2017年6月2日金曜日

侵害訴訟 商標   平成28(ワ)6268 &平成28(ワ)5249 大阪地裁 請求一部認容&請求棄却

事件番号
事件名
 商標権侵害差止請求事件
裁判年月日
 平成29年5月11日
裁判所名
 大阪地方裁判所第26民事部
  裁 判 長 裁 判 官  髙      松          宏      之
  裁判官田原美奈子及び同林啓治郎は,転補のため,署名押印することができない。
 裁 判 長 裁 判 官  髙      松          宏      之
 
6268について
 
「 ア  商標法施行規則別表において定められた商品又は役務の意義は,商標法施行令別表の区分に付された名称,商標法施行規則別表において当該区分に属するものとされた商品又は役務の内容や性質,国際分類を構成する類別表注釈において示された商品又は役務についての説明,類似商品・役務審査基準における類似群の同一性などを参酌して解釈するのが相当である(最高裁判所平成23年12月20日判決・民集65巻9号3568頁参照)。
 本件商標権2の場合,原告が本件で主張する第42類は,その名称を「科学技術又は産業に関する調査研究及び設計並びに電子計算機又はソフトウェアの設計及び開発」とするものであるところ,その出願時の商標法施行規則別表では,「電子計算機のプログラムの設計,作成又は保守」と並んで,「電子計算機用プログラムの提供」が属するものとされ,その出願時に用いられていた国際分類(第10版)を構成する類別表注釈では,第42類に属する役務について,「第42類には,主として,個別的又は集団的に人により提供されるサービスであって,諸活動のうちの複雑な分野の理論的又は実用的な側面に関連するものが含まれる。当該サービスは,科学者,物理学者,エンジニア,コンピュータプログラマー等のような専門家によって提供されるものである。」とされており,特許庁による解説では,「電子計算機のプログラムの設計,作成又は保守」について,「このサービスには,いわゆる,ソフトウェアの開発業者等が提供するサービスが含まれます。」とされ,「電子計算機用プログラムの提供」については,「電気通信回線を通じて,電子計算機用プログラムを利用させるサービスです。」とされ,類似商品・役務審査基準では,「電子計算機用プログラムの提供」は,第9類の「電子計算機用プログラム」に類似するとされている。
 そして,第9類では,「電子応用機械器具及びその部品」として,「電子計算機用プログラム」が含まれるとされ,国際分類を構成する類別表注釈では,「この類には,特に,次の商品を含む。」,「記録媒体又は頒布方法の如何に拘わらず,全てのコンピュータプログラム及びソフトウエア,すなわち,磁気媒体に記録されたソフトウェア,又はコンピュータネットワークからダウンロードされるソフトウエア」とされている。(以上,甲33)
 これらからすると,第42類の「電子計算機用プログラムの提供」とは,コンピュータプログラマーによって設計開発されたコンピュータ用プログラムを,電気通信回線を通じて利用させる役務であると解するのが相当であり,「電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守」とは,コンピュータプログラマー等のソフトウェアの開発業者が電子計算機用プログラムを設計ないし作成し,又はその手直し等をする役務であると解するのが相当である。そして,第9類の「電子計算機用プログラム」がそれによって提供される目的ないし機能を問わないものであることからすると,第42類の役務における上記のプログラムも,その利用により達成される目的ないし機能を問わないものであると解するのが相当である。そして,これは,本件商標権1についても同様であると解される。 ・・・
 
 以上によれば,被告3サービス(「AD EBiS」,「THREe」及び「SOLUTION」)は本件商標権の指定役務である第42類の「電子計算機用プログラムの提供」又は「電子計算機用プログラムの設計,作成又は保守」に該当し,前提事実のとおり,「EC-CUBE」に係る役務が本件商標権の指定商品である第9類の「電子応用機械器具及びその部品」及び指定役務である第42類の「電子計算機用プログラムの提供」に該当することは当事者間に争いがないから,被告4サービス(「AD EBiS」,「THREe」,「SOLUTION」及び「EC-CUBE」)は,本件商標権の指定商品又は指定役務に該当する。 
 
 ア  被告標章6について
(ア) 前記のとおり,被告標章6は,ホームページ及びパンフレットにおいて表示されているところ,それらホームページ及びパンフレットでは,被告4サービスの項目,説明又は広告宣伝が掲載されている。そうすると,それらにおいて,被告標章6は,被告4サービスの出所表示として機能していると認められるから,被告は,ホームページ及びパンフレットにおいて,被告標章6を被告4サービスの広告に使用しているといえる。(争点2)・・・
 
 (イ) そして,被告標章6は,ゴシック体の「株式会社ロックオン」との文字に,被告の登録商標であり企業ロゴと思われる「L」字様の図形と,被告の登録商標であり,かつ,企業理念ないし企業スローガンである「Impact On The World」との文字がバランスよく組み合わされており,外観上ひとまとまりに把握されるものである。そして,このような企業ロゴ及び企業スローガンと組み合わせられることにより,「株式会社ロックオン」との文字は,それが単体で使用される場合に比べて,特に需要者の注意を惹く態様となっている。したがって,被告標章6の使用は,殊更にその部分に需要者の注意を惹きつけることにより,役務の出所を表示させる機能を発揮させる態様での使用というべきであって,自己の名称を「普通に用いられる方法で表示する」場合に当たるものとはいえない。(争点3)・・・
 
 したがって,被告標章3ないし6は被告が被告4サービスについて使用していると認められ,かつ,その使用について商標法26条1項1号により本件商標権の効力が及ばないものということはできない。    」


5249について
「  (1) 前記のとおり,被告のホームページにおいて,被告サービスは,「スマートフォン対応のケイータイサイト作成ASP」,「華やかなケータイサイトが専門知識なしで簡単に作成できる」として総括的に紹介されており,被告サービスの17の機能の多くはホームページの作成支援に関わる機能であることからすると,被告サービスは,ホームページ作成支援を主たる機能とするものであると認められる。そして,前記のとおり,被告サービスは,「ASP」とされ,ASPとは,ソフトウェアをインターネットを介して利用させるサービスをいうこと(弁論の全趣旨)からすると,被告標章が使用されている被告サービスは,全体として,インターネットを介してスマートフォン等の携帯電話用のホームページの作成・運用を支援するためのアプリケーションソフトの提供を行うものであり,第42類の「電子計算機用プログラムの提供」に該当すると認められ,本件商標の指定役務第35類の「広告」には該当せず,また,これに類似する役務とも認められない。 」

【コメント】
 ロックオン商標をめぐる,同一の当事者が一方は原告で他方は被告になったというものです。
 
 対比した方が理解が進むと考え,2つの事件を一緒に紹介します。

 まず請求認容した6268の方は,原告がビジネスラリアートで被告がロックオンです。
 他方,請求棄却された5249の方は,原告がロックオンで被告がビジネスラリアートです。
 
 ビジネスラリアートの登録商標は,以下のようなものです。
  
 さらにこういうものです。
 
 指定役務については,42類の「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,ウェブサイトの作成又は保守」というものがありました。
 
 
 
 他方,ロックオンの登録商標は, 以下のようなものです。
 
 指定役務は,42類ではなく, 第35類の「広告業」などでした。

 で,ロックオンの使用商標,特に被告商標6は以下のとおりです。
 これです。


 理解できましたか?
 要するに,棄却された5249の方では,ビジネスラリアートは,広告業にロックオンを使っていなかったと認定されたわけです。それはそうです。ビジネスラリアートのビジネスモデルは,所謂ITベンダーで,広告屋さんではありませんからね。
 
 他方,ロックオンの方も,ITベンダーだったわけです。広告業ではなく,ね。
 まあ,42類のロックオンがビジネスラリアートに取られていたので(H16ころの出願),こういう広告業等しか取れなかったのだと思います。
 
 とすると,そもそもはじめからボタンの掛け違いですわ。いくら自社名だからと言って,商標の調査してからやらないと! 

 当然,商標法26条1項1号の主張もありますが,ダメですわな。
 
 なので,こういう結論になるわけです。事件番号からするとロックオンの方が先に提訴したようですが,ちょっと戦略を誤ったというような気もします。
 
 商標登録出願をする際は,指定商品等の選択が非常に大事だということも改めて感じさせてくれた事件でもあります。