2016年11月11日金曜日

侵害訴訟 特許  平成28(ネ)10042  知財高裁 控訴棄却(請求棄却)


事件番号
事件名
 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日
 平成28年10月26日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 髙 部 眞 規 子
裁判官 古 河 謙 一
裁判官 鈴 木 わ か な

「 ウ 「押付部材」の意義
 前記アのとおり,「押付部材」の一態様として「絶縁球」から成るものがあることから,本件明細書には,「押付部材」についても,上記イと同様の内容が開示されているものということができる。
 したがって,「押付部材」は,「球状面からなる球状部」を有するものであり,本件明細書において,小型化の要請にこたえて接触端子の径(幅)を大きくすることなく,コイルバネを流れる電流量を小さくしながら,比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という,本件発明の課題を解決するための構成として,①コイルバネとプランジャーピンとの間に介在するものであり,コイルバネの付勢を受けてその力をプランジャーピンに伝達し,同力を,プランジャーピンの軸方向に作用させてプランジャーピンの突出端部を本体ケースから突出させるとともに,プランジャーピンの軸に対して垂直の方向に作用させてプランジャーピンの大径部を本体ケースの管状内周面に接触させるものであること,②「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内に収容されているので,同傾斜凹部の外周側において大径部を軸方向に延長させた側周部があり,大径部の表面積をより大きくして,大径部をより確実に本体ケースの管状内周面に接触させることが開示されている。
 そして,本件発明は,コイルバネの付勢により,「押付部材」の「球状面からなる球状部」を,プランジャーピンの大径部の「傾斜凹部」に「押圧」することによって,上記付勢に係る力を「押付部材」を介してプランジャーピンに伝達する際,プランジャーピンの軸方向及び軸に対して垂直の方向に作用させるものと解される。
⑵ 構成要件Dの「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」について
・・・
 これらの記載によれば,コイルバネが,押付部材を介して,プランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢することは,プランジャーピンの大径部を確実に本体ケースの管状内周面に接触させつつも,その接触圧力を過度に高めることもないという効果を奏するものであるところ,傾斜凹部の中心軸がプランジャーピンの中心軸とオフセットされている場合,コイルバネがプランジャーピンを上記方向に付勢することを確実なものとするということができる。

⑶ 構成要件Dの「押圧」について
 前記⑴ウ及び⑵アによれば,「押圧」とは,コイルバネの付勢に係る力を「押付部材」を介してプランジャーピンに伝達するものであり,その際,上記力をプランジャーピンの軸方向のみならず,軸に対して垂直の方向に作用させることによって,プランジャーピンの大径部の外側面を本体ケースの管状内周面に接触させるとともに,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させることによって,ブランジャーピンから本体ケースへ確実に電流を流し,前記の本件発明の課題を解決するものであると解される。

⑷ 被告製品の充足性について
ア 被告製品と本件発明との技術的意義の相違について
(ア) 被告製品の構成について
 被告製品は,別紙2のとおり,プランジャーピン,コマ状部材,コイルバネ及び本体ケースによって構成されており,前記第2の2⑸のとおり,本件発明の構成要件AからCを充足するものである。
(イ) 本件発明と被告製品の技術的意義の相違について
 証拠(甲4,甲32の1・2,乙38,54)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の技術的意義につき,以下のとおり認められる。
 プランジャーピンは,その大径部に略円錐面形状を有する傾斜凹部を備えているものであるが,コイルバネにより付勢されて本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するように設計されている。コマ状部材は,導電性を有するものであり,その球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触することによって傾き,本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するように構成されている。プランジャーピン及びコマ状部材が確実に傾いて本体ケースに接触するよう, コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置は,オフセットされている
 このように合計4つの電流経路を確保することにより,被告製品の電気抵抗が低減し,被告製品を流れる電流についてコイルバネを通る経路以外の経路が存在しないという事態が生じる可能性は低くなり,コイルバネに流れる電流量が抑えられる。加えて,コイルバネが●●●●●●●によって被覆されていることから,絶縁性ボールを使用する必要はない。
 他方,本件発明においては,前記⑵のとおり,①傾斜凹部を略円錐面形状とすることによって,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させることができ,それにより,押付部材を介してプランジャーピンに伝達されるコイルバネの付勢に係る力の方向を安定させ,②さらに,傾斜凹部の中心軸をプランジャーピンの中心軸とオフセットさせることにより,コイルバネがプランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢することを確実なものとすることによって,プランジャーピンの大径部を確実に本体ケースの管状内周面に接触させて本体ケースへ確実に電流を流すことを可能とするものである。
 以上によれば,被告製品と本件発明とは,押付部材とプランジャーピンとの接触に関し,技術的意義を異にするものということができる。
 ・・・・
イ 構成要件Dの「押付部材」に該当する構成の有無
 前記アのとおり,被告製品のコマ状部材は,それ自体が本体ケースの内周面に左
右2箇所で接触して
電流経路を確保している。
 他方,前記⑴のとおり,本件明細書において,「押付部材」につき,小型化の要請にこたえて接触端子の径(幅)を大きくすることなく,コイルバネを流れる電流量を小さくしながら,比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という,本件発明の課題を解決するための構成として,「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内に収容されていることが開示されている。本件明細書において,「押付部材」自体が本体ケースに接触して電流経路を確保することは,開示されていないものというべきである。
 したがって,被告製品のコマ状部材は,構成要件Dの「押付部材」に該当しない。
 ほかに,被告製品の構成中,「押付部材」に相当するものはない。
ウ 「押圧」について
 前記アのとおり,被告製品は,プランジャーピン及びコマ部材が確実に傾いて本体ケースに接触するよう,コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置をオフセットしている。被告製品のコマ状部材の球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触することによって傾き,本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するという構成自体からも,通常,コマ状部材の球状部の中心が,プランジャーピン底面の最深位置,すなわち,傾斜凹部の中心軸上に位置することは,考え難い。現に,別紙2は,コイルバネの付勢によって,コマ状部材の球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押し,それによって,プランジャーピンの突出端部が本体ケースから突出するとともに,プランジャーピンの大径部の外側面が本体ケースの内周面に押し付けられている状態であるが,コマ状部材の球状部の中心は,明らかに傾斜凹部の中心軸からずれている。
 よって,コマ状部材の球状部がプランジャーピンの傾斜凹部を押すことは,コマ状部材の球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものではないから,構成要件Dの「押圧」に該当せず,ほかに,被告製品の構成中,「押圧」に該当するものはない。 」

【コメント】
 例の,島野製作所とアップルの特許権侵害訴訟の控訴審の事件です。
 概要などは,一審時にここでもコメントしましたので,そちらを見てください。 

 さて,文言侵害について,ポイントは以下のとおりです。

 本件特許では,電流は,プランジャーピン→本体ケースという風に流れるのです。ですので,押圧部材は,電流の通り道にはなりません。そのため絶縁体でもよいのです。

 他方,被告製品では,電流の,プランジャーピン→コマ状部材→本体ケースという流れがあります( プランジャーピン→本体ケースという流れもあると思います。)。ですので,コマ状部材は絶縁体では困ります。
 
 また,プランジャーピン→本体ケースという流れを確実なものにするために,コマ状部材は偏心しております(下の図が被告製品の断面図)。


 

 ですので,そもそもの技術的思想が異なるのだ!という感じになっております。

 一審の際は,球(本件特許)とマッシュルーム(被告製品)での,形状の違いがクローズアップされておりました。ですので,負けた方としては何とも惜しい所で負けてしまったような感想を持ちがちです。

 しかし,今回の二審は,そもそも技術的思想が違うのだ,はなっから全然違う技術なのだ,と大差の負けを宣告し,もう諦めなさいと言っているように思えます。

 その結果,均等侵害についても,「前記2によれば,本件発明と被告製品は,上記本質的部分において相違することが明らかであるから,均等侵害の成立を認める余地はない。」と,均等の第一要件でも切っております。

 一審の判示からすると,均等の第5要件をクリアできなさそうなのですが,さらに,第1要件すらもクリアできないのだ!もう全く違う技術なのだ! と念押ししております。
 要するに,今回,文言侵害の所で,そもそもの技術的思想が異なるのだと判旨で強調したのは,均等侵害の可能性を潰すためなのでしょう。


 高部部長としては,弁護士に高い金を払って負け試合を延々と続けるよりも,ここら辺で諦めて,本業に邁進した方がいいのでは?というある意味仏心を出したのかもしれません。
 

2016年11月8日火曜日

侵害訴訟 特許 平成28(ワ)15355  東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 特許権侵害に基づく損害賠償請求事件
裁判年月日
 平成28年10月31日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官嶋末和秀
裁判官鈴木千帆
裁判官天野研司

「 原告らは,本件発明1にいう「緩衝剤」には,解離シュウ酸も当然に含まれるから,解離シュウ酸の量が5x10^-5M~1x10^-4Mの範囲内にある被告各製品は,構成要件1B,1F及び1Gをいずれも充足すると主張する。
 これに対し,被告は,オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸イオン(解離シュウ酸)は,本件発明1にいう「緩衝剤」には当たらないと主張し,被告各製品は構成要件1B,1F及び1Gを充足しないとして争っている。
 そこで,解離シュウ酸が,本件発明1の「緩衝剤」に当たるかについて,以下,検討する。
イ 「緩衝剤」の意義について
(ア) 特許発明の技術的範囲は,明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないが,この場合においては,明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載を考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すべきである(特許法70条1項及び2項。ただし,平成14年法律第24号による改正前の規定。)。
(イ) 本件明細書の段落【0022】の記載
 そこで,本件明細書の記載をみると,本件発明1の「緩衝剤」の意義について,本件明細書の段落【0022】には,次の記載がある。
「緩衝剤という用語は,本明細書中で用いる場合,オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。」
 したがって,本件発明1にいう「緩衝剤」は,オキサリプラチン溶液を安定化し,ジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体などの望ましくない不純物の生成を防止するか又は遅延させ得るものをいうものと解される。
 もっとも,上記にいう「不純物の生成を防止するかまたは遅延させ得る」という記載が,具体的にいかなる意義で用いられているかは必ずしも判然としないから,段落【0022】の記載それのみから,組成物中にシュウ酸イオンが存在する限り,それが解離シュウ酸であるか,添加されたシュウ酸又はそのアルカリ金属塩に由来するシュウ酸イオンであるかを問うことなく,直ちに「緩衝剤」に当たると結論づけることはできない。「不純物の生成を防止するかまたは遅延させ得る」との記載がいかなる意義で用いられているかを判断するには,本件明細書の他の箇所の記載内容や,本件優先日当時の技術常識をさらに検討する必要がある。
(ウ) 本件明細書の段落【0031】の記載
 ・・・・
(キ) まとめ
a 以上のとおり,本件明細書が,「オキサリプラチンの従来既知の水性組成物」を従来技術として開示し,これよりも,本件発明1の組成物は「生成される不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体が少ないことを意味する。」と記載していること,解離シュウ酸は,オキサリプラチンが溶液中で分解することにより,ジアクオDACHプラチンと対になって生成されるものであること,本件発明1の発明特定事項として構成要件1Gが限定する緩衝剤のモル濃度の範囲に関する具体的な技術的裏付けを伴う数値の例として,本件明細書は,添加されたシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムの数値のみを記載し,解離シュウ酸のモル濃度を何ら記載していないこと,本件明細書には,専ら,「緩衝剤」を外部から添加する実施例のみが開示されていると解されること,請求項1は,「シュウ酸」と「そのアルカリ金属塩」とを区別して記載し,さらには「緩衝『剤』」という用語を用いていることなどをすべて整合的に説明しようとすれば,本件発明1における「緩衝剤」は,外部から添加されるものに限られるものと解釈せざるを得ない。
 すなわち,本件発明1は,専ら,オキサリプラチン水溶液に,緩衝剤として,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加(外部から付加)することにより,オキサリプラチン溶液中のシュウ酸濃度を人為的に増加させ,平衡に関係している物質の濃度が増加すると,当該物質の濃度が減少する方向に平衡が移動するという原理(ルシャトリエの原理)に従い,結果として,オキサリプラチン溶液中におけるジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体などの望ましくない不純物の量を,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加(外部から付加)しない場合よりも,減少させることを目した発明と把握するべきであり,そのように把握することにより,初めて,本件明細書の段落【0031】が「本発明の組成物は,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定であることが判明しており,このことは,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物の場合よりも本発明の組成物中に生成される不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体が少ないことを意味する。」と記載していることや,本件明細書には,シュウ酸又はシュウ酸ナトリウムを,構成要件1Gが規定する数値のモル濃度だけ,オキサリプラチン溶液に「添加」する実施例のみが開示されていること,さらには,本件明細書に開示された実施例において,解離シュウ酸の量を明記していないことや,他の不純物の量から解離シュウ酸の量を推計することを示唆する記載すらないことなどを整合的に説明できるのである。
 また,オキサリプラチン溶液に,緩衝剤として,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加(外部から付加)して得られたオキサリプラチン溶液組成物は,これを添加しないオキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも,ジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体などの望ましくない不純物の量が減少するから,客観的構成において異なる(すなわち,「物」として異なる。)ことになるということもできる。」

【コメント】
 抗がん剤の特許に関する事件です。特許権者と専用実施権者が,損害賠償金を求めているものです。

 さて,~プラチンというのは白金という意味であり,本件のオキサリプラチンも白金製剤と言われているらしいです。

 クレームは以下のとおりです(訂正後)。
1A :オキサリプラチン,
1B :有効安定化量の緩衝剤および
1C :製薬上許容可能な担体を包含する
1D :安定オキサリプラチン溶液組成物であって,
1E :製薬上許容可能な担体が水であり,
1F :緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,
1G’:1)緩衝剤の量が,以下の:
(a)5x10^-5M~1x10^-2M,
(b)5x10^-5M~5x10^-3M,
(c)5x10^-5M~2x10^-3M,
(d)1x10^-4M~2x10^-3M,または
(e)1x10^-4M~5x10^-4M
の範囲のモル濃度である,
1H’:pHが3~4.5の範囲の組成物,あるいは
1I’:2)緩衝剤の量が,5x10^-5M~1x10^-4Mの範囲のモル濃度である,組成物。


 さて,本件の問題点は,1Fにもある「緩衝剤」のクレーム解釈です。
 原告は,広く, 「外部から添加(混合,付加)されたシュウ酸(溶液中では,シュウ酸イオンの形で存在する。)のみならず,オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸イオン(以下「解離シュウ酸」という。)も当然に含まれる」と主張しました。

 他方,被告製品は,外部からの添加されたシュウ酸を使わず,オキサリプラチンが乖離してして出来たシュウ酸を含んでいるだけでしたので,狭く,「外部から添加(混合,付加)されたシュウ酸(溶液中では,シュウ酸イオンの形で存在する。)のみ」が緩衝剤に当たる,と主張していたわけです。

 そして,裁判所は,上記のとおり,明細書の記載,技術常識,他のクレームの記載,問題となるクレームそのものなどから, 「緩衝剤」のクレーム解釈については,被告の主張の方が妥当だと判断したわけです。それ故,請求は棄却。お金の支払は認められませんでした。

 なお,今回の判旨には,
特許発明の技術的範囲は,明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものではあるが(特許法70条1項。ただし,平成14年法律第24号による改正前の規定。),その用語の解釈に際しては,明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮するものとされているのであり(同条2項。ただし,平成14年法律第24号による改正前の規定。),上記イのとおり,特許請求の範囲を含む本件明細書の記載,さらには技術常識をも斟酌した上で,解離シュウ酸は本件発明にいう「緩衝剤」には当たらないと解釈されるのであるから,「緩衝剤」に当たらない解離シュウ酸を「包含」する被告各製品が本件発明1の技術的範囲に属さないとすることは,請求項1の記載と何ら矛盾するものではない。
 さらには,
原告らの主張は,要するに,本件明細書の段落【0022】の「あらゆる」との語に拘泥し,同段落に記載された「緩衝剤」の意義を極めて形式的に把握して繰り返し主張するにすぎず,既に上記において詳細に検討した本件明細書の他の記載部分や本件優先日当時の技術常識から把握できる本件発明1の技術的思想に目を瞑っているものであって,到底採用することはできない(なお,当然ではあるが,明細書で定義される用語の正確な意義を理解するために明細書の他の部分や技術常識を参酌し,その結果明細書の定義による用語の意義を極めて形式的に把握した場合よりも発明の技術的囲が狭く解されることとなったとしても,これが特許法70条1項及び2項に反するということはないし,特許法施行規則24条,様式29の備考8の趣旨に反するというものでもない。)。
  というようなかなり突っ込んだ判示があります。

 裁判所は原告の主張に相当ウンザリしたのだと思います。

 
  ところで,今回の特許(特許第4430229号)では,今年の3月に東京地裁の民事46部(平成27(ワ)12416)でも,判決が出ております。
 そのときは,今回の判決とは真逆の請求認容でした。被告も同じで(もちろん被告製品も同じ。),そのときは,差し止めだけを求めたものです。

 このブログでも書いております。

 特筆すべきは,結論が真逆ですから,構成要件該当性の「緩衝剤」のクレーム解釈も真逆というわけです。46部では,「外部から添加(混合,付加)されたシュウ酸(溶液中では,シュウ酸イオンの形で存在する。)のみならず,オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸イオン(以下「解離シュウ酸」という。)も当然に含まれる」という原告主張のクレーム解釈をとったわけです。

 つまり,同じ特許,同じ製品なのに,クレーム解釈は,民事29部と民事46部で全くの180°,正反対,真逆!というわけです。いかにクレーム解釈というのが,裁判官の胸先三寸のものかわかります。
 今回,原告が裁判所がウンザリするほどの主張をしたのも,この46部の判決があったからなのでしょう。

 
 

2016年10月24日月曜日

審決取消訴訟 特許 平成26(行ケ)10155  無効審判 不成立審決 請求認容

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成28年10月19日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官清水 節
裁判官片岡早苗
裁判官古庄 研 
 
「(ウ) 食塩濃度の下限値である7w/w%の場合に,本件発明1の課題を解決できることを当業者が認識できるか
 本件発明1が課題を解決できると認識できるといえるためには ,食塩濃度7~9w/w%の全範囲にわたって,上記課題が解決できると認識できることが必要であるところ,食塩濃度が下限値の場合が,食塩による塩味を最も感じにくく,課題解決が最も困難であることは明らかであるから,食塩濃度が下限値の7w/w%である場合について検討する。
a 表1に基づく検討
(a) 前記(イ)のとおり,本件明細書の実施例・比較例から,食塩濃度を9.0w/w%から減少させた場合に,調味料・酸味料を添加しない状態で,塩味がどの程度低下するのかを把握することはできない
 そうすると,食塩濃度9.0w/w%,カリウム濃度が上限値の3.7w/w%である実施例7,9及び11(塩味5,苦み3,総合評価○)から,食塩濃度を低くして7.0w/w%とした場合に,塩味が5という評価からどの程度まで低下するのかを把握することはできず,窒素濃度と窒素/カリウムの重量比を調節しても,塩味が3以上となるものと推認することはできない。
(b) 本件明細書の表1において,比較例14,実施例3,4,5,6,9をみると,食塩濃度9.0w/w%,窒素濃度2w/v%付近の場合に,カリウム濃度が下限付近の1.1w/w%から上限の3.7w/w%まで増加すると,カリウム濃度の増加に依存して,塩味が3から5と向上している。
 しかしながら,本件明細書には,当業者において,カリウム濃度の増加(1.1w/w%→3.7w/w%)による塩味の向上が,食塩濃度の減少(9.0w/w%→7.0w/w%)による塩味の低下を補うに足りるものであることを認識するに足りる記載はないし,このことが技術常識であることを示す証拠も見当たらない。
 そうすると,食塩濃度が9.0w/w%,カリウム濃度が下限値に近い1.1w/w%である実施例3(窒素濃度1.99w/v%,窒素/カリウムの重量比1.62,塩味3,苦み1,総合評価○)において,食塩濃度を7.0w/w%に下げても,カリウム濃度を上限値の3.7w/w%まで増加させれば,塩味が3以上,苦みは3以下となり,総合評価も○となるものと,推認することはできない。
(c) その他本件明細書の表1の実施例・比較例を検討しても,食塩濃度7.0w/w%の場合に,塩味が3以上,苦みが3以下,総合評価が○以上という評価が得られ,本件発明1の課題を解決できることを認識することができる記載は認められない。
b 表2及び表3に基づく検討
 表2及び表3記載の各実施例に基づいて,食塩濃度が8.13~8.21w/w%又は8.32~8.50w/w%において,調味料・酸味料を添加せず,カリウム濃度を上限値の3.7w/w%とした場合に,塩味が3以上,苦みが3以下,総合評価が○以上という評価が得られ,本件発明1の課題が解決できることを,直ちに認識することができないことは,前記(イ)c 及びd のとおりである。
 そうすると,更に食塩濃度を7.0w/w%まで下げた場合において,塩味が3以上,苦みが3以下,総合評価が○以上という評価が得られることを,表2及び表3に基づいて合理的に推認できないことは明らかである。
(エ) 小括
 以上によれば,本件発明1のうち,少なくとも食塩が7w/w%である減塩醤油について,本件出願日当時の技術常識及び本件明細書の記載から,本件発明1の課題が解決できることを当業者は認識することはできず,サポート要件を満たしているとはいえない。 」

【コメント】
 特許の無効審判の不成立審決に対する審決取消訴訟の事案です。そして,珍しく,サポート要件違反であるとして,逆転で審決が取り消されております。

 クレームは以下のとおりです。

【請求項1】食塩濃度7~9w/w%,カリウム濃度1~3.7w/w%,窒素濃度1.9~2.2w/v%であり,かつ窒素/カリウムの重量比が0.44~1.62である減塩醤油。
 
 醤油という,食品ですので,官能検査も重要であり,しかも数値限定発明です。
 
 この清水部長の合議体では, 特段規範を示していませんが,あてはめの部分からは,パラメータ事件の判決であるものと推測されます。
 
 さて,ポイントですが,あてはめなどに先立つ,下記の記載がポイントのように思えます。
 
 明細書には,基準として,
【0027】
〔塩味の指標〕
1:減塩醤油と同等(食塩9w/w%相当)
2:減塩醤油とレギュラー品(通常品)(食塩14w/w%相当)の中間位
3:レギュラー品(通常品)に比べ若干弱い
4:レギュラー品(通常品)と同等
5:レギュラー品(通常品)よりも強い
【0028】
〔苦みの指標〕
1:なし
2:ごくわずかに感じる
3:わずかに感じる
4:感じる
5:強く感じる
【0029】
〔総合評価の判断基準〕
◎:塩味があり,かつ苦味及び異味がない
○:塩味が3以上で,かつ苦みが3以下であり,更に次の何れかに当てはまるもの
・塩味がやや弱く,苦味及び異味が少ない
・塩味がやや弱く,苦味及び異味がない
・塩味があり,苦味及び異味が少ない
△:塩味が3以上,かつ苦味が3以下であるが,異味がある
×:塩味が弱く,かつ/又は苦味・異味がある
」という基準があったようです。
 つまり,数値の基準は,一応数値ですが,通知表の五段階評価同様,まあざっくりこれくらい,という程度のものだったのです。
 
 
 ところが,それをマスでの評価にした際などには,何故か通常の数値と同様,平均等していたようです。このような点を以下のとおり判旨では指摘しております。

ウ 課題と官能評価との関係
(ア) 本件発明1に相当する実施例(実施例1~11)は全て,塩味が3以上,苦みが3以下,総合評価が○以上であり,他方,本件発明1から外れるもの(比較例1~25,実施例26,27)は,塩味,苦み,総合評価のいずれかが前記の官能評価を下回っている。
 そうすると,本件発明1の課題における「食塩濃度が低い(7~9w/w%)にもかかわらず塩味があり,カリウム含量が増加した場合の苦みが低減でき,従来の減塩醤油の風味を改良した」とは,具体的には,「官能評価により,食塩14w/w%相当のレギュラー品(通常品)に比べ若干弱いかそれ以上の塩味であり(塩味3以上),苦みはあったとしてもわずかに感じる程度であり(苦み3以下),かつ,異味が少ないという評価(総合評価○以上)がされること」を意味するものと解される。
(イ) したがって,本件発明1が当該発明の課題を解決できることを,認識できるというためには,本件発明1に係る減塩醤油が,官能評価の結果,塩味と苦みについて上記値を満たし,総合評価においても上記評価をされるものと認識できることが必要である。
(ウ) なお,本件明細書の表1及び表3における官能評価の塩味に関する基準は,食塩濃度9w/w%相当の従来の減塩醤油と同等な場合を「1」,食塩濃度14w/w%相当のレギュラー品と同等な場合を「4」とし,減塩醤油とレギュラー品の中間位を「2」,レギュラー品よりも若干弱い場合を「3」,レギュラー品よりも強い場合を「5」としている(【0027】)。そして,官能評価は10名のパネラーの評価を平均した上で,0.5単位の近似値を算出したものと解されるが(【0026】,【0030】,【0035】参照),上記1から5までの指標は,醤油における食塩濃度又はそれに応じた塩味の程度に正比例した数値となっていない。また,5については塩味がレギュラー品と比較してどの程度強いかにかかわらず,一律5と評価されるため,塩分濃度に換算すると上限のない幅のある範囲に相当する数値といえる。さらに,食塩濃度が9w/w%相当の従来の減塩醤油よりも低い場合の塩味の指標は決められておらず,食塩濃度7w/w%相当の場合の塩味の評価も,食塩濃度9w/w%相当の減塩醤油より若干塩味を感じない場合の塩味の評価もどのように行うのか不明である。加えて,食塩濃度7~9w/w%の間の減塩醤油の塩味が数値上区別されるか否か,1に達していないと感じたパネラーの評価がパネラーの平均値算出時にどのように反映されているかも,不明である
 
 そして,上記の判旨のとおり,多数のパラメータのどれを動かすとどのようになるかということが当業者に分かるようにはなっておらず,明細書記載に穴ぼこが存在すると判断されたようです。

 化学の分野では昔からよくあるサポート要件違反のパターンと言え,この結論はなかなか覆すのが難しいように思えます。

 
 
 


2016年10月21日金曜日

侵害訴訟 著作権 平成28(ネ)10041  知財高裁 控訴一部認容(請求一部認容)


事件番号
事件名
 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日
 平成28年10月19日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 髙 部 眞 規 子
裁判官 古 河 謙 一
裁判官 鈴 木 わ か な

「(1) 著作権の利用主体について
本件店舗において,1審原告管理著作物を演奏(楽器を用いて行う演奏,歌唱)をしているのは,その多くの場合出演者であることから,このような場合誰が著作物の利用主体に当たるかを判断するに当たっては,利用される著作物の対象,方法,著作物の利用への関与の内容,程度等の諸要素を考慮し,仮に著作物を直接演奏する者でなくても,ライブハウスを経営するに際して,単に第三者の演奏を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,演奏の実現における枢要な行為をしているか否かによって判断するのが相当である(最高裁昭和59年(オ)第1204号同63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁,最高裁平成21年(受)第788号同23年1月20日第一小法廷判決・民集65巻1号399頁等参照)
(2) 1審被告らの演奏主体性について
 前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(1)ないし(3))のとおり,本件店舗は,ライブの開催を伴わずにバーとして営業する場合もあるものの,ライブの開催を主な目的として開設されたライブハウスであり,本件店舗の出演者は,1審被告Y2も含め,1審原告管理著作物を演奏することが相当程度あり,本件店舗においては,1審原告管理著作物の演奏が日常的に行われている(なお,1審被告らは,平成28年4月8日,本件店舗の運営方針をバー営業を主とするものに改めたとして,今後は,演奏者が1審原告との間で個別の許諾を得ない限り,1審原告管理著作物の演奏を認めない方針である旨出演予定者に告知しているが,後記7(2)のとおり,同日以降も,1審原告管理著作物の演奏がされている。)。
 また,前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(1)ないし(3))のとおり,1審被告らは,共同して,ミュージシャンが自由に演奏する機会を提供するために本件店舗を設置,開店したこと,本件店舗にはステージや演奏用機材等が設置されており,出演者が希望すればドラムセットやアンプなどの設置された機材等を使用することができること,本件店舗が,出演者から会場使用料を徴収しておらず,ライブを開催することで集客を図り,ライブを聴くために来場した客から飲食代として最低1000円を徴収していることからすれば,本件店舗は,1審原告管理著作物の演奏につき,単に出演者の演奏を容易にするための環境等を整備しているにとどまるものではないというべきである。
 そして,1審被告Y1は,本件店舗の経営者である。また,前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(1)ないし(3)及び(5))のとおり,1審被告Y2は,自らを本件店舗の経営者と認識しているものではないものの,①本件店舗の開店・運営のための資金を提供し,本件店舗の賃貸借契約の連帯保証人となり,本件店舗に自らを契約者とする固定電話を設置し,自らのバンド名を本件店舗の名称として使用することを決定し,ミュージシャン仲間らとともに,本件店舗に無償で,ライブに不可欠な音響設備等を提供するなど,本件店舗の開店に積極的に関与したこと,②また,本件店舗の開店前には20組ほどのバンドやグループなどのミュージシャン仲間にライブバーが開店することを伝えて出演するよう声をかけ,本件店舗開店当初は単独でブッキング(電子メール等で出演申込みを受け付ける業務)を行っていたこともあり,さらに,自らのブログ等において本件店舗や本件店舗のライブの宣伝活動をし,本件店舗のアルバイト募集の記事,本件店舗におけるライブの様子を紹介する記事等を掲載するなどしているほか,本件店舗のチラシを1審被告Y2の所属するロックバンドの所属事務所が印刷しているのであって,本件店舗の経営に積極的に関与していること,③本件店舗が,出演者に自由に演奏させるという1審被告Y2の意思に沿った運営をしていること,④さらには,本件調停において,1審被告Y2は,平成24年6月11日以降の使用料については演奏した作品に分配される仕組みを採りたいと述べ,「社交場利用楽曲報告書」に記載をして演奏楽曲を報告すること及び「積算算定額による包括許諾契約」によって支払をする旨述べたり,「社交場利用楽曲報告書」への記載のあり方について1審原告と折衝したりするなど,自ら本件店舗のライブを主催する者として振る舞っていたことからすれば,1審被告Y2においても,1審被告Y1とともに,本件店舗の共同経営者としてその経営に深く関わっていることが認められる。これらの事実を総合すると,1審被告らは,いずれも,本件店舗における1審原告告管理著作物の演奏を管理・支配し,演奏の実現における枢要な行為を行い,それによって利益を得ていると認められるから,1審原告管理著作物の演奏主体(著作権侵害主体)に当たると認めるのが相当である。」

「1審被告らは,自ら制作したオリジナル曲を演奏することは,1審原告に著作権管理を信託している著作者自身が許諾しているのであるから,不法行為に当たらないと主張する。
 しかし,前記1の認定事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第4の1(7)イ)のとおり,1審原告と著作権信託契約を締結した委託者は,その契約期間中,全ての著作権及び将来取得する全ての著作権を,信託財産として1審原告に移転しているから,1審原告管理著作物の著作権者は,1審原告である。そうすると,利用者が誰であっても,1審原告の許諾を得ずに1審原告管理著作物を利用した場合には,当該利用行為は著作権侵害に当たるといわざるを得ない。
 このことは,著作権信託契約約款11条が,自作曲の自己利用に関し,著作物の関係権利者の全員の同意を得た自己利用(委託者がその提示につき対価を得る場合を除く。)については,あらかじめ受託者の承諾を得て,管理委託の範囲についての留保又は制限をすることができると定めていることからも,裏付けられるところである。
 以上のとおり,演奏者が1審原告に著作権管理を信託した楽曲を演奏する場合であっても,1審原告の許諾を得ない楽曲の演奏が,1審原告の著作権侵害に当たることは明らかであり,1審原告には使用料相当額の損害の発生が認められるから,著作権侵害の不法行為が成立する。」

【コメント】
 著作権の事件の紹介は久々かもしれません。

 さて,この事件は,その昔のカラオケ法理(本件でも引用されています。もう一つの判決は,「枢要な行為」でおなじみのロクラクⅡ事件です。)での経過事実と,似たような事件です。

 ただし,登場人物が有名人なわけです。この判旨で言うY2さんがミュージシャンのファンキー末吉さんのようですね。

 控訴審ということで,一審は,東京地裁平成25年(ワ)第28704号(平成28年3月25日判決)です。
 一審判決から半年くらいでの判決ですので, 結論が大きく変わる所はありません。ただし,時間が経過したため,損害賠償額が大きくなっております。

 上記のとおり,事実認定上,法上は,こうならばこうだろうとしか言いようのない話です。
 被告の方は,色々主張して,確かにJASRACの不実な所は垣間見えるわけです。しかし,だからと言って使用料を払わないで済むかというとそうではありません。

 裁判所の裁判官は,潔癖症というか何というか,そのような廉潔性を非常に気にしますので,払ってない以上,このような結論になるのは致し方ない所です。

 ですが,こうなると被告としてももはや戦い続けるしかないわけで,最高裁に行くのは確実でしょう(最高裁が受理するかどうかは別の問題と思えますが。)。それが被告や,JASRACにとっても,良いことかどうかはわかりません。最高裁でも和解はできますので,そうなることがベストに思えます。