2017年11月14日火曜日

侵害訴訟 特許  平成28(ワ)35182  東京地裁 請求棄却


事件番号
事件名
裁判年月日
 平成29年10月30日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第29部    
裁判長裁判官     嶋      末      和      秀  
裁判官    天      野      研      司  
裁判官       西      山      芳      樹 

文言侵害
「 ア  構成要件Cの充足性について
  構成要件Cは,「その決定したキャラクターに応じた情報提供料を通信料に加算する課金手段を備え」というものであるが,証拠(乙2)によると,被告システムにおいて,ピグ(キャラクター)はアイテムを組み合わせて構成されるものであり,そのアイテムの購入に係る情報提供料は,ユーザーがあらかじめ携帯電話会社の提供する決済システム上で購入しておいた仮想通貨であるコインで支払われるものであると認められるから,「キャラクターに応じた情報提供料」,すなわち,ピグ(キャラクター)を構成するアイテムの購入に係る情報提供料は,ユーザーがあらかじめ携帯電話会社の提供する決済システム上で購入しておいた「コイン」で支払われるものであり,「通信料」に加える,すなわち,「加算」するものではない
  これに対し,原告は,被告システムにおいて,アイテムを購入するために支払ったコインは,コインの購入代金として,携帯端末の「通信料」に「加算」されると主張するが,上記のとおり,携帯端末の「通信料」に「加算」されるのは飽くまで「コイン」の購入代金であり,また,証拠(乙2)によると,コインの購入代金はアイテムの購入に要するコインの額と無関係にあらかじめ一定額に定められたものであると認められるから,それをアイテムを組み合わせたピグ(キャラクター)に応じた情報提供料ということはできない。
  したがって,被告システムは,構成要件Cを充足しない。 
 イ  構成要件F及び同Gの充足性について  
  (ア)  構成要件Fは,「表示部に仮想モールと,基本パーツを組み合わせてなる基本キャラクターとを表示させ」と規定し,構成要件Gは,「前記基本キャラクターが,前記仮想モール中に設けられた店にて前記パーツを購入する」と規定するものの,「仮想モール」や「基本キャラクター」の意味するところやそれらの表示形態については,本件特許請求の範囲の文言からは,必ずしも明らかでない。  
 そこで,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌すると,「仮想モール」や「基本キャラクター」を直接的に定義する記載は見当たらないものの,上記1⑵エのとおり,発明が解決しようとする課題として,【図5】を例示した上で,構成要件F及び同Gに対応する構成が記載されており(【0005】),また,
〔作用効果〕として,「ユーザーは,仮想モールと,基本キャラクターとが表示された表示部を見ながら,基本キャラクターを自分に見立て,さながら自分が仮想モール内を歩いているようなゲーム感覚で,その仮想モール内に出店された店に入り,パーツという商品を購入することで,基本キャラクターを気に入ったキャラクターに着せ替えて,楽しむことができ,新たな楽しみ方ができて十分な満足感を得ることができる。」(【0006】)と記載されている。さらに,上記1⑵オのとおり,発明の実施の形態として,「図5に示すように,表示部2には,仮想モール10,基本キャラクター11が表示され,店S1~Snが出店された仮想モール10内に基本キャラクター11を出現させ,基本キャラクター11があたかも仮想モール10内の住人であるかのように構成してある。」(【0028】),「よって,ユーザーは,自分自身を仮想モールの中のキャラクターに投影して,あたかも自分が仮想モール中で暮らしているようなゲーム感覚が得られ,種々の店に入り買い物をすることができ,さらに楽しみが倍増される。その上,店に入店して商品(各種キャラクター画像情報)を購入することで,基本キャラクターを気に入ったキャラクターに着せ替え,変更するので,楽しみながら容易に自分の気に入ったキャラクターを創作することができる。」(【0029】)と記載されている。
 
       (【図5】) 
  本件明細書における発明の詳細な説明及び図面の上記各記載に照らすと,「仮想モール」は,「基本キャラクター」と共に表示されることにより,「さながら自分が仮想モール内を歩いているようなゲーム感覚」(【0006】)や「あたかも自分が仮想モール中で暮らしているようなゲーム感覚」(【0029】)を得て楽しむことができることができるという作用効果を有するものであり,構成要件Gの「仮想モール中に設けられた店」との文言や,一般に,「モール」に「建物の内部に設計された遊歩のための空間」という字義があること(広辞苑第6版〔乙5〕)にも照らすと,「仮想モール」は,内部に複数の仮想店舗と遊歩のための空間とが表示されるものをいうと解するのが相当である。  
 また,「仮想モール」が「基本キャラクター」と共に表示されることに上記のような作用効果があることに照らすと,構成要件Fの「表示部に仮想モールと…基本キャラクターとを表示させ」については,表示部に「仮想モール」と「基本キャラクター」とが同時に表示される必要があると解すべきである。
  さらに,「仮想モール中に設けられた店」で「パーツ」を購入するのは「基本キャラクター」であるとされており(構成要件G),本件明細書の上記各記載に照らしても,ユーザーは,自分に見立てた「基本キャラクター」が「仮想モール中に設けられた店」に入店して買い物等をしている状況が表示されているのを見て,あたかも自分がそのような行動をしているような感覚を得て楽しむことができるというのであるから,「仮想モール中に設けられた店」で「パーツ」を購入する際にも 「基本キャラクター」が表示される必要があると解すべきである。
  (イ)  これに対し,原告は,①「仮想モール」は楽天市場などインターネット上に存在する仮想店舗が集まった商店街のことを意味し,ユーザーが複数の仮想店舗にほぼ同時にアクセスできる仕組みになっていれば足りる,②本件発明の課題解決原理,技術的思想は,表示部に「基本キャラクター」を表示させ,「基本キャラクタ ー」が店でパーツを購入して気に入ったキャラクターを創作決定するところにあり,「仮想モール」は店の表示形態の例示にすぎないから,表示部に「仮想モール」と「基本キャラクター」が同時に表示される必要はない,③「パーツ」の購入主体とされている「基本キャラクター」(構成要件G)は,「基本キャラクター」を表示させて使用するユーザーをいうものである旨主張する。 
  しかしながら,上記①について,「仮想モール」は「表示部に…表示」される必要があるのであるから,「ほぼ同時にアクセスできる仕組みになっていれば足りる」と解することはできない。
  上記②について,そもそも,「仮想モール」は,本件特許請求の範囲中の用語であり,これを例示と解すべき根拠となる記載は,本件特許請求の範囲にはないから,「仮想モール」を「店の表示形態の例示にすぎない」ということはできない。 
 上記③について,本件特許請求の範囲の文言上,「基本キャラクター」は「データベースに用意された複数のキャラクターから」「気に入った」ものとして決定されるものであるから,これをユーザーをいうものと解することはできない。
  (ウ)  証拠(乙4)によると,被告システムにおいて,「ショップ」でアイテムを購入する際の画面表示は,次のとおりであると認められる。 
  すなわち,①被告システムでは,液晶表示部に,「ショップ」というカテゴリーの表示とピグとが表示されており,②ユーザーが「ショップ」というカテゴリーの表示を選択するなどすると,各種の「ショップ」が,アイテムの種類の記載やアイテムを装着するなどしたキャラクターの表示と共に一覧表示された「ショップ一覧」画面に移行すること,③その中から特定の「ショップ」を選択すると,当該「ショ ップ」で取り扱われているアイテムが一覧表示された画面に移行すること,④その中から特定のアイテムを選択すると,ピグが当該アイテムを装着した画像が表示された試着画面に移行すること,⑤更に「レジへすすむ」又は「購入する」との表示を選択することで,当該アイテムの購入画面に移行して購入する手順となること,「ショップ一覧」画面(上記②)やアイテムが一覧表示された画面(上記③),購入画面(上記⑤)が表示されているときにはピグは表示されていないことが認められる。
  そうすると,被告システムでは,複数の仮想店舗と遊歩のための空間とが表示されないから,そもそも,「仮想モール」に対応する構成を有しているとはいえない。
  この点を措いても,単なる「ショップ」というカテゴリーの表示を「仮想モール」 に対応するものということはできないし,さらに,「ショップ一覧」画面の表示を「仮想モール」に対応する構成として特定したとしても,同画面が表示されているときにピグは表示されないから,表示部に「仮想モール」と「基本キャラクター」とが同時に表示される構成を有していない
  また,被告システムでは,「ショップ一覧」画面やアイテムが一覧表示された画 25 面に加えて,購入画面が表示されている際にもピグが表示されていないから,試着画面でピグが表示されるとしても,ピグが当該ショップに入店して買い物等をする状況が表示されるものともいえず,構成要件Gの「基本キャラクター」が「仮想モール中に設けられた店」で「パーツ」を購入する構成を有するものとはいえない
  (エ) したがって,被告システムは,構成要件F及び同Gを充足しない。」

均等論
「 ⑵  第1要件(非本質的部分)について  
  ア  特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にあるから,特許発明における本質的部分とは,当該特許発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段とその作用効果を把握した上で,特許発明に係る特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである(ただし,明細書の発明の詳細な説明に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には,明細書の発明の詳細な説明に記載されていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである〔知財高裁平成27年(ネ)第10014号同28年3月25日特別部判決・判時2306号87頁参照〕。)。
  これを本件について見ると,前記2で詳述したとおり,本件発明は,「その決定したキャラクターに応じた情報提供料を通信料に加算する課金手段を備え」(構成要件C)ており,また,「表示部に仮想モールと,基本パーツを組み合わせてなる基本キャラクターとを表示させ」(構成要件F),「基本キャラクターが,前記仮想モール中に設けられた店にて前記パーツを購入する」(構成要件G)構成を有しているのに対し(なお,「仮想モール」は,内部に複数の仮想店舗と遊歩のための空間とが表示されるものをいい,「基本キャラクター」と同時に表示される必要があると解すべきこと,「仮想モール中に設けられた店」で「パーツ」を購入する際にも「基本キャラクター」が表示される必要があると解すべきことも,前記2のとおりである。),被告システムは,少なくとも,「キャラクターに応じた情報提供料」を「通信料」に「加算」する構成を備えていない点,「仮想モール」に対応する構成を有していない点において,それぞれ本件発明と相違するところ,以下のとおり,これらの相違部分は,本件発明の本質的部分に当たるというべきであるから,
被告システムは,均等の第1要件(非本質的部分)を満たさない。
・・・
 そうすると,本件明細書では,本件発明は,サービス提供者がキャラクター画像情報により効率良く利益を得るのは困難であったという従来技術の問題点を解決して,サービス提供者が画像情報の提供により効率良く利益を得ることができる携帯端末サービスシステムを提供することを目的の一つとするものであって,構成要件Cの「その決定したキャラクターに応じた情報提供料を通信料に加算する課金手段を備え」るとの構成は,まさに,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決(サービス提供者がキャラクター画像情報により効率良く利益を得ることができる携帯端末サービスシステムを提供すること)を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段(課金手段)としての具体的な構成として開示されているものいうべきである。また,本件発明は,ユーザーに十分な満足感を与え得るものではなかったという従来技術の問題点を解決して,ユーザーが十分な満足感を得ることができる携帯端末サービスシステムを提供することを他の目的とするものであって,「表示部に仮想モールと,基本パーツを組み合わせてなる基本キャラクターとを表示させ」るとの構成を含む構成要件F及び「基本キャラクターが,前記仮想モール中に設けられた店にて前記パーツを購入する」との構成を含む構成要件Gは,さながら自分が仮想モール内を歩いているようなゲーム感覚で商品を購入するなどして十分な満足感を得ることができるという本件発明に特有な作用効果に係るものであって,構成要件A,同B,同D及び同Eとともに,まさに,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決(ユーザーが十分な満足感を得ることができる携帯端末サービスシステムを提供すること)を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段(ゲーム感覚の実現)としての具体的な構成として開示されているものというべきである。 
  他方で,後述する引用例1(乙6)の開示(iモード上に用意された複数のキャラクタ画像を受信し,これを待受画面として利用することができる携帯電話機)及び引用例2(乙7)の開示(画像情報の提供に係る対価の課金を通話料金に含ませるもの)に照らすと,本件明細書において従来技術が解決できなかった課題として記載されているところは,客観的に見て不十分であるといい得るが,本件明細書の従来技術の記載に加えて,引用例1及び同2の開示を参酌したとしても,本件発明は,ユーザーが十分な満足感を得ることができ,かつ,サービス提供者が利益を得ることができる携帯端末サービスシステムを提供するものであり,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための具体的な構成として,構成要件AないしHを全て備えた構成を開示するものであるから,これら全てが従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分に当たるというほかない。 
  以上によれば,本件発明と被告システムとの相違部分は,いずれも本件発明の本質的部分に係るものと認めるのが相当である(なお,上記認定判断は,後述する本件特許の出願経過とも整合するところである。)。 
・・・
  ⑶  第5要件(特段の事情)について
  ア  本件特許の出願経過
  後掲の証拠によると,本件特許の出願経過として,次の各事実が認められる。
  (ア) 出願当初の特許請求の範囲の記載は,次のとおりであった(乙11)。
  「【請求項1】  表示部と,電話回線網への通信手段とを備える携帯端末から,前記電話回線網に接続されたデーターベースにアクセスすることによって,前記データベースに用意された複数のキャラクターから,表示部に表示すべき気に入ったキャラクターを決定し,その決定したキャラクターを前記表示部にて表示自在となるように構成してある携帯端末サービスシステムであって,その決定したキャラクターに応じた情報提供料を通信料に加算する課金手段を備える携帯端末サービスシステム。 」

・・・
 上記によれば,実質的にみて,出願当初の特許請求の範囲の請求項1記載の発明は,構成要件A,同B,同C及び同Hからなる発明であり,同2記載の発明は,構成要件A,同B,同C,同D,同E及び同Hからなる発明であり,同5記載の発明のうち,同2を引用するものは,構成要件A,同B,同C,同D,同E,同F,同G及び同Hからなる発明であったといえる。
  (イ)  特許庁審査官は,平成21年10月19日を起案日とする拒絶理由通知書(甲20)において,出願当初の特許請求の範囲の請求項1及び同2に係る各発明については,それぞれ,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない旨,他方で,請求項5ないし同7に係る各発明については,拒絶の理由を発見しない旨通知した。
  なお,上記拒絶理由通知書において,出願当初の特許請求の範囲の請求項1記載の発明に関し,拒絶理由の根拠として引用された刊行物は,引用例1(乙6)及び引用例2(乙7)であるところ,引用例1には,iモード上に用意された複数のキャラクタ画像の中からユーザが選択したキャラクタ画像を配信サービスによって受信し,これを待受画面として利用することができる携帯電話機が開示されており,また,引用例2には,携帯無線電話装置から各種画像情報を管理する情報処理センターに対して発呼し,所望の画像情報の提供を要求してこれを受信すること(【0042】),当該画像情報の提供に係る対価の課金を通話料金に含ませること(【0051】,【0053】)が開示されている。 
  (ウ)  原告は,平成21年12月25日付け手続補正書(甲21)により明細書を補正し,これにより,特許請求の範囲は,登録時のもの(本件特許特許請求の範囲〔前記前提事実⑴〕)となった。なお,原告は,同日付け意見書(甲22)により,本件特許請求の範囲の請求項1について,出願当初の特許請求の範囲の請求項1に,同2及び同5を統合したものである旨主張した。 
  (エ)  これに対し,特許庁審査官は,拒絶の理由を発見しないとして,特許査定をした(甲23)。
  イ  検討
  上記アの出願経過に照らせば,原告は,構成要件A,同B,同C及び同Hからなる発明(出願当初の特許請求の範囲の請求項1に係る発明)及び構成要件A,同B,同C,同D,同E及び同Hからなる発明(出願当初の特許請求の範囲の請求項2に係る発明)については,特許を受けることを諦め,これらに代えて,構成要件A,同B,同C,同D,同E,同F,同G及び同Hからなる発明(出願当初の特許請求の範囲の請求項1に同2及び同5を統合した発明,すなわち本件発明)に限定して,特許を受けたものといえる。 
  そうすると,原告は,構成要件F(「表示部に仮想モールと,基本パーツを組み合わせてなる基本キャラクターとを表示させ」)及び同G(「基本キャラクターが,前記仮想モール中に設けられた店にて前記パーツを購入する」)の全部又は一部を備えない発明については,本件発明の技術的範囲に属しないことを承認したか,少なくともそのように解されるような外形的行動をとったものといえる
  したがって,「仮想モール」に対応する構成を有していない被告システムについては,均等の成立を妨げる特段の事情があるというべきであり,同システムは,均等の第5要件(特段の事情)を充足しない。
  ⑷  小括
  以上より,被告システムは,少なくとも,均等の第1要件(非本質的部分)及び第5要件(特段の事情)を充足しないから,本件発明と均等なものとして,その技術的範囲に属するものとはいえない。 」

【コメント】
 「携帯端末サービスシステム」とする特許第4547077号の特許権をめぐる,特許権侵害訴訟の事件です。

 まずはクレームからです。
A  表示部と,電話回線網への通信手段とを備える携帯端末から,前記電話回線網に接続されたデータベースにアクセスすることによって,  
  B  前記データベースに用意された複数のキャラクターから,表示部に表示すべき気に入ったキャラクターを決定し,その決定したキャラクターを前記表示部にて表示自在となるように構成してある携帯端末サービスシステムであって,
  C  その決定したキャラクターに応じた情報提供料を通信料に加算する課金手段を備え, 
  D  前記キャラクターが,複数のパーツを組み合わせて形成するように構成してあり,
  E  気に入ったキャラクターを決定するにあたって,前記データベースにアクセスすることによって,複数のパーツ毎に準備された複数のパターンから一つのパターンを選択することにより,少なくとも一つ以上のパーツを気に入ったパーツに決定し,複数のパーツを組み合わせて,気に入ったキャラクターを創作決定する創作決定手段を備え,
  F  前記創作決定手段に,前記表示部に仮想モールと,基本パーツを組み合わせてなる基本キャラクターとを表示させ,
  G  前記基本キャラクターが,前記仮想モール中に設けられた店にて前記パーツを購入することにより,前記パーツ毎に準備された複数のパターンから一つのパターンを決定し,前記基本キャラクターを気に入ったキャラクターに着せ替える操作により,気に入ったキャラクターを創作決定する着せ替え部を備える
  H  携帯端末サービスシステム。
  」

 この手の発明は何が言いたいのか,日本語が不自由なクレームのパターンが多いのですが,この発明はそうではありません。

 以下の図を見ると,さらに分かりやすいと思います。
 
 
 
  つまり,アバターとも言える仮想のキャラクターが,仮想モールの中で色々買い物をして,着替えなどできる~そのような発明です。

 で,被告の方は,サイバーエージェント,つまりアメーバピグです。
 実によく似たサービスです。

 ですので,判決を上からずっと読み進めると,どうしてこんな固い文言解釈をするのだろうと思いますし,どうしてこんな暴論的均等論なんだろうと思います。
 例えば,構成要件Cの「加算する課金手段を備え」の所の文言侵害については,被告サービスでは,別途「コイン」を買っているから「加算」じゃないという,実に頭の固い解釈を取っています。構成要件F,Gの所も,非常に限定した解釈により,文言侵害なしと判断しております。
 
 通常,この程度の違いだと,均等論でOKなレベルだと思います。
 そして,均等論第1要件についても,何と 「全てが従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分に当たる」などという,暴論というか手抜きというか,そのような認定です。
 つまり,ここまでは何のバイアスが掛かったのだろう?,何故こんな結論ありきのような判決なんだろう? という非常に気持の悪い判旨なのです。

 ところが,それが漸く腑に落ちるのは,均等論第5要件です。
 要するに,特許権者(出願人)は審査段階で,構成要件Fと構成要件Gを付加して拒絶を回避しているわけです。ですので,その限定は重く受け止めざるを得ないというわけです。
 自分で権利を狭くし,そのため,アメーバピグのサービスはそこから漏れてしまった,ならば,自業自得,あとでもう少し広く解釈してくれ,などと都合の良いことは言うな!ということなわけです。

 ですので,この判決は均等論第5要件が全てで,均等論第1要件も文言侵害も,そこの下流的副次的判断に過ぎないなと思います。
 でも,そういうことは分かりますが,今回の判決は,やはり手抜き的印象が拭えません。 
 どうせ第5要件でNGなんだから,文言の所も第1要件の所も手抜きでいいんじゃないかな~ということが判決の文言のあちこちから見え隠れします。
  これは頂けません。29部らしくないです。

 実は,29部の嶋末部長は,弁護士の人の間ではあまり評判がよくないようです。噂,あくまでも噂ですが,早く異動してくれないかなあと,そのように思っている代理人弁護士も少なくないようです。
 それは,非常に口やかましく,細部にこだわり,ときには書面の陳述を許さない,そのようなことが裁判の期日で頻発しているからだそうです。

 しかし,私は個人的には非常に評価しておりました。何故なら,判決自体はきちんとしていたからです。それに,口やかましく無く,当たり障りもないけれど,おかしな認定をする知財の裁判官はいくらでも居ました。そんな裁判官よりは100倍マシだからです。
 ですが,そのような私の評価も,今回の判決で一気に崩れそうです。
 手抜きをしないのが29部の良さだと思っていたのですが,それはどうやら過ぎた信頼で,私の買い被りだったようです。

【追伸】
 この事件の控訴審の判決が出ました。
 知財高裁平成29(ネ)10096(平成30年6月19日判決)です。

 と言っても,特段一審に比べて目新しいものではなく,文言侵害のところ,均等論のところ,一審の嶋末部長の合議体の判断を踏襲しています。

 ただし,控訴審だと,手抜き感がありません。これはやはり控訴審が実はどうでもいいもので,一審が勝負だからでしょうか?