2018年4月13日金曜日

審決取消訴訟 特許    平成29(行ケ)10097  知財高裁 不成立審決 請求棄却

事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成30年3月29日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第1部                  
裁判長裁判官       清        水                  節                      
裁判官      中        島        基        至                      
裁判官                岡        田        慎        吾             
 
「   2  取消事由1(相違点1ないし3の判断の誤り)
  (1) 相違点1ないし3について
 所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体又は一の記憶媒体若しくは二の記憶媒体に関して,本件発明1の記憶媒体は,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対して,公知発明1の記憶媒体又は勇士の紋章DDⅡはディスクであり,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」ではない点。
(2) 相違点1ないし3の判断について
 前記1(1)の認定事実によれば,本件発明は,ユーザがシリーズ化された一連のゲームソフトを買い揃えるだけで,標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容を楽しむことを可能とすることによって,シリーズ化された後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。
 これに対し,前記1(2)の認定事実によれば,公知発明は,前作と後作との間でストーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることによって,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編である後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。
 そうすると,公知発明は,少なくとも,前作において実際にプレイしたキャラクタをセーブするとともに,前作のゲームにおいてキャラクタのレベルが16以上となるまでプレイしたという実績(以下「プレイ実績」という。)をセーブすることが,その技術思想を実現するための必須条件となる。そのため,前作において実際にプレイしたキャラクタ及びプレイ実績に係る情報をセーブできない記憶媒体を採用した場合には,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることができなくなる。このことは,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編のゲームをプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すという公知発明の技術思想に反することになる。
 したがって,当業者は,公知発明1のディスクについて,前作において実際にプレイしたゲームのキャラクタ及びプレイ実績をセーブできない記憶媒体,すなわち,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更しようとする動機付けはなく,かえって,このような記憶媒体を採用することには,公知発明の技術思想に照らし,阻害要因があるというべきである。 
 仮に,先行技術発明A等(甲20の1及び2,甲21の1及びの2,甲91,甲92のゲーム等を含む。以下同じ。)のように,2本のゲームのROMカセットを所有し,ゲーム機のスロットに挿入するのみで拡張されたゲーム内容を楽しめるゲームが周知技術であったとしても,これを公知発明1に対して適用するに当たり,公知発明1のディスクを,ゲームのプレイ実績をセーブできない記憶媒体,すなわち,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更すると,上記のとおり,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることができなくなるから,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,後作のゲームの購入を促すという公知発明の技術思想に反することになる。
 また,仮に,ゲームに登場するキャラクタをゲームプログラムにプリセットしておき,プレイヤーがキャラクタを適宜選択できるようにすることが,本件特許の出願当時において,技術常識であったとしても,公知発明1の「キャラクタのレベルが16以上である」というゲームのプレイ実績を,プリセットされたキャラクタに係る情報に変えると,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることができなくなるから,上記と同様に,公知発明の技術思想に反することになる。
 以上によれば,公知発明1において,所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体,一の記憶媒体及び二の記憶媒体を,ディスクから「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更して相違点1ないし3に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえないとした審決の判断に誤りはなく,取消事由1は,理由がない。」
 
【コメント】
「システム作動方法」という発明の特許権(特許第3350773号)を巡る,無効審判の不成立審決の審決取消訴訟の事件です。
 
 本件では,審決が不成立審決で,この判決も審決を是認した請求棄却判決ですので,通常このブログではこういうのは取り上げません。ですが,今回は特別な理由があります。それは,特許権侵害訴訟の対抗としての無効審判の請求だったからです。
 
 本件の被告である特許権者は,カプコンで,原告である無効審判の請求人はコーエーテクモです。
 どこかで聞いたことがありませんか?そう,昨年の暮,大阪地裁で判決が出た特許権侵害訴訟の事件の写し絵です。このブログでも取り上げました。           
 このときは,同じ証拠等で,進歩性なしになったのです。
 
 しかし,無効審判とこの審決取消訴訟ではまったく逆の結論になったわけです。驚きです。
 
 クレームからです。
A  ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって,, 
B  上記記憶媒体は,少なくとも,
B-1  所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,
B-2  所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており,
C  上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに対し,ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するように形成されたものであり, 
D  上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,
D-1  上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,
D-2  上記所定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,
E  ゲームシステム作動方法。
 
 下線部は訂正した部分です。
 
  主引例(公知発明1)等との一致点・相違点です。
 
(ア) 一致点
「ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって,
上記記憶媒体は,少なくとも,所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,切換キーとを包含する一の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する二の記憶媒体とが準備されており,
 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり,
 上記二の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,上記ゲーム装置が上記切換キーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,上記切換キーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,ゲームシステム作動方法。」 

(イ) 相違点
  本件発明1と公知発明1は,次の4つの点において相違する。
  ①  相違点1
 所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体に関して,本件発明1の記憶媒体は,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対して,公知発明1の記憶媒体はディスクであり,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」ではない点。
          ②  相違点2
  一の記憶媒体に関して,本件発明1の記憶媒体は,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対して,公知発明1の魔洞戦紀DDⅠはディスクであり,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」ではない点。
          ③  相違点3
  二の記憶媒体に関して,本件発明1の記憶媒体は,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対して,公知発明1の勇士の紋章DDⅡはディスクであり,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」ではない点。
          ④  相違点4
  切換キーが,本件発明1では,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に包含されていることから,「セーブデータ」ではないのに対して,公知発明1では「魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報」が,ディスクにセーブされた「セーブデータ」である点。
      ウ  先行技術発明A
  先行技術発明Aは,次のとおりである。
「MSX本体に「沙羅曼蛇」ROMと「グラディウス2」ROMを装填した状態で「沙羅曼蛇」のゲームをプレイすると,「グラディウス2」ROMに含まれている所定の情報に基づいて,MSX本体に「沙羅曼蛇」ROMのみを装填してゲームをプレイした場合にはなかったステージX「OPERATION X」が現れるとともに,エンディングが異なったものとなる。

 ま,要するに,主引例が書き換え可能なディスクに対して,本件発明の方は,書き換え可能じゃないCD-ROMみたいなものを念頭に置いている,というのが一番の違いなわけです。

 で,上の判決よりも無効審判の方がわかりやすいと思いますので,それを引用します。
 
公知発明1は,要するに「前作のキャラクタのレベルが16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムが楽しめるようにしてゲームを面白くするという発明」であり,具体的には,後作において,「レベルが最初から2となる」,「神殿で祈るとアイテムが1つ増える」,「神殿で祈った時に,異なるメッセージが表示される」というような拡張ゲームプログラムが楽しめるという発明であるから,公知発明1において,「前作のキャラクタのレベルが16以上であること」は,拡張ゲームプログラムを楽しむための必須の条件である。このことは,キャラクタのレベルが7の場合には,上記のような拡張ゲームプログラムを楽しむことができないようになっていることからも明らかである。
 このように,公知発明1は,少なくとも,前作のキャラクタのレベルが所定値以上となるまで,前作のゲームをプレイしたという,いわば「痕跡」があることが, 後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにするための必須の条件であり,そのような「痕跡」を示す情報を前作の記憶媒体にセーブできることが発明の前提であるから,公知発明1において,前作のゲームをプレイしたという「痕跡」の情報をセーブできない記憶媒体を採用することは想定されていない。 
 また,そのような「痕跡」の情報をセーブできない記憶媒体を採用すると,「前作のキャラクタのレベルが16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムが楽しめるようにしてゲームを面白くする」という公知発明1を実現することができなくなることは明らかである。
 そうすると,ゲームプログラム及び/又はデータを記憶する媒体としてCD-ROMを用いることが本件特許の出願前において周知の技術であったとしても,公知発明1において,ディスクを,キャラクタのレベルの情報が記憶できない記憶媒体,すなわち,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更する動機付けはなく,むしろ,そのような記憶媒体を採用することには,阻害要因がある。
 
 要するに,引用発明の方は,旧作でのレベルを維持することが大事なんだから,セーブできる記憶媒体じゃないと意味がない!というわけです。それをセーブできないCD-ROMと組み合わせるには,阻害要因が生じてしまう!とこんなわけですね。
 
 これは,さらに審決で分かりやすく説明しています。
 「 上記(ア)で検討したように,公知発明1は,少なくとも,前作のキャラクタのレベルが所定値以上となるまで前作のゲームをプレイしたという「痕跡」を用いることによって,後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにするという発明である。
 すなわち,公知発明1は,「前作のゲームを一定程度プレイしたユーザに対してのみ,後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにするという発明」であって,単に「前作を有していれば,誰にでも,後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにするという発明」ではないから,公知発明1と本件発明1とは,どのような場合に「後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにする」かという発想の点で異なっている。つまり,本件発明1では,ユーザが前作を所有していることを促す,すなわち,「ユーザに前作の購入を促す」ことが目的となっているのに対して,公知発明1では,「ユーザが前作のゲームを一定程度プレイすることを促す」ことが目的となっており,ユーザにどのような行為を促すのかという目的の点で異なっていることから,本件発明1と公知発明1とは,所定のキーを設ける目的が異なるものである。 
 そうすると,「ユーザが前作のゲームを一定程度プレイすることを促す」ことを目的としている公知発明1において,「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件を取り除く理由がなく,「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件を取り除いてしまうと,公知発明1の目的を達成することができなくなるのであるから,そのようにすることには,むしろ阻害要因があるといえる。

 本件発明の場合,兎に角連作として買い続ければ,拡張機能がOKになるという発明です。つまり,連作として買わせることに意義を見出すものです。旧作をやりこんだとかは関係ありません。
 他方,引用発明は,旧作をある程度やってもらわないと新作でその面白さの続きを味わうことができない,とこんな感じです。

 なので,ちょっと技術的思想が違う,このように判断されたのもまた仕方の無いことだとは思います。

 とは言え,侵害訴訟の一審からすると,あーあ本当進歩性って裁判官の胸先三寸の世界だなあと思わせるに十分です。価値観的にどっちもありでしょうしね。
 
 まあしかし,これで侵害訴訟の被告のコーエーテクモとしては,大ピンチです。侵害訴訟は,おそらくこの後損害論に入っているのではないかと推測されます。