2016年11月14日月曜日

侵害訴訟 特許 平成25(ワ)7478  東京地裁 請求一部認容

事件番号
事件名
 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日
 平成28年10月14日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官東海 林 保
裁判官瀬 孝
古谷健二郎裁判官は,差支えのため,署名押印することができない。
 
「(2) 上記のとおり,被告方法は,本件発明の構成要件A,Eに加えて,構成要件Bも充足するが,「第二の割り溝」ではなく,その位置にLMA法のレーザースクライブによる変質部を形成している点で,本件発明の構成要件C及びDと相違する。そこで,以下,LMA法のレーザースクライブにより変質部を形成する被告方法が,本件発明の「第二の割り溝」を用いる場合と均等なものといえるかについて検討する。
(3) 第1要件について
ア 特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。
 そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである。
 ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には,明細書に記載されていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。そのような場合には,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載のみから認定される場合に比べ,より特許請求の範囲の記載に近接したものとなり,均等が認められる範囲がより狭いものとなると解される。
 また,第1要件の判断,すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には,上記のとおり確定される特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,これを備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり,対象製品等に,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても,そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならないと解すべきである(知的財産高等裁判所平成28年3月25日(平成27年(ネ)第10014号)特別部判決参照)。
イ 本件特許請求の範囲は前記第2,1(4)のとおりであり,本件明細書等の記載は前記1(1)のとおりであるところ,本件発明は,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり(段落【0001】),ウェハーを切断する従来技術としては,一般に,刃先をダイヤモンドとするブレードの回転運動により,ウエハーを直接フルカットするか,または刃先巾よりも広い巾の溝を切り込んだ後(ハーフカット),外力によってウエハーを割る装置であるダイサー,又は,同じく先端をダイヤモンドとする針の往復直線運動によりウエハーに極めて細いスクライブライン(罫書線)を例えば碁盤目状に引いた後,外力によってウエハーを割る装置であるスクライバーが使用されていたところ(段落【0003】),サファイア基板は硬く,へき開性を有しないため,従来技術のスクライバーを用いる方法では切断するのが困難であり,ダイサーを用いる方法でもクラック等が発生しやすく,正確に切断できないという課題があったことから(段落【0005】),本件発明においては,ウエハーの半導体層から線幅W1の第一の割り溝をエッチングにより形成すること,サファイア基板側に第二の割り溝を形成すること,第二の割り溝について第一の割り溝の線と合致する位置とすること,第二の割り溝の線幅W2を第一の割り溝の線幅W1よりも狭くすること,それらの割り溝に沿ってウエハーを分離するという工程を採用することで(段落【0007】),クラック等の発生を防止するとともに,ウエハーをまっすぐに割ることが可能となるか,切断線が斜めとなってウエハーが切断された場合でも,p-n接合界面まで切断面が入らずチップ不良が出ることがないので,一枚のウエハーから多数のチップを得ることができるという効果を奏するようにしたものである(段落【0006】,【0012】ないし【0017】)。
 また,本件明細書等には,「第二の割り溝」を形成する方法について,手法は特に問わないとしており,エッチング,ダイシング,スクライブ等の手法を用いることが可能であるとされ,このうち,線幅を狭くすることが可能であるなどの理由から,スクライブが特に好ましいとするにとどまっており(段落【0009】),「第二の割り溝」に関して,その形成の方法は特に限定されていない。
 そして,本件においては,本件明細書等に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分であるという事情は認められない。
 以上のような,本件特許の特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から導かれる本件発明の課題,解決方法,その効果に照らすと,本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり,半導体層側にエッチングにより第一の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部分を形成し,サファイア基板側にも何らかの方法により第二の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部分を形成するとともに,それらの位置関係を一致させ,サファイア基板側の線幅を狭くした点にあると認めるのが相当であり,サファイア基板側に形成される第二の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部分が,空洞として溝になっているかどうか,また,線状の部分の形成方法としていかなる方法を採用するかは上記特徴的部分に当たらないというべきである。
ウ 被告方法は,前記2で認定したように,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり,半導体層側にエッチングにより切断に資する線状の部分を形成し,サファイア基板側にもLMA法のレーザースクライブによって切断に資する線状の変質部を形成するとともに,それらの位置関係を一致させ,サファイア基板側の線幅を狭くしているのである。
 そして,前記2(1)イで説示したとおり,LMA法でサファイア基板を加工した場合,溶融領域が発生し急激な冷却で多結晶化し,この多結晶領域は多数のブロックに分かれるが,加工領域中央に実質の幅が極端に狭い境界が発生し,この表面に垂直な境界線の先端に応力集中するので割れやすくなることが認められる。
 そうすると,被告方法は本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を共通に備えているものと認められる。したがって,本件発明と被告方法との相違部分は本質的部分ではないというべきである。 」

【コメント】
 青色発光ダイオードのようなサファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層したデバイスのダイシングというかスクライブブレーク方法の発明についての特許権侵害訴訟の事案です。
 
 クレームは以下のとおりです。
「A サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハーから窒化ガリウム系化合物半導体チップを製造する方法において,
B 前記ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に,第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程と,
前記ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合致する位置で,第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第二の割り溝を形成する工程と
D 前記第一の割り溝および前記第二の割り溝に沿って,前記ウエハーをチップ状に分離する工程とを具備することを特徴とする
E 窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法。」
 
 ポイントは構成要件Cですね。
 半導体系の発明の場合,ウェーハにチップをたくさん形成するのですが,最後にはそれを切り離さないといけません。精度が悪いとその切り取り線の部分を多めに大きなマージンを持って製造しないといけません。じゃないと切り取り線からよれて,チップ自体に傷がつく可能性があります。 

 普通の半導体の場合は,シリコンウェーハなので,電動ノコの精密版と言えるダイシング(超薄くて硬いやすり)でぶった切っております。東京精密やディスコのダイサーが有名です。
 
 ところが,上記の判旨のとおり,サファイア上のガリヒ素デバイスではダイシングが使えないのですね。二層構造ですので,剥がれるのです。
 
 ということで,人為的に溝(スクライブ)を付け,その溝にそって外力を加える(ブレイク)スクライブブレークという方式が取られたわけです。 

 でポイントのCは,その溝のうち,サファイア側の溝は半導体側の溝より細いということです。
 こうすると,精度よくブレイクできたのでしょう。
 
 
  こんな感じです。
 

 他方,被告製品の方はこんな感じです。
 
 
 
 被告製品は売られているものですから,すでに切り離された後のものです。
 で,図のとおり,溝っぽい跡はあるのですが,どうやら,これは溝ではなく,「LMA法のレーザースクライブによる断面V字形状の変質部分(断面V字状変質部)が残存して
おり,その幅は約5ないし8μmである。 」だったわけです。
 要するに熱をかけて単結晶のサファイアを多結晶のサファイアに変成し,脆弱にするというものです。
 
 とは言え,こうすると,溝なぞできません。多結晶の領域ができるだけですので。
 
 ですので,そういうことで文言侵害はなかったものの,均等侵害が問題になったわけです。
 
 で,判旨のとおり,本質的部分をかなり広くとり,今回は物理的な溝でなくてもOKとしたわけです。
 
 しかしどうなのでしょうか。物理的な溝とレーザービームによる変成は相当な物理的な違いがあります。熱による変成を嫌う場合もあると思うのですね(例えば,金属配線については熱に弱いですから。 )。

 ですので,H25の提訴でもう3年以上経っているだろうとは思いますが,これで決着しないでしょう。知財高裁では別の判断も有り得る所だと思います。
 
 とくに,均等侵害の第4第5要件については,「均等の法理の適用が除外されるべき場合である第4要件及び第5要件については,対象製品等について均等の法理の適用を否定する者が主張立証責任を負うと解するのが相当であるところ,本件において,被告らは,第4要件及び第5要件について何ら主張していない。
 したがって,被告方法は第4要件及び第5要件を充足すると認められる。
」という判示もありますのでね。
  

 まあなんと言いますか,あまりに,プロパテント過ぎる判決のような感が致します。

2016年11月11日金曜日

侵害訴訟 特許  平成28(ネ)10042  知財高裁 控訴棄却(請求棄却)


事件番号
事件名
 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日
 平成28年10月26日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 髙 部 眞 規 子
裁判官 古 河 謙 一
裁判官 鈴 木 わ か な

「 ウ 「押付部材」の意義
 前記アのとおり,「押付部材」の一態様として「絶縁球」から成るものがあることから,本件明細書には,「押付部材」についても,上記イと同様の内容が開示されているものということができる。
 したがって,「押付部材」は,「球状面からなる球状部」を有するものであり,本件明細書において,小型化の要請にこたえて接触端子の径(幅)を大きくすることなく,コイルバネを流れる電流量を小さくしながら,比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という,本件発明の課題を解決するための構成として,①コイルバネとプランジャーピンとの間に介在するものであり,コイルバネの付勢を受けてその力をプランジャーピンに伝達し,同力を,プランジャーピンの軸方向に作用させてプランジャーピンの突出端部を本体ケースから突出させるとともに,プランジャーピンの軸に対して垂直の方向に作用させてプランジャーピンの大径部を本体ケースの管状内周面に接触させるものであること,②「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内に収容されているので,同傾斜凹部の外周側において大径部を軸方向に延長させた側周部があり,大径部の表面積をより大きくして,大径部をより確実に本体ケースの管状内周面に接触させることが開示されている。
 そして,本件発明は,コイルバネの付勢により,「押付部材」の「球状面からなる球状部」を,プランジャーピンの大径部の「傾斜凹部」に「押圧」することによって,上記付勢に係る力を「押付部材」を介してプランジャーピンに伝達する際,プランジャーピンの軸方向及び軸に対して垂直の方向に作用させるものと解される。
⑵ 構成要件Dの「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」について
・・・
 これらの記載によれば,コイルバネが,押付部材を介して,プランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢することは,プランジャーピンの大径部を確実に本体ケースの管状内周面に接触させつつも,その接触圧力を過度に高めることもないという効果を奏するものであるところ,傾斜凹部の中心軸がプランジャーピンの中心軸とオフセットされている場合,コイルバネがプランジャーピンを上記方向に付勢することを確実なものとするということができる。

⑶ 構成要件Dの「押圧」について
 前記⑴ウ及び⑵アによれば,「押圧」とは,コイルバネの付勢に係る力を「押付部材」を介してプランジャーピンに伝達するものであり,その際,上記力をプランジャーピンの軸方向のみならず,軸に対して垂直の方向に作用させることによって,プランジャーピンの大径部の外側面を本体ケースの管状内周面に接触させるとともに,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させることによって,ブランジャーピンから本体ケースへ確実に電流を流し,前記の本件発明の課題を解決するものであると解される。

⑷ 被告製品の充足性について
ア 被告製品と本件発明との技術的意義の相違について
(ア) 被告製品の構成について
 被告製品は,別紙2のとおり,プランジャーピン,コマ状部材,コイルバネ及び本体ケースによって構成されており,前記第2の2⑸のとおり,本件発明の構成要件AからCを充足するものである。
(イ) 本件発明と被告製品の技術的意義の相違について
 証拠(甲4,甲32の1・2,乙38,54)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の技術的意義につき,以下のとおり認められる。
 プランジャーピンは,その大径部に略円錐面形状を有する傾斜凹部を備えているものであるが,コイルバネにより付勢されて本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するように設計されている。コマ状部材は,導電性を有するものであり,その球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触することによって傾き,本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するように構成されている。プランジャーピン及びコマ状部材が確実に傾いて本体ケースに接触するよう, コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置は,オフセットされている
 このように合計4つの電流経路を確保することにより,被告製品の電気抵抗が低減し,被告製品を流れる電流についてコイルバネを通る経路以外の経路が存在しないという事態が生じる可能性は低くなり,コイルバネに流れる電流量が抑えられる。加えて,コイルバネが●●●●●●●によって被覆されていることから,絶縁性ボールを使用する必要はない。
 他方,本件発明においては,前記⑵のとおり,①傾斜凹部を略円錐面形状とすることによって,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させることができ,それにより,押付部材を介してプランジャーピンに伝達されるコイルバネの付勢に係る力の方向を安定させ,②さらに,傾斜凹部の中心軸をプランジャーピンの中心軸とオフセットさせることにより,コイルバネがプランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢することを確実なものとすることによって,プランジャーピンの大径部を確実に本体ケースの管状内周面に接触させて本体ケースへ確実に電流を流すことを可能とするものである。
 以上によれば,被告製品と本件発明とは,押付部材とプランジャーピンとの接触に関し,技術的意義を異にするものということができる。
 ・・・・
イ 構成要件Dの「押付部材」に該当する構成の有無
 前記アのとおり,被告製品のコマ状部材は,それ自体が本体ケースの内周面に左
右2箇所で接触して
電流経路を確保している。
 他方,前記⑴のとおり,本件明細書において,「押付部材」につき,小型化の要請にこたえて接触端子の径(幅)を大きくすることなく,コイルバネを流れる電流量を小さくしながら,比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という,本件発明の課題を解決するための構成として,「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内に収容されていることが開示されている。本件明細書において,「押付部材」自体が本体ケースに接触して電流経路を確保することは,開示されていないものというべきである。
 したがって,被告製品のコマ状部材は,構成要件Dの「押付部材」に該当しない。
 ほかに,被告製品の構成中,「押付部材」に相当するものはない。
ウ 「押圧」について
 前記アのとおり,被告製品は,プランジャーピン及びコマ部材が確実に傾いて本体ケースに接触するよう,コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置をオフセットしている。被告製品のコマ状部材の球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触することによって傾き,本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するという構成自体からも,通常,コマ状部材の球状部の中心が,プランジャーピン底面の最深位置,すなわち,傾斜凹部の中心軸上に位置することは,考え難い。現に,別紙2は,コイルバネの付勢によって,コマ状部材の球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押し,それによって,プランジャーピンの突出端部が本体ケースから突出するとともに,プランジャーピンの大径部の外側面が本体ケースの内周面に押し付けられている状態であるが,コマ状部材の球状部の中心は,明らかに傾斜凹部の中心軸からずれている。
 よって,コマ状部材の球状部がプランジャーピンの傾斜凹部を押すことは,コマ状部材の球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものではないから,構成要件Dの「押圧」に該当せず,ほかに,被告製品の構成中,「押圧」に該当するものはない。 」

【コメント】
 例の,島野製作所とアップルの特許権侵害訴訟の控訴審の事件です。
 概要などは,一審時にここでもコメントしましたので,そちらを見てください。 

 さて,文言侵害について,ポイントは以下のとおりです。

 本件特許では,電流は,プランジャーピン→本体ケースという風に流れるのです。ですので,押圧部材は,電流の通り道にはなりません。そのため絶縁体でもよいのです。

 他方,被告製品では,電流の,プランジャーピン→コマ状部材→本体ケースという流れがあります( プランジャーピン→本体ケースという流れもあると思います。)。ですので,コマ状部材は絶縁体では困ります。
 
 また,プランジャーピン→本体ケースという流れを確実なものにするために,コマ状部材は偏心しております(下の図が被告製品の断面図)。


 

 ですので,そもそもの技術的思想が異なるのだ!という感じになっております。

 一審の際は,球(本件特許)とマッシュルーム(被告製品)での,形状の違いがクローズアップされておりました。ですので,負けた方としては何とも惜しい所で負けてしまったような感想を持ちがちです。

 しかし,今回の二審は,そもそも技術的思想が違うのだ,はなっから全然違う技術なのだ,と大差の負けを宣告し,もう諦めなさいと言っているように思えます。

 その結果,均等侵害についても,「前記2によれば,本件発明と被告製品は,上記本質的部分において相違することが明らかであるから,均等侵害の成立を認める余地はない。」と,均等の第一要件でも切っております。

 一審の判示からすると,均等の第5要件をクリアできなさそうなのですが,さらに,第1要件すらもクリアできないのだ!もう全く違う技術なのだ! と念押ししております。
 要するに,今回,文言侵害の所で,そもそもの技術的思想が異なるのだと判旨で強調したのは,均等侵害の可能性を潰すためなのでしょう。


 高部部長としては,弁護士に高い金を払って負け試合を延々と続けるよりも,ここら辺で諦めて,本業に邁進した方がいいのでは?というある意味仏心を出したのかもしれません。
 

2016年11月8日火曜日

侵害訴訟 特許 平成28(ワ)15355  東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 特許権侵害に基づく損害賠償請求事件
裁判年月日
 平成28年10月31日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官嶋末和秀
裁判官鈴木千帆
裁判官天野研司

「 原告らは,本件発明1にいう「緩衝剤」には,解離シュウ酸も当然に含まれるから,解離シュウ酸の量が5x10^-5M~1x10^-4Mの範囲内にある被告各製品は,構成要件1B,1F及び1Gをいずれも充足すると主張する。
 これに対し,被告は,オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸イオン(解離シュウ酸)は,本件発明1にいう「緩衝剤」には当たらないと主張し,被告各製品は構成要件1B,1F及び1Gを充足しないとして争っている。
 そこで,解離シュウ酸が,本件発明1の「緩衝剤」に当たるかについて,以下,検討する。
イ 「緩衝剤」の意義について
(ア) 特許発明の技術的範囲は,明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないが,この場合においては,明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載を考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すべきである(特許法70条1項及び2項。ただし,平成14年法律第24号による改正前の規定。)。
(イ) 本件明細書の段落【0022】の記載
 そこで,本件明細書の記載をみると,本件発明1の「緩衝剤」の意義について,本件明細書の段落【0022】には,次の記載がある。
「緩衝剤という用語は,本明細書中で用いる場合,オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。」
 したがって,本件発明1にいう「緩衝剤」は,オキサリプラチン溶液を安定化し,ジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体などの望ましくない不純物の生成を防止するか又は遅延させ得るものをいうものと解される。
 もっとも,上記にいう「不純物の生成を防止するかまたは遅延させ得る」という記載が,具体的にいかなる意義で用いられているかは必ずしも判然としないから,段落【0022】の記載それのみから,組成物中にシュウ酸イオンが存在する限り,それが解離シュウ酸であるか,添加されたシュウ酸又はそのアルカリ金属塩に由来するシュウ酸イオンであるかを問うことなく,直ちに「緩衝剤」に当たると結論づけることはできない。「不純物の生成を防止するかまたは遅延させ得る」との記載がいかなる意義で用いられているかを判断するには,本件明細書の他の箇所の記載内容や,本件優先日当時の技術常識をさらに検討する必要がある。
(ウ) 本件明細書の段落【0031】の記載
 ・・・・
(キ) まとめ
a 以上のとおり,本件明細書が,「オキサリプラチンの従来既知の水性組成物」を従来技術として開示し,これよりも,本件発明1の組成物は「生成される不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体が少ないことを意味する。」と記載していること,解離シュウ酸は,オキサリプラチンが溶液中で分解することにより,ジアクオDACHプラチンと対になって生成されるものであること,本件発明1の発明特定事項として構成要件1Gが限定する緩衝剤のモル濃度の範囲に関する具体的な技術的裏付けを伴う数値の例として,本件明細書は,添加されたシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムの数値のみを記載し,解離シュウ酸のモル濃度を何ら記載していないこと,本件明細書には,専ら,「緩衝剤」を外部から添加する実施例のみが開示されていると解されること,請求項1は,「シュウ酸」と「そのアルカリ金属塩」とを区別して記載し,さらには「緩衝『剤』」という用語を用いていることなどをすべて整合的に説明しようとすれば,本件発明1における「緩衝剤」は,外部から添加されるものに限られるものと解釈せざるを得ない。
 すなわち,本件発明1は,専ら,オキサリプラチン水溶液に,緩衝剤として,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加(外部から付加)することにより,オキサリプラチン溶液中のシュウ酸濃度を人為的に増加させ,平衡に関係している物質の濃度が増加すると,当該物質の濃度が減少する方向に平衡が移動するという原理(ルシャトリエの原理)に従い,結果として,オキサリプラチン溶液中におけるジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体などの望ましくない不純物の量を,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加(外部から付加)しない場合よりも,減少させることを目した発明と把握するべきであり,そのように把握することにより,初めて,本件明細書の段落【0031】が「本発明の組成物は,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定であることが判明しており,このことは,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物の場合よりも本発明の組成物中に生成される不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体が少ないことを意味する。」と記載していることや,本件明細書には,シュウ酸又はシュウ酸ナトリウムを,構成要件1Gが規定する数値のモル濃度だけ,オキサリプラチン溶液に「添加」する実施例のみが開示されていること,さらには,本件明細書に開示された実施例において,解離シュウ酸の量を明記していないことや,他の不純物の量から解離シュウ酸の量を推計することを示唆する記載すらないことなどを整合的に説明できるのである。
 また,オキサリプラチン溶液に,緩衝剤として,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加(外部から付加)して得られたオキサリプラチン溶液組成物は,これを添加しないオキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも,ジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体などの望ましくない不純物の量が減少するから,客観的構成において異なる(すなわち,「物」として異なる。)ことになるということもできる。」

【コメント】
 抗がん剤の特許に関する事件です。特許権者と専用実施権者が,損害賠償金を求めているものです。

 さて,~プラチンというのは白金という意味であり,本件のオキサリプラチンも白金製剤と言われているらしいです。

 クレームは以下のとおりです(訂正後)。
1A :オキサリプラチン,
1B :有効安定化量の緩衝剤および
1C :製薬上許容可能な担体を包含する
1D :安定オキサリプラチン溶液組成物であって,
1E :製薬上許容可能な担体が水であり,
1F :緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,
1G’:1)緩衝剤の量が,以下の:
(a)5x10^-5M~1x10^-2M,
(b)5x10^-5M~5x10^-3M,
(c)5x10^-5M~2x10^-3M,
(d)1x10^-4M~2x10^-3M,または
(e)1x10^-4M~5x10^-4M
の範囲のモル濃度である,
1H’:pHが3~4.5の範囲の組成物,あるいは
1I’:2)緩衝剤の量が,5x10^-5M~1x10^-4Mの範囲のモル濃度である,組成物。


 さて,本件の問題点は,1Fにもある「緩衝剤」のクレーム解釈です。
 原告は,広く, 「外部から添加(混合,付加)されたシュウ酸(溶液中では,シュウ酸イオンの形で存在する。)のみならず,オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸イオン(以下「解離シュウ酸」という。)も当然に含まれる」と主張しました。

 他方,被告製品は,外部からの添加されたシュウ酸を使わず,オキサリプラチンが乖離してして出来たシュウ酸を含んでいるだけでしたので,狭く,「外部から添加(混合,付加)されたシュウ酸(溶液中では,シュウ酸イオンの形で存在する。)のみ」が緩衝剤に当たる,と主張していたわけです。

 そして,裁判所は,上記のとおり,明細書の記載,技術常識,他のクレームの記載,問題となるクレームそのものなどから, 「緩衝剤」のクレーム解釈については,被告の主張の方が妥当だと判断したわけです。それ故,請求は棄却。お金の支払は認められませんでした。

 なお,今回の判旨には,
特許発明の技術的範囲は,明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものではあるが(特許法70条1項。ただし,平成14年法律第24号による改正前の規定。),その用語の解釈に際しては,明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮するものとされているのであり(同条2項。ただし,平成14年法律第24号による改正前の規定。),上記イのとおり,特許請求の範囲を含む本件明細書の記載,さらには技術常識をも斟酌した上で,解離シュウ酸は本件発明にいう「緩衝剤」には当たらないと解釈されるのであるから,「緩衝剤」に当たらない解離シュウ酸を「包含」する被告各製品が本件発明1の技術的範囲に属さないとすることは,請求項1の記載と何ら矛盾するものではない。
 さらには,
原告らの主張は,要するに,本件明細書の段落【0022】の「あらゆる」との語に拘泥し,同段落に記載された「緩衝剤」の意義を極めて形式的に把握して繰り返し主張するにすぎず,既に上記において詳細に検討した本件明細書の他の記載部分や本件優先日当時の技術常識から把握できる本件発明1の技術的思想に目を瞑っているものであって,到底採用することはできない(なお,当然ではあるが,明細書で定義される用語の正確な意義を理解するために明細書の他の部分や技術常識を参酌し,その結果明細書の定義による用語の意義を極めて形式的に把握した場合よりも発明の技術的囲が狭く解されることとなったとしても,これが特許法70条1項及び2項に反するということはないし,特許法施行規則24条,様式29の備考8の趣旨に反するというものでもない。)。
  というようなかなり突っ込んだ判示があります。

 裁判所は原告の主張に相当ウンザリしたのだと思います。

 
  ところで,今回の特許(特許第4430229号)では,今年の3月に東京地裁の民事46部(平成27(ワ)12416)でも,判決が出ております。
 そのときは,今回の判決とは真逆の請求認容でした。被告も同じで(もちろん被告製品も同じ。),そのときは,差し止めだけを求めたものです。

 このブログでも書いております。

 特筆すべきは,結論が真逆ですから,構成要件該当性の「緩衝剤」のクレーム解釈も真逆というわけです。46部では,「外部から添加(混合,付加)されたシュウ酸(溶液中では,シュウ酸イオンの形で存在する。)のみならず,オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸イオン(以下「解離シュウ酸」という。)も当然に含まれる」という原告主張のクレーム解釈をとったわけです。

 つまり,同じ特許,同じ製品なのに,クレーム解釈は,民事29部と民事46部で全くの180°,正反対,真逆!というわけです。いかにクレーム解釈というのが,裁判官の胸先三寸のものかわかります。
 今回,原告が裁判所がウンザリするほどの主張をしたのも,この46部の判決があったからなのでしょう。