターンかなあと思います。
 とは言え当事者は常に熱り立つのが前提ですので,本来代理人がうまくコントロールしないといけません。しかし,今回の代理人・・・なかなか厳しいかもしれません。
 ということで,さまざまに教訓めいたことが得られる,ということです。

【追伸】
 控訴審の判決が出ました( 知財高裁平成30(ネ)10018,平成30年7月19日判決)。

 がしかし,基本的に,一審の判決を踏襲した形です。
このような技術的意義に照らせば, 構成要件Iの「牌の横幅ほどの幅」とは,吸着面の幅が,牌の横幅(短辺)と同一か,様々な角度で吸着面に吸着した牌の側面が当該吸着面からはみ出る部分を有し,はみ出た部分に案内部材を接触させることによって牌の方向を揃えることができる程度の幅を意味し,牌の縦幅に近似する幅はこれに含まれないと解すべきである。
 ということですから。

 ま,色々ちょっとしょうがないかなあという事件ですね。