2015年11月16日月曜日

審決取消訴訟 商標 平成27(行ケ)10157 不使用取消審判 取消審決 請求認容

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成27年11月11日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 設 樂 一
裁判官 大 寄 麻 代
裁判官 岡 田 慎 吾

「当裁判所は,原告の主張する取消事由1には理由があり,審決は取り消されるべきであると判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 商標法は,審決は,「審決の結論及び理由」を記載した文書をもって行わなければならない旨を定めている(商標法56条1項,特許法157条2項4号)。商標法が,民事訴訟手続に準じた審判手続を設け,商標登録の取消事由があるかどうかについては審判手続において法律上及び事実上の争点について十分な審理判断をすべきものとし,また,当事者の関与の下でそのような十分な審理判断がされていることを前提として,事実審を省略し,審決に対する訴えを東京高等裁判所の専属管轄としていること(商標法63条1項)に鑑みると,上記審決の記載事項を義務付けた規定の趣旨は,審判官の判断の慎重,合理性を担保しその恣意を抑制して審決の公正を保障すること,当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与えること及び審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にすることにあるというべきであり,したがって,審決書に記載すべき理由としては,特段の事由がない限り,審判における最終的な判断として,その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを要するものと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷昭和59年3月13日判決・裁民141号339頁参照)。
 そして,商標登録の不使用取消審判においては,審判請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者等がその請求に係る指定商品・役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを証明しない限り,商標権者はその指定商品・役務に係る商標登録の取消しを免れないとされ(商標法50条2項),使用についての立証責任は被請求人が負うものとされている。したがって,商標登録の不使用取消審判での審理の中心となるのは,被請求人が主張する具体的な登録商標の使用の事実の存否であり,審判体が,商標登録の取消しという「結論」を導き出すための「理由」としては,被請求人が主張する具体的な登録商標の使用の事実を特定した上で,同主張に係る使用の事実が認められるか否かについての判断(同主張に係る使用が商標法50条2項の「使用」に該当するかについての法的判断を含む。)及びその根拠を,証拠に基づいて具体的に明示することを要するものと解するのが相当である。
 なお,商標登録の不使用取消審判の審決に対する取消訴訟においては,特許無効審判の審決に対する取消訴訟における無効事由の主張と異なり,審判において主張されていなかった新たな登録商標の使用の事実の立証も許されるが(最高裁判所第三小法廷平成3年4月23日判決・民集45巻4号538頁参照),このことをもって,審判において既に主張されている登録商標の使用の事実についての判断をしないことが許されるものではない。
2  証拠(文中掲記)によれば,原告は,審判手続において,平成27年2月13日付けで,口頭審理陳述要領書(乙6)を提出し,同書面においては,「本件審判請求の登録前3年以内の商標の使用」との見出しの下,「使用行為①」ないし「使用行為③」として,本件各使用行為を詳細に主張するとともに,これらの本件各使用行為が商標法2条3項の「使用」に該当する旨を主張し,これらの本件各使用行為を裏付ける書証として,A,B及びCの各陳述書を含む審判乙4号証ないし同乙15号証(甲4ないし甲15)を提出したこと,これに対する反論として,被告は,平成27年2月27日付けで口頭審理陳述要領書(乙7)を提出したことが認められる。
 しかし,審決の理由においては,「被請求人の主張」として,本件各使用行為の主張が摘示されているにもかかわらず,「当審の判断」においては,前記第2の3のとおりの判断が記載されているのみである。同記載のうち,前記第2の3の②の記載部分は,平成26年2月28日付け納品書が実態を反映したものではない旨を原告が自認していることを根拠として,無償譲渡も含めて,「同時期に使用商品が同納品書の名宛人である龍IMPROVEに譲渡されたものということはできない」との判断をしたものと一応理解することもできるから,そのような根拠が無償譲渡の事実をも否定する理由として合理的なものといえるかどうかは別として,使用行為3についての判断を記載したものと理解する余地もないではない。しかし,それ以外には,審決には,使用行為1及び2の事実が認められるかどうかについての判断は一切記載されておらず(なお,前記第2の3の③は,平成25年11月5日にエッセンシャルオイルを提供したという使用事実について判断したものであり,同年10月19日にBにMariquitaボトル入りのエッセンシャルオイル数種類及び価格表を交付したという使用行為2についての判断を示したものではない。),判断を示さないことについての特段の事由も認められない。そうすると,審決が,法が要求する「理由」を記載したものと解することはできないから,審決は違法であり,取り消すのが相当である。 」

【コメント】
 事例としては,商標の不使用取消審判のものです。しかし,通常の不使用取消とは異なる論点となっております。
 通常の不使用取消での論点は,商標の使用があったかどうかです。この点については,商標権者の主張立証責任とされているようですから,商標権者は,ある所定の期間内で,現に商標の使用があったことを証拠等に基いて主張立証することになります。

 そして,その結果については,当然審決でも記載しなければなりません。

 条文上も,商標法56条1項で準用する特許法157条2項4号は,
2  審決は、次に掲げる事項を記載した文書をもつて行わなければならない。

・・・
四  審決の結論及び理由
とあります。 

 これは判旨にもありますが,「趣旨は,審判官の判断の慎重,合理性を担保しその恣意を抑制して審決の公正を保障すること,当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与えること及び審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にすること」のためです。
 ですので,理由が書いていないというのはとてつもないエラーというわけです。本件の審決は,原告である商標権者が主張した使用行為1と使用行為2については,何らの判断を示しておらず,これで審決が取り消されるのもやむを得ない所でしょう。

 なお,判旨に引用された判例は,こちらです。 この判例,前の版の特許判例百選にはあったのですが,今の第四版には載っておりません。評釈を書いていたのは,当時東京高裁の西田美昭裁判官でした。百選に関しては,大学の先生の色んな思惑がありそうですから,この程度にしておきましょう。