2016年6月15日水曜日

地位確認 平成27(ワ)8615  東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 地位確認請求事件
裁判年月日
 平成28年6月8日
裁判所名
 東京地方裁判所第29部
裁判長裁判官嶋 末 和 秀
裁判官鈴 木 千 帆
裁判官笹 本 哲 朗 
「 (8) 本件各音楽番組のリスラジアプリによる配信構造等について
 本件各音楽番組で使用される楽曲は,FM KENTOが,CDレンタルやiTuneで購入し,FM KENTOは,予めCWLによって調整された1時間単位の放送枠に合わせて,原告ごとに1時間から8時間枠で楽曲を編成して音楽番組(以下「放送音声部分」ともいう。)を制作し,各原告に納入している。FM KENTOが,放送音声部分を制作する際,数曲(7~8曲)の楽曲と数曲の楽曲との間に,MTIが運営する音楽等配信事業の「music.jp」や「リスラジ」のCM(30秒から40秒程度のもの)が流れるように編成し,本件各音楽番組に使用される楽曲はフルサイズ(一つの楽曲の始めから終わりまで)で使用しないで制作していた。また,FM KENTOは,放送音声部分に対応した本件各音楽番組の番組表及びタイムテーブルのテキストデータ(以下「放送番組データ」という。甲53ないし55参照)を作成し,これをMTIの管理する管理システムへと送付することになっており,その放送番組データには,各原告の番組配信開始時刻における各放送局の情報(URLを含む)と本件各音楽番組において放送される楽曲等の文字情報データ等が含まれている。
 各原告は,FM KENTOから納入された音楽番組(放送音声)について,番組送出システムを使用して,地上波放送として放送するところ,地上波放送はアナログの放送音声で送出されるため,地上波放送と同時に,各原告のエンコーダサーバーを使用して,アナログ放送音声をデジタル放送音声にエンコードした上,デジタル放送音声は,エヌ・ティ・ティ・スマートコネクトが提供するインターネット向けマルチデバイス配信サービス「SmartsSTREAM」で使用されるサーバー(番組配信用リアルタイムクラウドサーバー)に送信する。この番組配信用リアルタイムクラウドサーバーは,MTIが,エヌ・ティ・ティ・スマートコネクトから提供を受けているものである。このデジタル放送音声については,ストリーム送信されるため,リスナーが,リスラジアプリを起動・操作して本件各音楽番組を視聴する際,デジタル放送音声については,リスナーの端末(受信機)に一定期間保存することはできない。リスナーが,スマートフォン向け配信及びリスラジパソコン向け配信のデジタル放送音声をストリーミングする際のサーバーのネットワーク上の接続先は「mtist.as.smartstream.ne.jp」である。
 他方,リスナーは,サイマル配信されている放送音声を受信するのと同時に,MTIに送られた放送番組データを通じて,本件各音楽番組において放送されている楽曲等の情報を入手することができる。すなわち,受信機となるリスナーの端末(スマートフォン等)の画面上には,上記の放送番組データにより,「楽曲名」,「アーティスト名」,「ラジオ局名」,「ラジオ局ロゴ」,「番組名」,「番組説明文」などが表示される。例えば,甲第52号証の1の画面では,原告海老名エフエム放送株式会社の放送局名「FMカオン」の提供する「カオン音楽堂」という音楽番組において,現在放送中であることが示される「♪))」のマークとともに,楽曲名「その向こうへ」及びアーティスト名「10-FEET」と画面上表示されるため,リスナーは,現在放送中の楽曲等の情報を入手することができる。
 また,上記のほか,リスラジのウェブサイト上の画面には,画面上部下部に広告主企業のバナー広告が常時表示され,アプリケーション起動時,終了時及び再生時には画面中央部に広告主企業の広告が表示され,楽曲名表示画面上には,常時,広告主企業の広告が表示され,それぞれリスラジアプリのユーザが,当該企業広告を押下すると,広告主側が用意した詳細ページやマーケットに画面が遷移する仕組みになっている。
(以上につき,甲20ないし22,52ないし55,89,90,107,乙12,13及び弁論の全趣旨。枝番号があるものについては,枝番号をすべて含む。)・・・

(1) 争点1(被告の本件更新拒絶は,管理事業法16条にいう「正当な理由がなく」利用の許諾を拒んでいるものとして無効(民法90条)といえるか)について
 前記前提事実及び上記1で認定した事実関係のもとでは,被告による本件更新拒絶は,管理事業法16条所定の正当な理由のない利用の許諾の拒否には当たらないというべきである。以下,理由を述べる。
ア 本件各音楽番組が本件利用許諾契約における「自ら制作し放送するラジオ番組」(自主制作番組)といえるかについて
(ア) 前記1(1)及び(2)において認定したところによれば,各原告は,市区町村の一部の区域において,地域に密着した情報を提供するために制度化されたFM放送局であるコミュニティ放送局を運営するものである。コミュニティ放送局を開設するに当たっては,総務大臣の免許を受けなければならず,特に,コミュニティ放送局が行う放送においては,コミュニティ放送局の特色である地域密着性の確保のため,地域に密着した各種の情報に関する番組等,地域住民の要望に応える放送が,できる限り1週間の放送時間の50%以上を占めていることなどが定められているほか,「自社において制作する放送番組」と「他から供給を受ける放送番組」の時間と比率も定められている。また,一般に,コミュニティ放送における「自社において制作する放送番組」とは,「自社が『制作著作』となるものをいい,「制作著作」とは,「発意と責任を有し,制作に必要な手配をするものとしての権利と責任の主体の表示とする。」と解される(前記1(2)イ)から,コミュニティ放送局である各原告と被告との間の本件利用許諾契約における「自ら制作し放送するラジオ番組」の意義についても,上記コミュニティ放送局の特徴に鑑み,本件各音楽番組が,各原告の発意と責任により制作されたものといえるかどうかという観点から解釈されるべきものといえる。その際,コミュニティ放送事業者が自ら制作し放送する番組は,限定された区域の需要に応える放送を行うためのものであるから,コミュニティ放送事業者が自ら主体となり,放送する番組コミュニティ放送事業者が制作に関する法律上の権利義務が帰属し,制作に関する経済的な収入・支出の主体となって制作するとともに,制作業務の主要な部分を自ら担当することが必要である。
 そこで,本件各音楽番組についてみると,前記のとおり,本件各音楽番組を個々的に見れば,各原告が地上波放送している音楽番組のサイマル配信である一面を有するものの,これらは,すべてリスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルに提供されることを予定されているものであり,1日24時間の放送時間枠及び1週間の放送日までをFM KENTOが調整の上,その放送する音楽番組の内容が決められ,放送音声部分が作成されているものである。しかも,FM KENTOは,当該放送音声部分に対応する放送番組データを作成し,MTIの管理する管理システムだけに提供し,各原告にどのように送付しているかは定かではなく,仮に送付されていたとした場合でも,本来,各原告の依頼によって制作された音楽番組であれば,放送音声データのみならず,サイマル配信を予定している各原告に対して放送番組データを送付すれば足りるのに,これをMTIにも送付していることからみても,本件各音楽番組は,MTIが企画する24時間連続して音楽番組を流すという特徴を有するリスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルの番組編成に合うように作成された音楽番組であり,単に,そのMTIが提供する音楽番組チャンネルの構成の一部にすぎないというべきである。しかも,リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルの配信では,MTIが運営するmusic.jpや24時間音楽番組が流れることを特徴とするリスラジの宣伝は放送されるのに,地域店舗のCMが流れないように本件各音楽番組を編成することもできる(前記1(10)のとおり,実際に,リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じて本件各音楽番組を連続して視聴すると,例えば,Aの放送時間枠(午前11時から12時)の午前11時直前に地域店舗のCMを入れ,直前の放送時間枠を有している放送局Bは,放送時間枠(午前10時から午前11時まで)の午前11時まで音楽を流すように編成することで,Aコミュニティ放送局の放送地域に所在する地域店舗のCM(午前11時直前に放送されているもの)は放送されず,そのまま午前11時にA放送局に切り替わることによって,A放送局の地域店舗のCMが放送されないよう巧妙に編成されていることも認められる。)上,リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルのウェブサイト上にバナー広告が常時現れ,当該広告掲載についての対価をMTIが得ているのであって,各コミュニティ放送局から地上波放送された番組を単にサイマル配信したものとみることはできず,実質的には,MTIの責任において配信されているものとみるべきである。
 この点,原告らにおいても,リスラジのアプリケーションは,ザッピング機能を有していることにより,実質的に視聴者に無料で最新の音楽番組を常時提供することが可能なアプリケーションとなっていることは認めているところ(平成27年5月11日付け訴状訂正申立書10頁)であり,リスラジアプリを通じて本件各音楽番組を視聴したリスナーがリクエスト曲等をリスラジに対して行い,これが番組内容に反映される仕組みも備えていること(前記1(6)エ),リスラジアプリを通じた本件各音楽番組は,地上波のラジオが休止中であっても聴けることをうたっていること(前記1(6)イ),実際に,他のアプリケーションによる地上波放送のサイマル配信が休止中であっても,リスラジアプリの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じてであれば,本件各音楽番組を視聴できる時間帯が認められること(乙20)などからすると,リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じた配信は,単に各コミュニティ放送局が地上波放送をしているラジオ番組をサイマル配信としたものとはいえないというべきである。
 以上を総合すると,リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じた本件各音楽番組の配信は,MTIの発意によるMTIの責任により配信されているものと認められる以上,リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルに提供される本件各音楽番組を,各原告の発意と責任によって制作された番組と認めることはできない。・・・

イ 被告の利用許諾の権限について
(ア) 管理事業法16条において著作物等の利用許諾の拒否を制限する趣旨は,委託者は,管理事業者に対し,利用許諾を積極的に行うことによりなるべく多くの使用料を徴収してもらうことを期待して,著作物等の管理の委託をし,また,管理事業者が利用者の許諾の申込みを自由に拒絶できることとすると,著作物等は代替性が低い場合が多く,利用者側に多大な不都合を生じさせることにもなることから,委託者・利用者双方の利益の保護を図るため,管理事業者に対し,正当な理由がなければ取り扱っている著作物等の利用を拒んではならない義務を課したものである。
 したがって,「正当な理由」がある場合とは,委託者の意思に反する等,利用を拒絶してもやむを得ない理由がある場合をいい,許諾をすることが委託者の意思に反する場合とは,管理委託契約締結の際に,委託者が,環境破壊や飲酒・喫煙の助長につながるような方法による利用を拒絶するように依頼していたなど,特定の態様の利用行為に対して委託者の拒絶の意思が明らかにされている場合,また,許諾をすることが,通常,委託者の合理的意思に反する(委託者であれば通常許諾を望まない)と認められる場合をいうものと解される。
(イ) そして,前記前提事実によれば,管理委託契約約款3条において,管理委託の範囲が定められ,同条(2)ア③で,「コミュニティ放送事業者が自ら制作し放送するラジオ番組(コマーシャルを除く。)」と定められていることが認められるから,被告の利用許諾の権限は,この範囲に限定されているところ,前記のとおり,リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じて配信されることを前提とした本件各音楽番組は,コミュニティ放送事業者が自ら制作し放送するラジオ番組といえないというべきであるから,リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルに提供されることを前提とした本件各音楽番組についての配信に関する利用許諾権限を被告が有していないことは明らかである。
 しかも,被告の管理レコードのサイマル配信にかかる集中管理権限の導入に当たっては,前記1(4)で認定したとおり,被告の管理権限は限定された範囲で開始されたものであり,被告の管理レコードの利用許諾範囲は,利用許諾契約書に記載の配信サイト・配信サーバーのみが対象となっているものである。
 本件についてみると,各原告の利用許諾契約書においては,各原告は,いずれもCSRAのウェブサイトである「サイマルラジオ」を通じたサイマル配信を配信サイトとして掲げているから,この限りにおいて,被告は,被告の管理レコードに関するサイマル配信に係る権限を有し,各原告に対し,被告の管理レコードの利用を許諾していたものであり,リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じて本件各音楽番組を配信することについて,被告が許諾する権限を有していないことは,本件利用許諾契約書上,明らかというべきである。
 この点,原告らは,本件利用許諾契約書に記載が要求されていた配信サーバー・配信サイトには特段の意味はなく,適当に何か書いてあればよい旨の示唆を被告から受けた旨主張し,これに沿う陳述書(甲89,92)なども提出するが,通常,契約書に記載されている事項が,何の意味も持たないということはあり得ず,しかも,被告の管理レコードに係るサイマル配信についての集中管理権限が導入された経緯にかんがみても,配信サーバー等の記載に特段の意味はないという上記原告らの主張は,不合理であり,採用することができない。
さらに,3月6日契約書案は,被告が上記権限内での許諾を前提としたことを明確にするために本件利用許諾契約書の文言に加筆部分①ないし③を加えたものと認められ,その内容に不合理な点はない。
(ウ) 以上のとおり,リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じての本件各音楽番組の配信については,本件利用許諾契約の効力は及ばないものと解されるものの,そもそも,このような配信に係る被告の管理レコードの許諾は,被告に与えられた許諾の権限外であり,利用許諾契約に反するものであることを明確にするため,被告が,本件利用許諾契約の自動更新を阻止するため,本件更新拒絶をし,上記趣旨を明確にした3月6日契約書案(別紙「届出書の記載に係る注意点」と題する書面を含む。)を提示して,新たな契約文言での利用許諾契約締結の申込みの誘引をした被告の対応は,正当なものであり,本件更新拒絶は,管理事業法16条所定の正当な理由のない利用の許諾の拒絶には該当しないというべきである。」

【コメント】
 一週間前くらいに話題になった地域FM局の無料音楽番組について,ネットでのまとめ配信を契約違反と認定した事件の判決です。

 なかなか言葉で説明するのが難しいので,下の図でいかがでしょうか?
  
 つまり,各地域FM局が流した特定の音楽番組(上の図で黄色のハイライトの部分です。)を,リスラジサービス(スマホのアプリが中心のようです。)でまとめて(ザッピング機能),それをリスラジから流す,というわけです。

 そうすると,上記のとおり,24時間,音楽が流れっぱなしってわけです。
 他方,許諾をした日本レコード協会としたら,いやいやいやネットでの配信は認めましたよ,そりゃ認めたけど,それは地域のさらなる地理的状況によってはFMの入りにくい所もあろうから認めただけで,そんな無料音楽アプリの音源にするような場合を含むわけねえーだろ,契約の更新はしねえからな,というわけです。 

 ま,なので,これ著作権の話っぽいですが,実は契約違反,つまりは債務不履行かどうか争われているので,著作権がどうのこうのっていう話は傍系なのです。
 さて,そうすると,もう契約書にどう書いてあったかに尽きるのですが,約款は以下のとおりです。 
「一般社団法人日本レコード協会 ( 以 下「甲」という)とコミュニティ放送事業者(以下「乙」という)は,甲が著作隣接権を管理するレコード(以下,単に「レコード」という)を録音したコミュニティ放送番組(乙が自ら制作し放送するラジオ番組のうち,コマーシャルを除く部分に限る。以下同じ)を放送と同時にインターネット送信することを目的として,複製及び送信可能化することについて,右のとおり契約する。 」

「(許諾)第1条
甲《判決注:被告》は,乙《判決注:各原告》に対し,本契約の有効期間中,乙のコミュニティ放送番組を複製及び送信可能化する方法で管理レコードを利用することにつき,下記①及び②を条件として許諾する。なお,上記許諾には,音楽著作物および実演の利用許諾は含まない。
 ①  送信形式はストリーム送信とすること 
 ②  携帯電話端末向け専用サービスとしての利用を行わないこと 

(禁止事項)第4条
乙は,第1条に定める範囲を超えて,レコードを複製若しくは公衆送信し,又はその利用を第三者に対し再許諾することはできない。(以下略) 」
 また,被告の使用料規定は以下のとおりです。
「「1.放送と同時のストリーム送信を目的とする利用
次に掲げる番組の利用について,年間の包括的利用許諾契約を締結する場合の使用料は以下のとおりとする。
(1)地上放送を行う放送事業者(省略)
(2)コミュニティ放送事業者が自ら制作し放送するラジオ番組(コマーシャルを除く。)・・・  」

 要するに,自社制作番組で,しかもストリーム送信する場合のみ,の許諾というわけです。じゃないと,レコード協会としても,元々の権利者から委託を受けた範囲でしか再許諾できませんので,ここらが限界なわけですね。
 他方,今回のスキームは以上のとおりなのですが, 特定の音楽番組(上の図で黄色のハイライトの部分です。)は,実は,判旨のとおり,元締め的MTIが居て,「本件各音楽番組は,MTIが企画する24時間連続して音楽番組を流すという特徴を有するリスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルの番組編成に合うように作成された音楽番組であり,単に,そのMTIが提供する音楽番組チャンネルの構成の一部にすぎないというべきである。」となります。
 こうすると,人的物的リソースの乏しい地域FM局もそれっぽい音楽番組のラインナップを作ることができますので,いわゆるwin-winの関係ってやつで,このスキームに乗るインセンティブがあります。
 他方,レコード協会としてはたまったもんではありません。難聴地域のためと思って許諾したら,何と無料音楽アプリとして返ってきたのです。まさに恩を仇で返すとはこのこと! 

 確かに,明確に,こういうまとめ番組をしてはいけないと契約書等には書いてません。しかし,契約書の全体を普通の日本語の解釈でみると,そんな無料音楽アプリ用の音楽番組までの許諾が含まれていないことがすぐにわかります。もう一度言います。すぐにわかります。
 私はどちらかというと,中小ベンチャー,しかも新規事業の方を応援したい立場なのですが,今回のはあまりに見切り発車過ぎます。しかも,巧妙な感じがしますね。
 ある意味,地域FMは被害者と言えなくもないのですが,人的物的リソースが足りないからと言って,バカな子供で許されるかというとそうではありません。

 昔から,何かの事業をやるならば,最小限,帳簿と契約書は見れるようにしておかないと,言われているようですが,今回の地域FMにはそのような人は一人も居なかったのでしょうかね。
 ちょっと,拙すぎですね。

【PS】
 追伸です。
 控訴審の判決が出ております。
 知財高裁平成28(ネ)10072号( 平成28年12月22日判決)です。

 控訴審でも何か新しい判示があれば,こちらでも新たに章立てして紹介するのですが,それほどのものではありません。

 ですので,この追伸だけで処理したいと思います。

2016年6月13日月曜日

侵害訴訟 特許 平成26(ワ)28449  東京地裁 請求一部認容


事件番号
事件名
 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日
 平成28年5月26日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官長谷川浩二
裁判官藤原典子
裁判官中嶋邦人
 
「(1)原告は,被告製品の金属板が本件発明における「アンテナ素子」に当たると主張する。
 そこで検討するに,特許請求の範囲の文言上,「アンテナ素子」は少なくともFM放送の信号を増幅するアンプの入力にアンテナコイルを介して接続され(構成要件D,E),アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振する(構成要件F)ものであり,アンテナ素子のみでFM波帯で共振することは要しない。そして,被告製品において金属板と巻線が接続されることによりFM波帯で共振すること(前記前提事実(4)イの構成f)は当事者間に争いがなく,金属板のみあるいは巻線のみではFM波帯で共振しないことを被告は争っていない(甲8,9,乙7参照)。これらの事実によれば,被告製品の金属板は,巻線と接続されることによりFM波帯で共振するものであって,「アンテナ素子」に該当すると解するのが相当である。 
(2)これに対し,被告は,① 被告製品は容量装荷型アンテナであって金属板は容量装荷板であり,コイル装荷型アンテナである本件発明とは原理が全く異なる,② 金属板はその固有共振周波数や減衰幅に照らしFM波帯のアンテナ素子ではあり得ない,③ 共振とは電流量が極大になる現象をいい,金属板が共振しているというためには金属板に流れる電流量が極大でなければならないところ,金属板と巻線を接続しFM波帯で共振している状態において金属板にはほとんど電流が流れていない旨主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができない。
 上記①については,装荷の方法は特許請求の範囲に記載されておらず,金属板がアンテナコイルと接続されることでFM波帯で共振すれば本件発明におけるアンテナ素子に該当するから,装荷方法に違いがあったとしてもそのことが構成要件該当性の判断に影響することはない。
 上記②については,上記(1)のとおりアンテナ素子が単体で共振する必要はないから,この点も金属板がアンテナ素子に該当することを否定する根拠となるものではない。
 上記③についてみるに,被告が行った電磁界シミュレーション(乙12,17)によれば,金属板と巻線が接続されFM波帯で共振している状態の被告製品において金属板部分に流れる電流量が巻線部分に比べかなり少ないということができるが,この実験において観測されたのが電流密度(A/m)であること,実験結果を示す図において金属板の大部分は青色に表示されているが,電流密度が0ではなく1~2であってもそのように表示されることからすれば,上記シミュレーションをもって金属板部分に電流が流れていないとはいえない。この点に関し,被告は鏡像効果により被告製品の金属板に流れる電流はない旨指摘するが,鏡像効果による電流の打消しが完全に生じるのはアンテナがグランド面と平行な場合であるところ(乙13~16),被告製品の金属板のうち完全にグランド面と平行な部分はほとんどなく,相当の部分はグランド面に対し垂直に近い角度にある上(甲8),被告製品が設置されるのはさほど広くない自動車の屋根であるから,鏡像効果により金属板に流れるべき全ての電流が打ち消されるとは考え難い。かえって,証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば,アンテナ
で共振が生じているというとき,電流量が最大になる点は波長及びアンテナの構造に応じて決まるが,その両端に必ず電流量が0となる点があること,電流量の分布はアンテナの構造により緩やかに増減する場合もあれば急激に増減する場合もあること,いずれの場合でも共振は当該アンテナ全体で生じていることが認められる。そうすると,被告製品において金属板と巻線が接続されるとFM波帯で共振する以上,金属板も共振していると認められるのであり,巻線の電流量に比し金属板の電流量が極めて少ないとしても,そのことは金属板の共振を否定する根拠とはならないというべきである。
(3)したがって,被告製品は,構成要件D~Fを充足し,本件発明の技術的範囲に属すると認められる。 」

【コメント】
 報道でもシャークフィンアンテナの特許事件ということで,話題になったものです。
 
 クレームは訂正前で以下のとおりです。
 
A: 車両に取り付けられた際に,車両から約70mm以下の高さで突出するアンテナケースと,
B: 該アンテナケース内に収納されるアンテナ部
C: からなるアンテナ装置であって,
D: 前記アンテナ部は,アンテナ素子と,該アンテナ素子により受信された少なくともFM放送の信号を増幅するアンプを有するアンプ基板とからなり,
E: 前記アンテナ素子の給電点が前記アンプの入力にアンテナコイルを介して接続され,
F: 前記アンテナ素子は前記アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振し,
G: 前記アンテナ素子を用いてAM波帯を受信する
H: ことを特徴とするアンテナ装置。
 
 さて私が注目したのは,構成要件EとFのアンテナコイルの所です。
 
 被告が,「本件発明はコイル装荷型アンテナであり,インダクタンス分の不足するアンテナ素子にアンテナコイルによりインダクタンス分を付加して共振させるものである(本件明細書段落【0017】)。これに対し,被告製品は容量装荷型アンテナであり,対向するグランド面との静電容量(キャパシタンス分)と抵抗成分をアンテナ素子に装荷しアンテナ利得の増加を図るもので,両者は目的も効果も全く異なる。被告製品におけるアンテナ素子は巻線であって,金属板はアンテナ素子ではなく容量装荷板であり,構成要件D~Fを充足しない。 」と主張したからです。
 
 つまり,明細書等の記載からすると,本件特許は,アンテナにコイルを直列接続し,短いアンテナでも利得を稼ぐことのできるコイル装荷型だ,他方被告製品は,アンテナの先の方などに導電性のある板(線でもよいようです。)をつけて,全体の長さを短くできるという容量装荷型だと主張したのですね。
 ただ,この方式は両立するようで,容量装荷型アンテナにコイルを装荷し,更に利得を稼ぐということができるようです。
 
 まあそうすると,本件では,コイルを装荷していることは確かなようですので,文言上は該当するということになりそうです。
 
 あとは,それ以上に明細書の記載などから限定解釈されるような所があるかということになるのですが,容量装荷型と両立はしない,とまでは書かれておらず,判決が特段限定解釈しなかったのもやむを得ない所でしょう。 

 とは言え,被告は,トヨタ,日産,スバル,三菱などへ納入しており,このまま判決を確定させるわけにはいかないでしょう。
 また,無効審判の審決もまだ出ていないようで,そのため,第二幕の知財高裁が,メインイベントとなるような気配です。