2018年4月18日水曜日

審決取消訴訟 特許   平成28(行ケ)10182等  知財高裁 不成立審決 請求棄却

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成30年4月13日
裁判所名
 知的財産高等裁判所特別部                        
裁判長裁判官    清 水   節
 裁判官            髙   部   眞 規 子                                 
 裁判官             森   義 之                                 
 裁判官             鶴 岡 稔 彦                                 
 裁判官             森 岡 礼 子  

「 1  本案前の抗弁について
  (1)ア  本件審判請求が行われたのは平成27年3月31日であるから,審判請求に関しては同日当時の特許法(平成26年法律第36号による改正前の特許法)が適用されるところ,当時の特許法123条2項は,「特許無効審判は,何人も請求することができる(以下略)」として,利害関係の存否にかかわらず,特許無効審判請求をすることができる旨を規定していた(なお,冒認や共同出願違反に関しては別個の定めが置かれているが,本件には関係しないので,触れないこととする。この点は,以下の判断においても同様である。)。
 このような規定が置かれた趣旨は,特許権が独占権であり,何人に対しても特許権者の許諾なく特許権に係る技術を使用することを禁ずるものであるところから,誤って登録された特許を無効にすることは,全ての人の利益となる公益的な行為であるという性格を有することに鑑み,その請求権者を,当該特許を無効にすることについて私的な利害関係を有している者に限定せず,広く一般人に広げたところにあると解される。
 そして,特許無効審判請求は,当該特許権の存続期間満了後も行うことができるのであるから(特許法123条3項),特許権の存続期間が満了したからといって,特許無効審判請求を行う利益,したがって,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益が消滅するものではないことも明らかである。
イ  被告は,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する特許権の存続期間満了後の取消しの訴えについて,東京高裁平成2年12月26日判決を引用して,訴えの利益が認められるのは当該特許権の存在による審判請求人の法的不利益が具体的なものとして存在すると評価できる場合のみに限られる旨主張する。
 しかし,特許権消滅後に特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益が認められる場合が,特許権の存続期間が経過したとしても,特許権者と審判請求人との間に,当該特許の有効か無効かが前提問題となる損害賠償請求等の紛争が生じていたり,今後そのような紛争に発展する原因となる可能性がある事実関係があることが認められ,当該特許権の存在による審判請求人の法的不利益が具体的なものとして存在すると評価できる場合のみに限られるとすると,訴えの利益は,職権調査事項であることから,裁判所は,特許権消滅後,当該特許の有効・無効が前提問題となる紛争やそのような紛争に発展する可能性の事実関係の有無を調査・判断しなければならない。そして,そのためには,裁判所は,当事者に対して,例えば,自己の製造した製品が特定の特許の侵害品であるか否かにつき,現に紛争が生じていることや,今後そのような紛争に発展する原因となる可能性がある事実関係が存在すること等を主張することを求めることとなるが,このような主張には,自己の製造した製品が当該特許発明の実施品であると評価され得る可能性がある構成を有していること等,自己に不利益になる可能性がある事実の主張が含まれ得る。
 このような事実の主張を当事者に強いる結果となるのは,相当ではない。
ウ  もっとも,特許権の存続期間が満了し,かつ,特許権の存続期間中にされた行為について,何人に対しても,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存する場合,例えば,特許権の存続期間が満了してから既に20年が経過した場合等には,もはや当該特許権の存在によって不利益を受けるおそれがある者が全くいなくなったことになるから,特許を無効にすることは意味がないものというべきである。
 したがって,このような場合には,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益も失われるものと解される。
エ  以上によると,平成26年法律第36号による改正前の特許法の下において,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益は,特許権消滅後であっても,特許権の存続期間中にされた行為について,何人に対しても,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り,失われることはない。
オ  以上を踏まえて本件を検討してみると,本件において上記のような特段の事情が存するとは認められないから,本件訴訟の訴えの利益は失われていない。
 
(2)  なお,平成26年法律第36号による改正によって,特許無効審判は,「利害関係人」のみが行うことができるものとされ,代わりに,「何人も」行うことができるところの特許異議申立制度が導入されたことにより,現在においては,特許無効審判請求をすることができるのは,特許を無効にすることについて私的な利害関係を有する者のみに限定されたものと解さざるを得ない。 
 しかし,特許権侵害を問題にされる可能性が少しでも残っている限り,そのような問題を提起されるおそれのある者は,当該特許を無効にすることについて私的な利害関係を有し,特許無効審判請求を行う利益(したがって,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益)を有することは明らかであるから,訴えの利益が消滅したというためには,客観的に見て,原告に対し特許権侵害を問題にされる可能性が全くなくなったと認められることが必要であり,特許権の存続期間が満了し,かつ,特許権の存続期間中にされた行為について,原告に対し,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存することが必要であると解すべきである。 」
 
【コメント】
 知財高裁の特別部,いわゆる大合議の事件の判決です。
 
 薬の特許で,「ピリミジン誘導体」とする発明(特許第2648897号)について,複数の請求人が無効審判を提起したところ,請求不成立となり,それに不服の請求人らが審決取消訴訟を提起した事件です。

 時系列だと以下のとおりです。
 
 平成4年5月28日  出願
 平成9年5月16日 設定登録
  平成27年3月31日  本件の無効審判請求(進歩性欠如とサポート要件違反)
 平成28年7月14日  本件の審決(不成立審決)送達
  平成28年8月8日   本件の出訴
 平成29年5月28日  本件の特許お陀仏(延長登録あり)
 平成30年4月13日  本件の判決
 
 つまり,出訴中に,特許がエクスパイアしてしまったわけです。 
 ですので,被告,つまり特許権者はこう主張したのです。

「第3  被告の本案前の抗弁
  1  東京高裁平成2年12月26日判決(平成2年(行ケ)第77号無体財産権関係民事・行政裁判例集22巻3号864頁)は,「本件訴えは,原告が請求した,本件特許を無効とすることについての審判請求は成り立たない旨の本件審決の取消しを求めるものであるから,特許法第178条第2項の規定により,原告が当事者適格を有することは明らかである。しかし,そのことから当然に原告が本件訴えについて,訴えの利益があるということはできない。即ち,原告の請求に係る本件特許無効審判請求は成り立たないとした本件審決は,形式的には原告に不利益な行政処分ではあるが,審決取消訴訟の訴訟要件としての訴えの利益は右のような形式的な不利益の存在では足りず,本件審決が確定することによりその法律上の効果として,原告が実質的な法的不利益を受け,又はそれを受けるおそれがあり,そのため本件審決の取消しによって回復される実質的な法的利益があることを要するものである。したがって,特許権の存続期間中であれば,無効とされるべき特許発明が,特許され保護を受けることによって不利益を被るおそれがあるとして当該特許を無効とすることにつき,審判請求は成立しないとした審決の取消しを求める訴えの利益が認められる者であっても,当該特許の有効か無効かが前提問題となる紛争が生じたこともなく,今後そのような紛争に発展する原因となる可能性のある事実関係もなく,特許権の存在による法的不利益が現実にも,潜在的にも具体化しないままに,当該特許権の存続期間が終了した場合等には,当該特許の無効審判請求は成立しないとした審決の取消しを求める訴えの利益はないとされるというべきである。」と判示している。
2  本件特許権は,平成29年5月28日の経過をもって,既に消滅している(乙76)。
 原告らは,本件特許権存続期間中に,本件特許権の実施行為に相当する行為を行っておらず,被告は損害賠償請求権,告訴権等を有していないことは明らかであるから,原告らの訴えの利益は既に消滅しており,本件訴えは,却下すべきである。 
3(1)  特許権の有効期間中,禁止権の効力を受けていたことは,審決を取り消しても回復できるものではない。
 審決取消訴訟は,行政事件訴訟の一種であり,行政事件訴訟法上,期間の経過により,処分を取り消すことによって何らの法的利益もない場合,訴えの利益がないとするのは判例,通説である。
  (2)  特許法123条3項は,特許権の消滅により,直ちに訴えの利益が失われることがない旨を確認した規定にとどまり,訴えの利益がない場合であっても無効審判,審決取消訴訟を追行できるとする規定ではない。
」

 つまり,先例,判例(東京高裁平成2年12月26日判決)がある,エクスパイアした特許の有効・無効に関する審決取消訴訟というのは,訴えの利益がない!のだ!というわけです。要するに,もうエクスパイアしたんだから,どうでもよくね?ってわけですね。
 
 訴えの利益というのは,難しい定義ですが,審判対象である特定の請求について,本案判決をすることが,特定の紛争解決にとって必要かつ有効,適切であることをいう,というものです。
 つまり,裁判所で判決をすることで,その紛争が終局的に解決できるか否か?というものです。
 
 例えば,私の発明はノーベル賞級のものだ,だから,ノーベル賞が付与されないのが,おかしい!ということで,ノーベル財団か何かをとち狂った教授が訴えた所で,この争いが解決できますかねえ~できません。
 
 特許の場合,よくあるのが,差止請求権不存在確認訴訟を本訴提起して,これに応じて特許権者側が,反訴で通常の特許権侵害訴訟を提起すると,先に本訴提起した不存在確認訴訟は,訴えの利益なし!ということで,却下になります。
 
 この場合,不存在確認訴訟の判決を出すのではなく,特許権侵害訴訟の判決を出せばそれで終わりですので,紛争解決に不要な不存在確認訴訟の方については,却下ですね。
 勘違いしてほしくないのは,このとき,特許権者が面倒臭がって,反訴で特許権侵害訴訟を提起しない場合は,不存在確認訴訟の方は,却下にならない!ということです。 
 
 こういう風に具体的に考えると,訴えの利益というのがどういうものか多少分かるのではないでしょうか。
 
 さて,本件でも,被告の方は,上記のとおり,主張したのですけど,・・・・まあいやでもしかし・・・という感じですけどね。
 
 これに対しては,原告の方は,こう反論しています。 

「第4  本案前の抗弁に対する原告らの主張
  特許権の存続期間が満了した場合であっても,無効審判請求ができることは条文上明らかであり,本件のような薬剤に関する発明について,競業する製薬会社間にその特許の有効性に関して争いがある場合,東京高裁平成2年12月26日判決の事案のように,自らが特許の存続期間中に実施し得たという現実的・具体的な可能性がないに等しいコンサルタント業者が特許の有効性について争う場合とは,事案が異なる。
 原告らは,本件特許権の存続期間中,本件特許権の侵害行為と評価されるような実施行為は行っておらず,その意味において,被告が原告らに対して損害賠償請求権や告訴権等本件特許権の侵害を前提とする各種責任追及に関する法的権利を現時点において有していないことは争わないが,本件特許の禁止権の効力を現実的・具体的に受けていたものであり,しかも,その特許の成立に影響を与えたデータについても疑義があるという事案であるから,その特許の有効性に関する審決の取消訴訟において司法判断を受けられるのは当然である。
」

 どう考えてもこっちの方に理があるという感じがします。
 
 判決も。エクスパイアしたからちゅうて,「損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が」あるじゃろ~だから訴えの利益はあるのじゃ!としたのですね。
 まあ当然という気がします。
 
 知財高裁のサイトには,本件の論点について,
「 ◯平成26年法律第36号による改正前の特許法の下において,特許無効審判請求 を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益は,特許権消滅後であっても,特許権の存続期間中にされた行為について,何人に対しても,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り,失われることはない。
 〇 引用発明として主張された発明が「刊行物に記載された発明」(特許法29条1 項3号) であって,当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合には,特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず,これを引用発明と認定することはできない 。」
とあり,これらが大合議に付した理由のようです。

 ですが,後段の引用発明の認定については,大合議でやること?と思いますし,前段の訴えの利益も実に弱い感じがします。
 合わせ技一本で大合議と判断したのかもしれませんが,これは合わせても,有効程度だと思いますね。
 
 
 

 

2018年4月13日金曜日

審決取消訴訟 特許    平成29(行ケ)10097  知財高裁 不成立審決 請求棄却

事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成30年3月29日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第1部                  
裁判長裁判官       清        水                  節                      
裁判官      中        島        基        至                      
裁判官                岡        田        慎        吾   

         
「   2  取消事由1(相違点1ないし3の判断の誤り)
  (1) 相違点1ないし3について
 所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体又は一の記憶媒体若しくは二の記憶媒体に関して,本件発明1の記憶媒体は,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対して,公知発明1の記憶媒体又は勇士の紋章DDⅡはディスクであり,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」ではない点。
(2) 相違点1ないし3の判断について
 前記1(1)の認定事実によれば,本件発明は,ユーザがシリーズ化された一連のゲームソフトを買い揃えるだけで,標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容を楽しむことを可能とすることによって,シリーズ化された後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。
 これに対し,前記1(2)の認定事実によれば,公知発明は,前作と後作との間でストーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることによって,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編である後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。
 そうすると,公知発明は,少なくとも,前作において実際にプレイしたキャラクタをセーブするとともに,前作のゲームにおいてキャラクタのレベルが16以上となるまでプレイしたという実績(以下「プレイ実績」という。)をセーブすることが,その技術思想を実現するための必須条件となる。そのため,前作において実際にプレイしたキャラクタ及びプレイ実績に係る情報をセーブできない記憶媒体を採用した場合には,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることができなくなる。このことは,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編のゲームをプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すという公知発明の技術思想に反することになる。
 したがって,当業者は,公知発明1のディスクについて,前作において実際にプレイしたゲームのキャラクタ及びプレイ実績をセーブできない記憶媒体,すなわち,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更しようとする動機付けはなく,かえって,このような記憶媒体を採用することには,公知発明の技術思想に照らし,阻害要因があるというべきである。 
 仮に,先行技術発明A等(甲20の1及び2,甲21の1及びの2,甲91,甲92のゲーム等を含む。以下同じ。)のように,2本のゲームのROMカセットを所有し,ゲーム機のスロットに挿入するのみで拡張されたゲーム内容を楽しめるゲームが周知技術であったとしても,これを公知発明1に対して適用するに当たり,公知発明1のディスクを,ゲームのプレイ実績をセーブできない記憶媒体,すなわち,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更すると,上記のとおり,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることができなくなるから,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,後作のゲームの購入を促すという公知発明の技術思想に反することになる。
 また,仮に,ゲームに登場するキャラクタをゲームプログラムにプリセットしておき,プレイヤーがキャラクタを適宜選択できるようにすることが,本件特許の出願当時において,技術常識であったとしても,公知発明1の「キャラクタのレベルが16以上である」というゲームのプレイ実績を,プリセットされたキャラクタに係る情報に変えると,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることができなくなるから,上記と同様に,公知発明の技術思想に反することになる。
 以上によれば,公知発明1において,所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体,一の記憶媒体及び二の記憶媒体を,ディスクから「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更して相違点1ないし3に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえないとした審決の判断に誤りはなく,取消事由1は,理由がない。」

【コメント】
「システム作動方法」という発明の特許権(特許第3350773号。侵害訴訟でいう特許権Aです。)を巡る,無効審判の不成立審決の審決取消訴訟の事件です。

 本件では,審決が不成立審決で,この判決も審決を是認した請求棄却判決ですので,通常このブログではこういうのは取り上げません。ですが,今回は特別な理由があります。それは,特許権侵害訴訟の対抗としての無効審判の請求だったからです。

 本件の被告である特許権者は,カプコンで,原告である無効審判の請求人はコーエーテクモです。

 どこかで聞いたことがありませんか?そう,昨年の暮,大阪地裁で判決が出た特許権侵害訴訟の事件の写し絵です。このブログでも取り上げました。   

       
 このときは,同じ証拠等で,進歩性なしになったのです。
 しかし,無効審判とこの審決取消訴訟ではまったく逆の結論になったわけです。驚きです。

 クレームからです。
「A  ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって,, 
B  上記記憶媒体は,少なくとも,
B-1  所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,
B-2  所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており,
C  上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに対し,ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するように形成されたものであり, 
D  上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,
D-1  上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,
D-2  上記所定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,
E  ゲームシステム作動方法。
」
 下線部は訂正した部分です。

  主引例(公知発明1)等との一致点・相違点です。
「(ア) 一致点
「ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって,
上記記憶媒体は,少なくとも,所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,切換キーとを包含する一の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する二の記憶媒体とが準備されており,
 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり,
 上記二の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,上記ゲーム装置が上記切換キーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,上記切換キーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,ゲームシステム作動方法。」 

(イ) 相違点
  本件発明1と公知発明1は,次の4つの点において相違する。
  ①  相違点1
 所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体に関して,本件発明1の記憶媒体は,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対して,公知発明1の記憶媒体はディスクであり,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」ではない点。
          ②  相違点2
  一の記憶媒体に関して,本件発明1の記憶媒体は,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対して,公知発明1の魔洞戦紀DDⅠはディスクであり,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」ではない点。
          ③  相違点3
  二の記憶媒体に関して,本件発明1の記憶媒体は,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対して,公知発明1の勇士の紋章DDⅡはディスクであり,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」ではない点。
          ④  相違点4
  切換キーが,本件発明1では,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に包含されていることから,「セーブデータ」ではないのに対して,公知発明1では「魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報」が,ディスクにセーブされた「セーブデータ」である点。
      ウ  先行技術発明A
  先行技術発明Aは,次のとおりである。
「MSX本体に「沙羅曼蛇」ROMと「グラディウス2」ROMを装填した状態で「沙羅曼蛇」のゲームをプレイすると,「グラディウス2」ROMに含まれている所定の情報に基づいて,MSX本体に「沙羅曼蛇」ROMのみを装填してゲームをプレイした場合にはなかったステージX「OPERATION X」が現れるとともに,エンディングが異なったものとなる。
」

 ま,要するに,主引例が書き換え可能なディスクに対して,本件発明の方は,書き換え可能じゃないCD-ROMみたいなものを念頭に置いている,というのが一番の違いなわけです。

 で,上の判決よりも無効審判の方がわかりやすいと思いますので,それを引用します。
「公知発明1は,要するに「前作のキャラクタのレベルが16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムが楽しめるようにしてゲームを面白くするという発明」であり,具体的には,後作において,「レベルが最初から2となる」,「神殿で祈るとアイテムが1つ増える」,「神殿で祈った時に,異なるメッセージが表示される」というような拡張ゲームプログラムが楽しめるという発明であるから,公知発明1において,「前作のキャラクタのレベルが16以上であること」は,拡張ゲームプログラムを楽しむための必須の条件である。このことは,キャラクタのレベルが7の場合には,上記のような拡張ゲームプログラムを楽しむことができないようになっていることからも明らかである。
 このように,公知発明1は,少なくとも,前作のキャラクタのレベルが所定値以上となるまで,前作のゲームをプレイしたという,いわば「痕跡」があることが, 後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにするための必須の条件であり,そのような「痕跡」を示す情報を前作の記憶媒体にセーブできることが発明の前提であるから,公知発明1において,前作のゲームをプレイしたという「痕跡」の情報をセーブできない記憶媒体を採用することは想定されていない。 
 また,そのような「痕跡」の情報をセーブできない記憶媒体を採用すると,「前作のキャラクタのレベルが16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムが楽しめるようにしてゲームを面白くする」という公知発明1を実現することができなくなることは明らかである。
 そうすると,ゲームプログラム及び/又はデータを記憶する媒体としてCD-ROMを用いることが本件特許の出願前において周知の技術であったとしても,公知発明1において,ディスクを,キャラクタのレベルの情報が記憶できない記憶媒体,すなわち,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更する動機付けはなく,むしろ,そのような記憶媒体を採用することには,阻害要因がある。
」

 要するに,引用発明の方は,旧作でのレベルを維持することが大事なんだから,セーブできる記憶媒体じゃないと意味がない!というわけです。それをセーブできないCD-ROMと組み合わせるには,阻害要因が生じてしまう!とこんなわけですね。

 これは,さらに審決で分かりやすく説明しています。
 「 上記(ア)で検討したように,公知発明1は,少なくとも,前作のキャラクタのレベルが所定値以上となるまで前作のゲームをプレイしたという「痕跡」を用いることによって,後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにするという発明である。
 すなわち,公知発明1は,「前作のゲームを一定程度プレイしたユーザに対してのみ,後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにするという発明」であって,単に「前作を有していれば,誰にでも,後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにするという発明」ではないから,公知発明1と本件発明1とは,どのような場合に「後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにする」かという発想の点で異なっている。つまり,本件発明1では,ユーザが前作を所有していることを促す,すなわち,「ユーザに前作の購入を促す」ことが目的となっているのに対して,公知発明1では,「ユーザが前作のゲームを一定程度プレイすることを促す」ことが目的となっており,ユーザにどのような行為を促すのかという目的の点で異なっていることから,本件発明1と公知発明1とは,所定のキーを設ける目的が異なるものである。 
 そうすると,「ユーザが前作のゲームを一定程度プレイすることを促す」ことを目的としている公知発明1において,「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件を取り除く理由がなく,「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件を取り除いてしまうと,公知発明1の目的を達成することができなくなるのであるから,そのようにすることには,むしろ阻害要因があるといえる。 」

 本件発明の場合,兎に角連作として買い続ければ,拡張機能がOKになるという発明です。つまり,連作として買わせることに意義を見出すものです。旧作をやりこんだとかは関係ありません。
 他方,引用発明は,旧作をある程度やってもらわないと新作でその面白さの続きを味わうことができない,とこんな感じです。

 なので,ちょっと技術的思想が違う,このように判断されたのもまた仕方の無いことだとは思います。

 とは言え,侵害訴訟の一審からすると,あーあ本当進歩性って裁判官の胸先三寸の世界だなあと思わせるに十分です。価値観的にどっちもありでしょうしね。
 まあしかし,これで侵害訴訟の被告のコーエーテクモとしては,大ピンチです。侵害訴訟は,おそらくこの後損害論に入っているのではないかと推測されます。
 
       

2018年4月11日水曜日

不正競争  平成29(ネ)10083 知財高裁 控訴棄却(請求認容)

事件番号
事件名
 不正競争行為差止請求控訴事件
裁判年月日
 平成30年3月29日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第1部                
裁判長裁判官            清        水                  節                      
裁判官              中        島        基        至                      
裁判官              岡        田        慎        吾  
 
「2  控訴人は,当審において被控訴人商品形態が周知の商品等表示に該当するとし,これに基づいて被控訴人の請求を認容した原審の判断を争うものの,控訴人商品が被控訴人商品と混同を生じさせるなどとした原審の判断については,これを実質的に争っていない。したがって,当審における審理判断の対象は,周知の商品等表示該当性と権利(営業上の利益を含む。以下同じ。)の濫用の有無という点に限られる。」 
 
「2  特別顕著性・周知性について
  控訴人は,識別力調査の結果(乙29及び乙30)によれば,約98%もの一般消費者が被控訴人商品形態を見ても被控訴人商品であると識別できず,また,控訴人と取引関係にある家具等の生活用品取扱業者5社の担当者10名に対して実施した識別力調査の結果(乙31)によれば,10名中9名もの担当者が被控訴人商品形態を見ても被控訴人商品であると識別できなかったとして,被控訴人商品形態は,一般消費者の間でも,事業者の間でも,出所識別力を有していないなどと主張する。
 そこで検討するに,不正競争防止法2条1項1号は,周知性の要件につき,「需要者の間に広く認識されているもの」と規定するところ,上記にいう「需要者」とは,当該商品等の取引の相手方をいうものと解するのが相当である。
 これを前者の識別力調査(乙29及び乙30)についてみると,当該調査の対象者は,控訴人の主張によっても単に二十代から四十代の一般消費者であるというにとどまるところ,控訴人商品及び被控訴人商品が金属製のユニットシェルフの家具であって,一般消費者が卒然と購入に至るような性質の商品でないことを考慮すると,少なくともこれらの商品を含む家具一般について何らかの関心を有する者を,上記にいう需要者と解すべきものである。また,調査における質問内容についても,控訴人商品又は被控訴人商品に関してどの販売店の商品か分かるかを尋ねるなど,具体的な出所の認識を直接の問題とする点で,必ずしも適切なものとはいえない。そうすると,上記識別力調査は,周知性を否定する証拠として適格ではない。
 また,後者の識別力調査(乙31)についてみても,当該調査の対象者は,控訴人自身の取引の相手方の従業員である上,その規模も5社10名にとどまるものであるから,周知性の有無を裏付ける証拠としては,信用性を欠くといわざるを得ない。
  したがって,上記識別力調査は,前記引用に係る原判決の結論を左右するものとはいえず,控訴人の主張は,採用することができない。  
 
 3  商品等表示該当性(競争上似ざるを得ない形態)について
  控訴人は,被控訴人商品形態のうち,原判決が特徴的部分であると認定した2本ポール構造,横桟及びクロスバーは,いずれも競争上似ざるを得ない形態であり,商品等表示には該当しないと主張する。
  そこで検討するに,控訴人は,2本ポール構造及び横桟が,隣接する棚板をそれぞれ1本の支柱に接合することによって,隣接する棚板同士が干渉しない機能にするために,通常選択される構造であると主張するものの,証拠(甲229ないし甲231)及び弁論の全趣旨によれば,棚板の左辺と右辺の金具の位置をずらして横桟の上面の溝にはめ込む構造や,棚板に埋め込まれたパイプの突出部を棚の両側面に位置する板の穴状の溝部分に差し込む構造等によっても,当該機能を果たすことができるものと認められる。そうすると,2本ポール構造が必ずしも上記機能を果たすために通常選択される構造であると認めることはできない。
 また,控訴人は,クロスバー(形態的特徴④)が,棚板の揺れ等を押さえる機能にするために,通常選択される構造であると主張するものの,証拠(甲231)及び弁論の全趣旨によれば,2本の支柱の間に新たな棒材を水平又は斜めに追加する構造等によっても,当該機能を果たすことができるものと認められる。そうすると,クロスバーが必ずしも上記機能を果たすために通常選択される構造であると認めることはできない。
 のみならず,前記引用に係る原判決が説示するとおり,被控訴人商品形態は,被控訴人商品形態①ないし⑥を全て組み合わせた点において独自の特徴が認められるのであって,この点において特別顕著性を獲得したものである。そうすると,各個別の形態が競争上似ざるを得ないものであるという主張は,上記組合せの独自性において特別顕著性を認めた前記引用に係る原判決を正解するものとはいえず,特別顕著性に係る当審の判断を左右するものとはならない。
 したがって,控訴人の主張は,特別顕著性に係る原審の判断を正解しないもの,又はその前提を欠くものであって,採用することができない。 」

【コメント】
 例の良品計画VSカインズの棚の訴訟の事件の第二ラウンドです。報道は,この辺でしょうか。
 3/29の判決でも裁判官か書記官の異動があったのか,随分と裁判所のサイトにアップされるのが遅れたと思います。
 
 さて,どんな形状かは,一審の記事を見てもらうとよいと思います。 

 で,この二審でのポイントは,冒頭に引用したように,これで商品等表示と言えるの?という点に限られたようです。つまり一審でいう争点(1)のみです。

 類似性自体は,色こそ若干違うものの,デッドコピーと言って良いものだったからでしょうね。ここではあまり勝ち目がないと判断したのだと思います。
 ですので,争点(1)で争ったというのは,私が一審時に指摘したとおりで,これは致し方ない所です。
 
 だけど,何かちょっと物足りないかなあという気がします。
 勿論,私は無責任な通りすがりなので,実際の当事者の苦労等はわかりません。でも,商品等表示性を争うなら,①特別顕著性と②周知性,両方とも争って良かったのではないかと思います。
 
 この判決によると,控訴人が争ったのは,②のみのようです。①については,独自の形状であることを認めざるを得なかったのか,実質的な主張がありません。
 そして,上記のとおり,②の主張・立証について,ちょっとかすっているけど,当っていないよ(「需要者」が違う!)と論難されたわけです。 
 
 ①については,意匠公報やカタログ等をしらみつぶしに探して,過去に似たような形状のものを探せるとよいのですけど(一審の判旨も指摘したように,個々の部分部分は既にあるものです。しかし,その組み合わせが,今回の独自品なわけです。),それが無いとなるとなかなか一審の判断を覆すのは難しい所でしょうね。
 
 それに,今回は,この手のデザインにプロパテント志向の清水所長の合議体でしたから。 知財高裁1部係属で控訴人はきっと青ざめたことでしょう。
 もう一ヶ月ちょい待てば清水所長は退官でしたから(今年の5/5で65歳です。),別の流れもあったことと思いますが,まあこの辺はしょうがないかなあと思います。
 
 兎も角も,昨年から続く,意匠法は要らん,商品等表示でみんなGo!という流れにある判決だと思います。
 

2018年4月10日火曜日

審決取消訴訟 特許  平成29(行ケ)10119 知財高裁 無効審決 請求認容

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成30年4月4日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部                        
裁判長裁判官        高      部      眞  規  子                                  
裁判官        山      門              優                                
裁判官        片      瀬              亮 
「 イ  前記アのとおり,甲4には,ブロックパターンの改良に関し,耐摩耗性能を向上せしめるとともに,乾燥路走行性能,湿潤路走行性能及び乗心地性能をも向上せしめた乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供することを目的とする発明が記載されている(前記ア(イ)b)。
 そして,タイヤ踏面の幅方向センター部に踏面幅の50%以内の領域において3本のストレート溝をタイヤ周方向に環状に設けるとともに,これらのストレート溝からタイヤ幅方向に延びる複数の副溝を配置したブロックパターンにおいて,①全溝面積比率を25%とし,かつ,領域W(タイヤ踏面の幅方向(タイヤ径方向)FF’のセンター部における踏面幅Tの50%以内)の全溝面積比率を残りの領域の全溝面積比率の3倍とすること,②ストレート溝aと副溝bとにより区画されたブロック1の表面に独立カーフcをタイヤ幅方向FF’に形成すること,③ブロック
1の各辺とカーフcの各辺のタイヤ幅方向FF’全投影長さ(LG)とタイヤ周方向EE’全投影長さ(CG)との比を「LG/CG=2.5」とすることにより,良好な耐摩耗性及び乗心地性能を享受し,かつ,湿潤路運動性能も低下しないようにしたものである(前記ア(イ)c)。
 したがって,甲4には,「センター領域を含めた全ての領域が溝により複数のブロックに区画されたブロックパターンについて,①全溝面積比率を25%とし,かつ,前記領域(タイヤ踏面の幅方向(タイヤ径方向)FF’のセンター部におけるトレッド踏面幅Tの50%以内の領域)の全溝面積比率を残りの領域の全溝面積比率の3倍となし,②前記ストレート溝と前記副溝とにより区画されたブロックに独立カーフをタイヤ幅方向に形成し,③前記ブロックの各辺と前記カーフの各辺のタイヤ幅方向全投影長さLGとタイヤ周方向の全投影長さCGとの比LG/CG=2.5とする。」との技術的事項,すなわち,甲4技術Aが記載されていると認められる。
ウ  本件審決の認定について
 本件審決は,甲4に甲4技術が記載されていると認定した。
 しかし,前記アのとおり,甲4には,特許請求の範囲にも,発明の詳細な説明にも,一貫して,ブロックパターンであることを前提とした課題や解決手段が記載されている。また,前記イのとおり,甲4には,前記イ①ないし③の技術的事項,すなわち,溝面積比率,独立カーフ,タイヤ幅方向全投影長さとタイヤ周方向全投影長さの比に関する甲4技術Aが記載されている。
 そこで,これらの記載に鑑みると,上記イ①ないし③の技術的事項は,甲4に記載された課題を解決するための構成として不可分のものであり,これらの構成全てを備えることにより,耐摩耗性能を向上せしめるとともに,乾燥路走行性能,湿潤路走行性能及び乗心地性能をも向上せしめた乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供するという,甲4記載の発明の課題を解決したものと理解することが自然である。
 したがって,甲4技術Aから,ブロックパターンを前提とした技術であることを捨象し,さらに,溝面積比率に係る技術的事項のみを抜き出して,甲4に甲4技術が開示されていると認めることはできない。よって,本件審決における甲4記載の技術的事項の認定には,上記の点において問題がある。
⑶  相違点1及び2の容易想到性
 引用例には,引用発明について,①転がり抵抗を低減できるタイヤの提供を目的とすること(【0005】),②外径ODを大きくすることにより,転がり抵抗を低下させることができること(【0042】),③溝面積比率を25%以下とすることにより,タイヤの幅SWを狭くしたことによる横力の弱さを補い,操縦安定性を確保できること(【0009】【0043】),④周方向溝10A,10B,10Cのうちトレッド幅方向の外側に形成されたものほど溝幅が大きいため,周方向への排水性が高められること(【0045】),⑤周方向陸部20A及び20Bがタイヤ周方向に連なる陸部を備えること,すなわち,リブパターンとすることにより,トレッドへの前後入力に対する剛性が高められ,駆動力及び制動力を向上させることができること(【0047】)が記載されている。
 一方,引用例には,タイヤの接地領域について,タイヤ赤道面を中心として接地幅の50%の幅を有する領域をセンター領域として,同領域よりもタイヤ幅方向外側の接地領域と区別することや,センター領域とその他の領域における各溝面積の比率,センター領域の溝面積比率をその他の領域の溝面積比率より高めることにより,タイヤ全体の溝面積比率が比較的低いことによる排水性の低下を抑制し,操縦安定性を向上させることを示す記載はなく,これらのことを示唆する記載もない。
 また,甲4には,タイヤのセンター領域の溝面積比率を残りの領域の溝面積比率の3倍とすることなどを含む甲4技術Aが記載されているが,同技術は,乗用車用空気入りラジアルタイヤがブロックパターンを有することを前提とするものであって,ストレート溝と副溝とにより区画されたブロックに独立カーフをタイヤ幅方向に形成し,ブロックの各辺とカーフの各辺のタイヤ幅方向全投影長さLGとタイヤ周方向の全投影長さCGとの比を「LG/CG=2.5」とするという構成を併せ備えるものである。
 そうすると,当業者において,タイヤ周方向に連なる陸部を備えること,すなわちリブパターンであることに技術的意義を有するタイヤである引用発明において,必然的に周方向に連なる陸部を備えないブロックパターンであることを前提とする甲4技術Aを適用する動機付けがあるとはいえず,むしろ,阻害要因があるというべきである。 」

【コメント】
 「空気入りタイヤ」の発明の特許権(特許第5435175号)について,原告であるブリジストンが無効審判を請求したところ,請求項1~3は無効,請求項4~7は有効という審決が出たため,請求項1~3の判断について被請求人で特許権者である横浜ゴムがその取消しを,他方,請求項4~7の判断について請求人がその取消しを求めた審決取消訴訟の事件です。
 そして,逆転で特許権者に有利な判決が出たわけです。

 クレームからです。
「【請求項1】トレッド部に溝が設けられている空気入りタイヤであって,\前記空気入りタイヤの総幅SWと外径ODとの比であるSW/ODが,\SW/OD≦ 0.3\を満たし,\ISO4000-1:2001に準拠する規定リム幅と前記空気入りタイヤの内径に適合したリム径とを有するリムに前記空気入りタイヤをリム組みし,230kPaで内圧を充填し,かつ前記空気入りタイヤの負荷能力の80%に相当する荷重をかけて平面に接地させたときの接地面の領域を接地領域とした場合,\前記トレッド部の接地領域において,接地面積に対する溝面積比率をGRとし,接地幅をWとし,タイヤ赤道面を中心として接地幅Wの50%の幅を有する領域をセンター領域ACとし,前記センター領域ACでの溝面積比率をGCRとし,前記センター領域ACよりもタイヤ幅方向外側の接地領域をショルダー領域ASとし,前記ショルダー領域ASでの溝面積比率をGSRとした場合に,\前記トレッド部の接地領域は,\10[%]≦GR≦25[%]\0<GSR/GCR≦ 0.6\を満たして形成されており,\前記センター領域ACにおいてタイヤ周方向に延びる周方向溝を少なくとも2本備えるとともに,前記周方向溝に挟まれタイヤ周方向に連なる陸部を少なくとも1つ備えることを特徴とする,\空気入りタイヤ。」

 これだけだとさっぱりわかりません。
 
  この図があれば少しは分かるかもしれません。
 最近の流行りである低燃費タイヤの一つです。
 タイヤの幅を狭くして転がり抵抗を低くし,しかし,そうすると外径は大きくせざるを得ず,それは良いのですが,操縦性が不安定になるらしいです(自転車のタイヤに近くなるイメージですね。)。

 そこで,クレームのとおりの数値限定をすると,課題が解決できるという寸法です。
 で引用発明との一致点・相違点です。
「(ア)  一致点
「トレッド部に溝が設けられている空気入りタイヤであって,\前記空気入りタイヤの総幅SWと外径ODとの比であるSW/ODが,\SW/OD≦0.3\を満たし,\タイヤ周方向に延びる周方向溝を少なくとも2本備えるとともに,前記周方向溝に挟まれタイヤ周方向に連なる陸部を少なくとも1つ備える,空気入りタイヤ。」である点。
(イ)  相違点
a  相違点1
 本件発明1において,「ISO4000-1:2001に準拠する規定リム幅と前記空気入りタイヤの内径に適合したリム径とを有するリムに前記空気入りタイヤをリム組みし,230kPaで内圧を充填し,かつ前記空気入りタイヤの負荷能力の80%に相当する荷重をかけて平面に接地させたときの接地面の領域を接地領域とした場合,\前記トレッド部の接地領域において,接地面積に対する溝面積比率をGRとし,接地幅をWとし,タイヤ赤道面を中心として接地幅Wの50%の幅を有する領域をセンター領域ACとし,前記センター領域ACでの溝面積比率をGCRとし,前記センター領域ACよりもタイヤ幅方向外側の接地領域をショルダー領域ASとし,前記ショルダー領域ASでの溝面積比率をGSRとした場合に,\前記トレッド部の接地領域は,\10[%]≦GR≦25[%]\0<GSR/GCR≦0.6\を満たして形成されている」のに対し,引用発明においてはそのような特定がなされていない点。
b  相違点2
「タイヤ周方向に延びる周方向溝を少なくとも2本備える」箇所に関し,本件発明1において,「前記センター領域ACにおいて」というものであるのに対し,引用発明においてはそのような特定がなされていない点。
  」

 これまたさっぱりわかりません。
 引用発明の図です。
 
 ポイントは,リブパターン(トレッド溝がタイヤの円周方向に配列されたトレッドパターン)のタイヤに関するものであるということです。
 そして,審決は,相違点の部分については,甲4発明というのを用いました。 
 
  こういうやつです。つまり,ブロックパターン(溝により複数のブロックに区画されたトレッドパターン)のタイヤなのですね。
 ということで,リブパターンの技術とブロックパターンの技術は結構違う,そして,甲4の技術が両者共通の技術常識とも言えない,ということで,想到容易でないという判断になったわけです。

 結局,こういう類のものは皆そうなのですが,引例が実は遠い!のですね。
 本件発明と主引例を図だけで比べてみても,結構違います。主引例には,ブロック部分が全くないわけです。とすると,副引例でそこそこ近いものを持ってきても主引例がズッコケてますから,結局動機づけられないとか,本件のように阻害要因ありだとかになってしまいます。
 勿論,遠い主引例でも口八丁手八丁で,上手く丸め込むことが出来る場合もあると思いますが,審判官も裁判官も丸っきりバカじゃないとは思いますので,気づかれる可能性が高い,こういうことなのだと思います。