事件番号
事件名
損害賠償請求控訴事件
裁判年月日
平成30年12月18日
裁判所名
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 鶴 岡 稔 彦
裁判官 高 橋 彩
裁判官 寺 田 利 彦
「(3) 原判決4頁11行目末尾に改行の上,次のとおり付加する。
「(5) 被控訴人は,本件特許権の請求項1~7記載の発明(本件各発明を含む。)につき,無効審判請求をしたところ(無効2016-800085号事件。以下「本件無効審判請求」という。),特許庁において,平成29年4月18日付けで「本件審判の請求は成り立たない」旨の審決(以下「本件審決」という。)がされた。
被控訴人は,本件審決についての審決取消訴訟を提起せず,本件審決は同年5月29日に確定した。 」
「(5) 被控訴人は,本件特許権の請求項1~7記載の発明(本件各発明を含む。)につき,無効審判請求をしたところ(無効2016-800085号事件。以下「本件無効審判請求」という。),特許庁において,平成29年4月18日付けで「本件審判の請求は成り立たない」旨の審決(以下「本件審決」という。)がされた。
被控訴人は,本件審決についての審決取消訴訟を提起せず,本件審決は同年5月29日に確定した。 」
「 (2) 無効理由1について
ア 無効理由1は,本件無効審判請求と同じく,乙24公報に記載の主引例と乙25~31の1公報に記載の副引例ないし周知技術に基づいて進歩性欠如の主張をしたものであるから,無効理由1は本件無効審判請求と「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものといえる。そして,本件審決は確定したから,被控訴人は無効理由1に基づいて本件特許の特許無効審判を請求することができない(特許法167条)。
ア 無効理由1は,本件無効審判請求と同じく,乙24公報に記載の主引例と乙25~31の1公報に記載の副引例ないし周知技術に基づいて進歩性欠如の主張をしたものであるから,無効理由1は本件無効審判請求と「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものといえる。そして,本件審決は確定したから,被控訴人は無効理由1に基づいて本件特許の特許無効審判を請求することができない(特許法167条)。
特許法167条が同一当事者間における同一の事実及び同一の証拠に基づく再度の無効審判請求を許さないものとした趣旨は,同一の当事者間では紛争の一回的解決を実現させる点にあるものと解されるところ,その趣旨は,無効審判請求手続の内部においてのみ適用されるものではない。そうすると,侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い,審決取消訴訟を提起せずに無効不成立の審決を確定させた場合には,同一当事者間の侵害訴訟において同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を同法104条の3第1項による特許無効の抗弁として主張することは,特段の事情がない限り,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2条の趣旨に照らし許されないものと解すべきである。
そして,本件において上記特段の事情があることはうかがわれないから,被控訴人が本件訴訟において特許無効の抗弁として無効理由1を主張することは許されない。
そして,本件において上記特段の事情があることはうかがわれないから,被控訴人が本件訴訟において特許無効の抗弁として無効理由1を主張することは許されない。
イ 被控訴人は,特許法104条の3第1項の適用がないとしても,本件特許は無効理由1により無効にされるべきものであるから,本件特許権の行使は衡平の理念に反するし,いわゆるキルビー判決は,特許権を対世的に無効にする手続から当事者を解放した上で衡平の理念を実現するというものであるから,控訴人が被控訴人に対し,本件特許権を行使することは権利の濫用として許されないと主張する。
しかし,被控訴人は,本件訴訟と同一の当事者間において特許権を対世的に無効にすべく無効理由1に基づく無効審判請求を行い,それに対する判断としての本件審決が当事者間で確定し,上記アのとおり,無効理由1に基づいて特許法104条の3第1項による特許無効の抗弁を主張することが許されないのであるから,本件において,控訴人が被控訴人に対して本件特許権を行使することが衡平の理念に反するとはいえず,権利の濫用であると解する余地はない。
(3) 無効理由2について
無効理由2は,無効理由1と主引例が共通であり,本件審決にいう相違点1A及び相違点2Aについて,「生体に印加する直流電源に太陽電池を用いること」が周知技術である,あるいは,副引例として適用できることを補充するために,新たな証拠(乙44公報及び乙45公報)を追加したものといえる。
本件審決は,相違点1B及び相違点2Bに係る構成の容易想到性を否定し,相違点1A及び相違点2Aについては判断していないのであるから,被控訴人が相違点1A及び相違点2Aに関する新たな証拠を追加したとしても,相違点1B及び相違点2Bに関する判断に影響するものではない。
そうすると,無効理由2は,新たな証拠(乙44公報及び乙45公報)が追加されたものであるものの,相違点1B及び相違点2Bの容易想到性に関する被控訴人の主張を排斥した本件審決の判断に対し,その判断を蒸し返す趣旨のものにほかならず,実質的に「同一の事実及び同一の証拠」に基づく無効主張であるというべきである。したがって,本件審決が確定した以上,被控訴人は無効理由2に基づく特許無効審判を請求することができない。
そうすると,無効理由2についても上記(2)アにおいて説示したところが妥当するから,被控訴人が本件訴訟において無効理由2に基づき特許無効の抗弁を主張することは許されないものというべきである。 」
しかし,被控訴人は,本件訴訟と同一の当事者間において特許権を対世的に無効にすべく無効理由1に基づく無効審判請求を行い,それに対する判断としての本件審決が当事者間で確定し,上記アのとおり,無効理由1に基づいて特許法104条の3第1項による特許無効の抗弁を主張することが許されないのであるから,本件において,控訴人が被控訴人に対して本件特許権を行使することが衡平の理念に反するとはいえず,権利の濫用であると解する余地はない。
(3) 無効理由2について
無効理由2は,無効理由1と主引例が共通であり,本件審決にいう相違点1A及び相違点2Aについて,「生体に印加する直流電源に太陽電池を用いること」が周知技術である,あるいは,副引例として適用できることを補充するために,新たな証拠(乙44公報及び乙45公報)を追加したものといえる。
本件審決は,相違点1B及び相違点2Bに係る構成の容易想到性を否定し,相違点1A及び相違点2Aについては判断していないのであるから,被控訴人が相違点1A及び相違点2Aに関する新たな証拠を追加したとしても,相違点1B及び相違点2Bに関する判断に影響するものではない。
そうすると,無効理由2は,新たな証拠(乙44公報及び乙45公報)が追加されたものであるものの,相違点1B及び相違点2Bの容易想到性に関する被控訴人の主張を排斥した本件審決の判断に対し,その判断を蒸し返す趣旨のものにほかならず,実質的に「同一の事実及び同一の証拠」に基づく無効主張であるというべきである。したがって,本件審決が確定した以上,被控訴人は無効理由2に基づく特許無効審判を請求することができない。
そうすると,無効理由2についても上記(2)アにおいて説示したところが妥当するから,被控訴人が本件訴訟において無効理由2に基づき特許無効の抗弁を主張することは許されないものというべきである。 」
【コメント】
発明の名称を「美肌ローラ」とする特許第5230864号の特許権侵害訴訟の事件です。
原告は,近時シックスパッドなどで有名になった株式会社MTGです。
で,今回の訴訟のポイントは,やるなら死ぬまでやれ!ってことだと思います。素っ頓狂な感じですが,おいおい分かります。
まずは,クレームからです。
「1A 柄と,
1B 前記柄の一端に導体によって形成された一対のローラと,
1C 生成された電力が前記ローラに通電される太陽電池と,を備え,
1D 前記ローラの回転軸が,前記柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角に設けられ,
1E 前記一対のローラの回転軸のなす角が鈍角に設けられた,
1F 美肌ローラ。」
図だとこんな感じです。
イメージがわくことと思います。
と言っても,本件,構成要件該当性はあまり問題になってないようですけど。
さて,一審では無効の抗弁により,請求棄却となりました(大阪地裁平成28(ワ)4167号,平成29年8月31日判決)。
「本件発明1は,乙24発明に,乙25公報ないし乙27公報に記載された周知技術,乙29発明の構成を適用することによって容易に発明をすることができたから,進歩性を欠く無効理由を有する。 」
ということでした。
ところが,一転,無効審判では,審判不成立となりました。そして,何故か(おそらく勝ち目がないと踏んだのでしょう。),審判請求人である被告は,審決取消訴訟を提起せず,不成立を確定させたのです。
で,知財高裁は,そのような事情がある場合は,同じ無効理由の侵害訴訟での主張は,信義則違反で許されない!としたのです。
ですので,一旦無効審判を提起したなら,途中でやめるなんてことはできず,死ぬまでやるしかないわけです。
まあとは言え世の中に諦めの良い人もいます。ですが,今回,乙24以外の新しい主引例に基づく無効理由の主張をしておりません。これは解せない所です。諦めの早いのは良いことかもしれませんが,フォローがねえ~。
乙24がダメそうだと自分で思ったなら,それに代わる引例を死に物狂いで探さないと!どうも色々,この事件は被告の戦い方が中途半端でいけませんね。
【追伸】
上記と同趣旨の判決が出ました(知財高裁平成31(ネ)10001等,令和元年6月26日判決)。当事者も似たような所があります。
今回は,特許第5791844号及び特許第5791845号です。
そして, 無効審判は,無効2016-800094,同2016-800095です。両方とも,審決取消訴訟を提起することなく,確定になっております。
そして,判決は,やはり,「特許法167条が同一当事者間における同一の事実及び同一の証拠に基づく再度の無効審判請求を許さないものとした趣旨は,同一の当事者間では紛争の一回的解決を実現させる点にあるものと解されるところ,その趣旨は,無効審判請求手続の内部においてのみ適用されるものではない。そうすると,侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い,審決取消訴訟を提起せずに無効不成立の審決を確定させた場合には,同一当事者間の侵害訴訟において同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を同法104条の3第1項による特許無効の抗弁として主張することは,特段の事情がない限り,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2条の趣旨に照らし許されないものと解すべきである。」 と判示しました。
リーガルマインドここにあり,という感じが実に致します。
【追伸】
上記と同趣旨の判決が出ました(知財高裁平成31(ネ)10001等,令和元年6月26日判決)。当事者も似たような所があります。
今回は,特許第5791844号及び特許第5791845号です。
そして, 無効審判は,無効2016-800094,同2016-800095です。両方とも,審決取消訴訟を提起することなく,確定になっております。
そして,判決は,やはり,「特許法167条が同一当事者間における同一の事実及び同一の証拠に基づく再度の無効審判請求を許さないものとした趣旨は,同一の当事者間では紛争の一回的解決を実現させる点にあるものと解されるところ,その趣旨は,無効審判請求手続の内部においてのみ適用されるものではない。そうすると,侵害訴訟の被告が無効審判請求を行い,審決取消訴訟を提起せずに無効不成立の審決を確定させた場合には,同一当事者間の侵害訴訟において同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由を同法104条の3第1項による特許無効の抗弁として主張することは,特段の事情がない限り,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2条の趣旨に照らし許されないものと解すべきである。」 と判示しました。
リーガルマインドここにあり,という感じが実に致します。