2015年11月17日火曜日

侵害訴訟 特許 平成26(ワ)27277 東京地裁 請求棄却

事件名
 損害賠償請求事件
裁判年月日
 平成27年10月14日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋 末 和 秀
裁判官 笹 本 哲 朗
裁判官 天 野 研 司

「 1 争点2(被告方法が文言上,本件特許発明の技術的範囲に属するか)について
(1) 事案に鑑み,まず,構成要件F4の充足性について検討する。
(2)ア 本件請求項1の記載によれば,本件特許発明は,「Webサーバ・クライアント・システム」(構成要件A)において実現される「Web-POSネットワーク・システムの制御方法」(構成要件I)に関する発明であって,「Web-POSサーバ・システム」が備えるべき構成を構成要件Cにおいて規定し,「Web-POSクライアント装置」が備えるべき構成を構成要件Dにおいて規定した上で,「Web-POSサーバ・システム」「Web-POSクライアント装置」との基本的な関係について,「Web-POSクライアント装置」上の「Webブラウザ」から「Web-POSサーバ・システム」にアクセスすると,「Web-POSサーバ・システム」から「Web-POSクライアント装置」に対し,当該装置において商品の選択や発注に係るユーザ操作を受け付ける「HTMLリソース」が提供されること,当該ユーザ操作に基づく商品の売上情報が「Web-POSサーバ・システム」において管理されることを構成要件Eにおいて規定し,さらに,「Web-POSクライアント装置」上の「Webブラウザ」による処理が,少なくとも(構成要件F1),「カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程」(構成要件F2),「商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」(構成要件F3)及び「商品注文内容の表示制御過程」(構成要件F4)を含むべきことを構成要件Fにおいて規定していることが認められる。
 これらのうち,「Web-POSクライアント装置」上の「Webブラウザ」による処理について具体的にみると,まず,「カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程」については,①「Web-POSサーバ・システム」から「Web-POSクライアント装置」に取扱商品に関する基礎情報に含まれたカテゴリーに対応する「カテゴリーリスト」を含む「HTMLリソース」が供給され,「Web-POSクライアント装置」の「表示装置」に「カテゴリーリスト」が表示されること,②ユーザが,「Web-POSクライアント装置」の「入力手段」により,表示された上記①の「カテゴリーリスト」からカテゴリーを変更又は入力(選択)するごとに,「Web-POSクライアント装置」が「Web-POSサーバ・システム」に変更又は入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報を含む「HTMLリソース」を要求する「HTTPメッセージ」を送信すること,③「Web-POSサーバ・システム」が上記②で受信した「HTTPメッセージ」に基づき,変更又は入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報を抽出して,「Web-POSクライアント装置」に同情報を含む「HTMLリソース」を送信し,「Web-POSクライアント装置」の「表示装置」に変更又は入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報からなる商品リストが表示されることがそれぞれ規定されているものと認められる(以上につき,構成要件F2)。次に,「商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」においては,④ユーザが「Web-POSクライアント装置」の「入力手段」により,上記③のとおり表示された商品リストにつき商品識別情報を入力(選択)するごとに,「Web-POSクライアント装置」が「Web-POSサーバ・システム」に同商品識別情報に対応する商品基礎情報を問い合わせること,⑤「Web-POSサーバ・システム」が「Web-POSクライアント装置」に上記④のとおり問い合わせられた商品識別情報に対応する商品基礎情報を送信し,「Web-POSクライアント装置」の「表示装置」に商品基礎情報に基づく商品の情報が表示されることがそれぞれ規定されているものと認められる(以上につき,構成要件F3)。さらに,「商品注文内容の表示制御過程」については,⑥上記⑤のとおり表示された商品の情報について,「ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)すると,該数量に基づく計算が行われると共に,前記入力(選択)された商品識別情報と該商品識別情報に対応して取得された上記商品基礎情報に基づく商品の注文明細情報が該入力手段を有する表示装置に表示されると共に,ユーザが,該入力手段によりオーダ操作(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおいて取得(受信)される」ことが規定されているものと認められる(構成要件F4)。
 このように,本件特許発明は,「Web-POSクライアント装置」上の「Webブラウザ」による処理について,その表示制御過程(上記①ないし⑥)を具体的に規定しているところ,「Web-POSクライアント装置」上でされたユーザの操作(例えば,上記②におけるカテゴリーの変更又は入力〔選択〕や,上記④における商品識別情報の入力〔選択〕)に対応して,「Web-POSサーバ・システム」において何らかの処理が行われる場合には,その都度,「Web-POSクライアント装置」から「Web-POSサーバ・システム」に何らかの要求が送信されること(例えば,上記②における「HTMLリソース」を要求する「HTTPメッセージ」の送信,上記④における商品識別情報に対応する商品基礎情報の問い合わせ,上記⑥におけるユーザがオーダ操作に対応する計算結果の注文情報の送信〔「Web-POSサーバー・システムにおいて取得(受信)」する以上,「Web-POSクライアント装置」から送信されていることは,明らかである。〕などがこれに該当する。)が明確に規定されているといえる。
 しかるに,本件請求項1は,「ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)する」操作が行われた場合に,構成要件F4にいう「該数量に基づく計算」を「Web-POSサーバ・システム」に行うよう要求することを規定していないのであるから,「該数量に基づく計算」は,専ら「Web-POSクライアント装置」において行われるものと解するのが相当である。
イ 上記アの解釈は,本件特許の出願手続からも裏付けられるところである。
 すなわち,証拠(乙13ないし18)によれば,本件特許の出願人である原告は,本件特許の出願手続において,当初(分割出願時)は,「数量に基づく計算」を「Web-POSクライアント装置」により行うか,「Web-POSサーバ・システム」により行うかについて,本件特許請求の範囲により規定していなかったところ,第1手続補正により,本件特許請求の範囲に「3)商品オーダ内容の操作に関する表示制御,すなわち,上記Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に表示された上記商品の注文明細情報について,ユーザが,該入力手段により,オーダ内容(数量)を入力(選択)すると,該オーダ内容に基づく計算が上記Web-POSサーバ・システムにおいて行われると共に,その結果が上記Web-POSクライアント装置に通知され,また,ユーザが,該入力装置により,オーダ操作(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する該オーダ内容に基づく計算結果の販売情報または注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおいて取得(受信)されること」との構成を付加しようとしたこと,特許庁審査官は,同構成を付加する補正は,願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく,特許法17条の2第3項に違反するなどの理由により,第1手続補正を同法53条1項により却下する旨の決定をしたこと,原告は,同却下決定を受けて,第2手続補正により,本件特許請求の範囲に「ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)すると,該数量に基づく計算が行われると共に,」との構成を付加したことが認められる。
 上記手続に照らせば,原告は,第2手続補正により,「該数量に基づく計算」が「Web-POSサーバ・システム」により行われ,その結果が「Web-POSクライアント装置」に通知される構成を本件特許請求の範囲から除外したと解するのが相当である(なお,本件明細書の段落【0137】の記載は,上記判断を左右するものではない。)。
 (3) 原告は,構成要件F4にいう「ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)すると,該数量に基づく計算が行われる」とする「計算」について,同計算が行われるのは「Web-POSクライアント装置」側に限定されるものではない旨主張するが,上記説示したところに照らし,採用することができない。
 (4) 以上の解釈を前提に,被告方法が構成要件F4を充足するか検討する。
 証拠(乙1)によれば,被告方法においては,「(ユーザ端末の)表示画面上で,商品の『数量』を入力して『カートに追加』がクリックされると,数量の情報がWebサーバに送られて金額の計算が行われ,計算結果が顧客のコンピュータに送られて表示され・・・ユーザ端末において,入力した数量に基づく金額の計算が行われることはない」(被告システム説明書「4」参照)と認められる(なお,この点は,原告も否定していない。)。
そうすると,仮に,被告システムにおける「ユーザ端末」が本件特許発明にいう「Web-POSクライアント装置」に該当するとしても,構成要件F4にいう「該数量に基づく計算」は,当該ユーザ端末において行われないのであるから,被告方法は,構成要件F4を充足しない。
(5) 以上によれば,構成要件F4以外の各構成要件の充足性につき検討するまでもなく,被告方法が文言上,本件特許発明の技術的範囲に属するということはできない。」
「 2 争点3(被告方法が本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか)について
・・・(2) 事案に鑑み,まず,前記1において認定説示した本件特許発明と被告方法とが相違する部分(構成要件F4と被告方法との相違部分)に関し,均等の第5要件(上記(1)⑤)の成否を検討する。
 前記1(3)において認定説示したとおり,本件特許の出願人である原告は,本件特許の出願手続において,当初(分割出願時)は,「数量に基づく計算」を「Web-POSクライアント装置」により行うか,「Web-POSサーバ・システム」により行うかについて,本件特許請求の範囲により規定していなかったところ,第1手続補正により,本件特許請求の範囲に「3)商品オーダ内容の操作に関する表示制御,すなわち,上記Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に表示された上記商品の注文明細情報について,ユーザが,該入力手段により,オーダ内容(数量)を入力(選択)すると,該オーダ内容に基づく計算が上記Web-POSサーバ・システムにおいて行われると共に,その結果が上記Web-POSクライアント装置に通知され,また,ユーザが,該入力装置により,オーダ操作(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する該オーダ内容に基づく計算結果の販売情報または注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおいて取得(受信)されること」との構成を付加しようとしたこと,特許庁審査官は,同構成を付加する補正は,願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく,特許法17条の2第3項に違反するなどの理由により,第1手続補正を同法53条1項により却下する旨の決定をしたこと,原告は,同却下決定を受けて,第2手続補正により,本件特許請求の範囲に「ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)すると,該数量に基づく計算が行われると共に,」との構成を付加したことが認められ,また,同補正により,本件請求項1記載の発明は,「該数量に基づく計算」が「Web-POSクライアント装置」により行われるものに限定されたと解すべきである。
 そうすると,原告は,本件特許の出願手続において,被告方法のような「該数量に基づく計算」が「Web-POSサーバ・システム」により行われ,その結果が「Web-POSクライアント装置」に通知される構成について,これを明確に認識しながら,あえて本件特許請求の範囲から除外したものと外形的に評価し得る行動をとったものというべきである(なお,原告は,前記1において認定説示した本件特許発明と被告方法とが相違する部分〔構成要件F4と被告方法との相違部分〕以外については,被告方法が本件特許発明と同一であるか,少なくとも均等であると主張しているのであるから,同主張を前提とする限り,被告方法は,客観的にみて,本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものにあたることになるといえる。)。」

【コメント】
 本件は,所謂eコマースの通販サイトに関する発明と言うと早いでしょう。 

 クレームは以下のとおりです。

A:汎用のコンピュータとインターネットを用い,HTTPに基づくHTMLリソースの通信が行われるWebサーバ・クライアント・システムにおいて,
B:商品の販売時点における情報を管理するためのWeb-POSネットワーク・システムの制御方法であって,
C:上記Webサーバ・システムが,取扱商品に関する基礎情報を管理する商品(PLU)マスタDBを備え,該商品(PLU)マスタDBの管理,HTTPメッセージに基づくプログラムの実行及び,HTMLリソースの生成及び供給を行うサーバ装置からなる,Web-POSサーバ・システムであり,
D:上記Webクライアント装置が,タッチパネル,キーボード,マウス,電子ペンからなる入力手段を有する表示装置とWebブラウザを備えた,Web-POSクライアント装置であって,
E:上記Web-POSクライアント装置から,Webブラウザを介し,上記Web-POSサーバ・システムにアクセスすることにより,該Web-POSサーバ・システムから該Web-POSクライアント装置に対し,該Web-POSクライアント装置における商品の選択や発注に係るユーザ操作を受け付けるHTMLリソースが供給されると共に,該Web-POSクライアント装置におけるユーザ操作に基づく商品の売上情報が,該Web-POSサーバ・システムによって管理されるWeb-POSネットワーク・システムにおいて,
F1:上記Webブラウザによる処理が,少なくとも,
F2:1)カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程,すなわち,上記Web-POSサーバ・システムから上記Web-POSクライアント装置に該Web-POSサーバ・システムの商品(PLU)マスタDBにおいて管理されている取扱商品に関する基礎情報に含まれたカテゴリーに対応するカテゴリーリストを含むHTMLリソースが供給され,該供給されたカテゴリーリストを含むHTMLリソースが上記Webブラウザにおいて処理されることで,該Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に該カテゴリーリストが表示され,ユーザが,該入力手段により,該表示されたカテゴリーリストからカテゴリーを変更または入力(選択)するごとに,該変更または入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報を含むHTMLリソースを要求するHTTPメッセージが上記Web-POSサーバ・システムに送信され,該要求のHTTPメッセージに基づき,該Web-POSサーバ・システムの商品(PLU)マスタDBにおいて管理されている取扱商品に関する基礎情報から該変更または入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報が抽出され,該抽出された商品基礎情報を含むHTMLリソースが生成されると共に,該Web-POSクライアント装置に送信され,該送信された商品基礎情報を含むHTMLリソースが該Webブラウザにおいて処理されることで,該変更または入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報からなる商品リストが該入力手段を有する表示装置に表示される,ユーザが所望するカテゴリーの商品(PLU)リストが表示される,カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程,
F3:2)商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程,すなわち,上記Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に表示された上記カテゴリーに対応する上記商品(PLU)リストにおいて,ユーザが,該入力手段により,商品を特定するための商品識別情報を入力(選択)するごとに,該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報が上記Web-POSサーバ・システムに問い合わされて取得され,該取得された商品基礎情報に基づく商品の情報が該入力手段を有する表示装置に表示される,ユーザが所望する商品の情報が表示される,商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程,
F4:3)商品注文内容の表示制御過程,すなわち,上記Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に表示された上記商品の情報について,ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)すると,概数量に基づく計算が行われると共に,前記入力(選択)された商品識別情報と該商品識別情報に対応して取得された上記商品基礎情報に基づく商品の注文明細情報が該入力手段を有する表示装置に表示されると共に,ユーザが,該入力手段によりオーダ操作(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおいて取得(受信)されることになる,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程,を含み,
G:更に,上記Web-POSサーバ・システムにおいて,上記商品(PLU)マスタDBの1レコードが1商品に対応し,該レコードに上記商品識別情報に対応するフィールドが含まれることで,取扱商品に関する商品ごとの基礎情報が,該商品識別情報に対応するフィールドを含むレコードによって管理されることで,上記Web-POSクライアント装置におけるユーザ操作に基づく商品選択時点のPLU情報が,Webブラウザを介して,上記Web-POSサーバ・システムから供給されると共に,該PLU情報に基づく商品ごとの注文情報が,Webブラウザを介して,該Web-POSサーバ・システムにおいてリアルタイムに取得される,Web-POSネットワーク・システムによるPOS管理(商品の販売時点における情報の管理)が実現され,
H:更にまた,上記Web-POSサーバ・システムにおいて,上記Web-POSクライアント装置からリアルタイムで取得(受信)した上記商品の注文情報を売上管理DBに反映する売上管理DBへの登録過程を含むことで,上記Web-POSクライアント装置におけるユーザによる商品の注文操作が,Webブラウザを介するだけで,該商品ごとの注文情報として上記Web-POSサーバ・システムにおいて取得され,該取得された商品ごとの注文情報に基づく売上管理が実現されることを特徴とする
I:Web-POSネットワーク・システムの制御方法。

 クレーム自体は非常に長いのですが,通販サイトでの遷移をそのまま書いたようなクレームですので,それほどわかりにくいということはありません。

 さて,ポイントは,上記F4のところです。要するに,ユーザが買いたい商品をクリックし,それが複数個だった場合等に数量を入力することになるわけですが,その場合の小計の計算はどこでやるのか?っていうところです。

 それは,ウェブを用いたサーバクライアントシステムですので,サーバーでやるか,クライアントでやるか2つに一つです。
 
 とは言え,本来,このような小計をどこでやるかなんて大した話ではありませんから,特許の明細書上,またはクレーム上は,どこでもよい,クライアントでもサーバーでも,または第三サーバーでもよい, とするのが良い明細書というわけです。

 しかし,この事件では,クレーム解釈上,クライアント限定ということにされました。なぜなら,出願人(特許権者)が,審査段階で,サーバーでの計算の場合について限定する補正をしようとしたところ,新規事項追加ということでその補正は却下され,代わりに,今のようなクレーム,すなわち,計算はクライアントで行うようなものになったという経緯があるからです。
 勿論,初めのクレームには,小計の計算をどこでやるかなんていう限定はありませんでした。しかし,補正において,サーバーでの計算がNGで,クライアントでの計算がOKということは,明細書中には,クライアントでの計算の記載しかなく,しかもその他の場合を許容する記載がなかったのでしょう。

 これは実にまずいです。

 非常に有効な先行技術があり,それにサーバー計算の話が書いてあったので,無効事由を防ぐためにクライアントでの計算に限定したのであれば,まだ言い訳が立ちます。しかし,そんなことではなく,単なる想像力の不足により,本来広がるはずの権利範囲が狭くなったわけですので,責任は重大だと思います。
 今回の件は実に色んな勉強をさせてくれる素材だと思います。このような明細書の書き方について,重要な示唆ももたらせてくれますし,別紙の記載内容も参考になります。
 さらに,明細書の件もそうですが,このようなタイプの技術における,特許制度の意義についてもちょっと考えてしまう感もあります。