2016年5月2日月曜日

侵害訴訟 特許 平成27(ネ)10127 知財高裁 控訴棄却(請求棄却)

事件番号
事件名
 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日
 平成28年4月27日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 髙 部 眞 規 子
裁判官 田 中 芳 樹
裁判官 柵 木 澄 子

「(2) 構成要件Fについて
ア 前記(1)のとおり,本件特許発明において,構成要件F1には「上記Webブラウザによる処理が,少なくとも,」と記載され,同記載に続いて,構成要件F2には「1)カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程」,構成要件F3には「2)商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」,構成要件F4には「3)ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程,を含み,」と,それぞれ記載されている。
 そして,構成要件F1の「上記Webブラウザ」とは,構成要件Dの「Webブラウザ」を指し,「Web-POSクライアント装置」は,「Webブラウザ」を備えていることから(構成要件D),上記記載によれば,構成要件F1では,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」による「処理」が,少なくとも,構成要件F2に記載された「1)カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程」,構成要件F3に記載された「2)商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」及び構成要件F4に記載された「3)ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程」を含むことが規定されているということができる。
イ この点,構成要件F2ないしF4は,原則として「Web-POSクライアント装置」が行う処理が記載されているが,中には,「Web-POSサーバ・システム」が行う処理も記載されている。
(ア) 構成要件F2によれば,「該Web-POSサーバ・システムの商品(PLU)マスタDBにおいて管理されている取扱商品に関する基礎情報に含まれたカテゴリーに対応するカテゴリーリストを含むHTMLリソース」及び「該要求のHTTPメッセージに基づき,該Web-POSサーバ・システムの商品(PLU)マスタDBにおいて管理されている取扱商品に関する基礎情報から該変更または入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報が抽出され,該抽出された商品基礎情報を含むHTMLリソース」は,いずれも,「Web-POSサーバ・システム」において「生成」され,上記各「HTMLリソース」が,「Web-POSクライアント装置」に「供給」ないし「送信」される(構成要件C参照)。
 そして,上記各「HTMLリソース」は,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」で「処理」されることにより,「カテゴリーリスト」及び「カテゴリーに対応する商品基礎情報からなる商品リスト」を表示装置に表示させる。
 そうすると,構成要件F2において,「Webブラウザ」が行う「処理」は,「カテゴリーリストを含むHTMLリソース」及び「商品基礎情報を含むHTMLリソース」に基づいて,表示装置に「カテゴリーリスト」及び「カテゴリーに対応する商品基礎情報からなる商品リスト」を表示することであるということができる。
 もっとも,構成要件F2において,「Web-POSサーバ・システム」による上記各HTMLリソースの「生成」,「供給」ないし「送信」といった「処理」も記載されている。これは,「Webブラウザ」で「処理」される上記各「HTMLリソース」が,「Web-POSサーバ・システム」において「生成」され,「供給」ないし「送信」するという「処理」が行われることを前提とするものであることから,これを構成要件上明確にしたものであることが理解できる。
 したがって,構成要件F1によって,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」による「処理」が行われるものとして規定されている構成要件F2を全体としてみれば,構成要件F2の「カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程」における「処理」は,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」による「カテゴリーリスト」及び「カテゴリーに対応する商品基礎情報からなる商品リスト」を表示装置に表示させる「処理」が規定されているのであって,「Web-POSサーバ・システム」による「処理」が記載されているのは,「Webブラウザ」で「処理」される上記各「HTMLリソース」について,「Web-POSサーバ・システム」における「処理」が行われることを構成要件上明確にしたものということができる。
(イ) これに対して,構成要件F3においては,構成要件F2のように,「HTMLリソース」が,「Web-POSサーバ・システム」において「生成」,「供給」ないし「送信」されるなど,「Web-POSサーバ・システム」による具体的な「処理」は何ら規定されておらず,構成要件F1の規定に基づき,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」を「処理」の主体として,商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程が規定されている。
 そして,構成要件F2によれば,「Web-POSサーバ・システム」において,「商品基礎情報」を含む「HTMLリソース」が「生成」され,「Web-POSクライアント装置」に「送信」されるから,「該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報」は,「HTMLリソース」として,「Web-POSサーバ・システム」から「送信」され,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」で「処理」されることにより,「商品の情報」を表示装置に表示させる。
 そうすると,構成要件F3において,「Webブラウザ」が行う「処理」は,「HTMLリソース」に含まれる「該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報」に基づいて,表示装置に「商品の情報」を表示することであり,構成要件F3においては,「商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」における「処理」が規定されているということができる。
 もっとも,構成要件F3には,「該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報」は,「Web-POSクライアント装置」が「Web-POSサーバ・システム」に問い合わせて取得することが規定されている。「商品に関する基礎情報」は,「Web-POSサーバ・システム」において「管理」されており(構成要件C),これを「Web-POSクライアント装置」が「Web-POSサーバ・システム」に問い合わせて取得することが規定されていることからすれば,構成要件F3には,「Web-POSサーバ・システム」から上記「該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報」を含む「HTMLリソース」が「Web-POSクライアント装置」に対して送信されることが記載されているということができる。しかして,構成要件F3において,上記規定がされているのは,「Webブラウザ」で「処理」される上記「HTMLリソース」に含まれる「該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報」が,「Web-POSサーバ・システム」において「管理」され,「該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報」を含む「HTMLリソース」を「生成」,「送信」するという「処理」が行われることを前提とするものであることから,これを構成要件上明確にしたものであることが理解できる。
 したがって,構成要件F1によって,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」による「処理」が行われるものとして規定されている構成要件F3を全体としてみれば,構成要件F3の「商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」における「処理」は,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」による「商品の情報」を表示装置に表示させる「処理」が規定されているのであって,「Web-POSサーバ・システム」による「処理」が記載されているのは,「Webブラウザ」で「処理」される「該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報」について,「Web-POSサーバ・システム」における「処理」が行われることを構成要件上明確にしたものということができる。
(ウ) また,構成要件F4においては,構成要件F3と同様に,構成要件F2のように,「HTMLリソース」が,「Web-POSサーバ・システム」において
「生成」,「供給」ないし「送信」されるなど,「Web-POSサーバ・システム」による具体的な「処理」は何ら規定されておらず,構成要件F1の規定に基づき,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」を「処理」の主体として,商品注文内容の表示制御過程が規定されている。
 そして,「前記入力(選択)された商品識別情報と該商品識別情報に対応して取得された上記商品基礎情報」は,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」で「処理」されることにより,「商品の注文明細情報」を表示装置に表示させるとともに,ユーザが,該入力手段によりオーダ操作(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,「該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報」が「Web-POSサーバ・システム」に対して「送信」されることになる(「Web-POSサーバ・システム」において「取得(受信)」されることになる以上,「Web-POSクライアント装置」から送信されることは,明らかである。)。
 そうすると,構成要件F4において,「Webブラウザ」が行う「処理」は,少なくとも,「前記入力(選択)された商品識別情報と該商品識別情報に対応して取得された上記商品基礎情報」に基づいて,表示装置に「商品の注文明細情報」を表示すること,及び「該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報」を「Web-POSサーバ・システム」に対して「送信」することであり,構成要件F4においては,「商品注文内容の表示制御過程」における「処理」が規定されているということができる。
 もっとも,構成要件F4には,「該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおいて取得(受信)されることになる」と規定されている。しかし,当該規定は,上記のとおり,「Webブラウザ」が,「該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報」を「Web-POSサーバ・システム」に対して「送信」する「処理」を行うことを前提とするものであり,「Web-POSサーバ・システム」からみれば,上記「Webブラウザ」で「送信」する「処理」が行われた場合には,「該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報」が「取得(受信)されることになる」と,受動的ないし仮定的に記載されているにすぎないものと解するのが自然であって,「Web-POSサーバ・システム」を「処理」の主体として規定しているということはできない。
 したがって,構成要件F1によって,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」による「処理」が行われるものとして規定されている構成要件F4を全体としてみれば,構成要件F4の「商品注文内容表示制御過程」における「処理」は,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」による,少なくとも,「商品基礎情報に基づく商品の注文明細情報」を表示装置に表示させる「処理」及び「該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報」を「Web-POSサーバ・システム」に対して「送信」する「処理」が規定されているのであって,「Web-POSサーバ・システム」による「処理」が記載されているということはできない。
(エ) 以上のとおり,本件特許発明の構成要件F2ないしF4において,「Web-POSサーバ・システム」が行うべき「処理」として,「HTMLリソース」が,「Web-POSサーバ・システム」において「生成」,「供給」ないし「送信」されることが記載され(構成要件F2),また,「該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報」が,「Web-POSサーバ・システム」において「管理」され,「該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報」を含む「HTMLリソース」を「生成」,「送信」する「処理」が記載されているのは(構成要件F3),「Webブラウザ」で「処理」される上記「HTMLリソース」が,「Web-POSサーバ・システム」における上記各「処理」が行われることを前提とするものであることから,これを構成要件上明確にしたものである。
 そして,前記アのとおり,構成要件F1では,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」による「処理」が,少なくとも,構成要件F2に記載された「1)カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程」,構成要件F3に記載された「2)商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」及び構成要件F4に記載された「3)ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程」を含むことが規定されていること,構成要件F2ないしF4において,上記各表示制御過程における「処理」は,いずれも「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」による「処理」として規定され,「Web-POSサーバ・システム」が行うべき「処理」については,これを構成要件上明確に記載していることに鑑みれば,構成要件F2ないしF4において,「Web-POSサーバ・システム」による処理であることが明確に記載されているもののみが,「Web-POSサーバ・システム」における「処理」であって,それ以外は,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」,あるいは「Web-POSクライアント装置」による「処理」のみが規定されていると解するのが相当である。
ウ 構成要件F4の「該数量に基づく計算」について
 構成要件F4の「ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程」における「該数量に基づく計算」を行う「処理」については,例えば,「Web-POSサーバ・システム」に対して,「計算」した結果を含むHTMLリソースを要求するHTTPメッセージが送信され,これに対して「Web-POSサーバ・システム」がHTMLリソースを「生成」し,「供給」ないし「送信」することや,「Web-POSサーバ・システム」に問合せがされて「Web-POSクライアント装置」においてこれを取得することや,あるいは「Web-POSサーバ・システム」で「計算」した結果が,「Web-POSクライアント装置」の「Webブラウザ」において「処理」されることについては,特許請求の範囲には,何らの記載もない。
 このように,構成要件F4において,表示制御過程における「処理」は,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」による処理として規定され,「該数量に基づく計算」については,特許請求の範囲上,「Web-POSサーバ・システム」による「処理」であることが明確に記載されていないから,構成要件F4の「該数量に基づく計算」は,「Web-POSサーバ・システム」では行われず,「Webブラウザ」を備える「Web-POSクライアント装置」で行われるものと解さざるを得ない。」

「(3) 均等の第5要件について
 前記(2)の認定事実によれば,第1手続補正前の時点では,特許請求の範囲の請求項1において,「計算」については,「Web-POSサーバ・システム」で行われるのか,あるいは,「Web-POSクライアント装置」で行われるのかを含め,発明特定事項としては何ら規定されていなかったが,控訴人は,第1手続補正によって,特許請求の範囲の請求項1において,「計算」について,「Web-POSサーバ・システム」で行われる構成に限定し,その後にした第2手続補正において,特許請求の範囲を本件請求項1の構成要件F4のとおり補正し,この第2手続補正に基づく特許請求の範囲の請求項1(本件請求項1)について,特許査定を受けたものであるということができる。そして,第2手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(本件請求項1)の「該数量に基づく計算」,すなわち,本件特許発明の構成要件F4の「該数量に基づく計算」は,「Web-POSサーバ・システム」では行われず,「Webブラウザ」を備える「Web-POSクライアント装置」で行われるものと解さざるを得ないことは,前記1のとおりである。
 そうすると,本件出願手続において,第1手続補正前の時点では,「計算」について,発明特定事項として何らの規定もされていなかった特許請求の範囲の請求項1について,控訴人は,第1手続補正により,「計算」が「Web-POSサーバ・システム」で行われる構成に限定し,その後の第2手続補正によって,この構成に代えて,あえて「該数量に基づく計算」が「Web-POSクライアント装置」で行われる構成に限定して特許査定を受けたものということができる。
 上記事実に鑑みれば,控訴人において,「該数量に基づく計算」が,被告方法のように「Web-POSサーバ・システム」で行われる構成については,本件特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと評価することができる。
 したがって,均等の第5要件の成立は,これを認めることができない。」

【コメント】
 このブログを開設して,早半年を過ぎたのですが,事件としては二度目の登場ということになります。
 原審の東京地裁平成26(ワ)27277号( 平成27年10月14日判決)の判断はこちらです。

 この原審では,「「該数量に基づく計算」は,専ら「Web-POSクライアント装置」において行われるものと解するのが相当である。」と判断しました。
 ある意味限定解釈のように判断したのですが,そう解釈したのは,クレームそのものの構成からと言えました。さらに,それに加えて,出願経過も加味して,限定解釈したと言えます。

 他方,この控訴審では,出願経過をクレーム解釈に使うことはありません。あくまで,限定的に解釈されるのは,クレームの構成上そうとしか解釈できないから,ということになると思います。

 今回控訴審ですので,クレームはここに書きませんが,本件特許のクレームは,そもそも画面上の遷移をそのままクレームにしたようなもので,非常に限定的です。
 ですので,その遷移をいちいち追っていくと,「該数量に基づく計算」は,専ら「Web-POSクライアント装置」において行われるものとしか解釈しようがない,とされるのも仕方がない所でしょう。
 
 では,原審が加味した出願経過の部分はどこで判断されているかというと,均等論の第五要件の所です。

 この控訴審は,高部部長の合議体なのですが,この合議体の特徴として,均等論の第五要件に非常に厳しいということが挙げられます。
 それ故,出願経過において,原告の主張していたもう一つの可能性を排除したような行動があった以上,これで均等論第五要件を認めることも難しい所だったのでしょう。