2018年5月31日木曜日

特許取消決定取消請求事件 特許   平成29(行ケ)10129  知財高裁 取消決定 請求認容


事件番号
事件名
 特許取消決定取消請求事件
裁判年月日
 平成30年5月24日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第3部      
裁判長裁判官          鶴      岡      稔      彦        
裁判官                    寺      田      利      彦        
裁判官                     間      明      宏      充 
 
「 (1) 課題の認定について
ア  前記のとおり,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
 また,発明の詳細な説明は,「発明が解決しようとする課題及びその解決手段」その他当業者が発明の意義を理解するために必要な事項の記載が義務付けられているものである(特許法施行規則24条の2)。 
 以上を踏まえれば,サポート要件の適否を判断する前提としての当該発明の課題についても,原則として,技術常識を参酌しつつ,発明の詳細な説明の記載に基づいてこれを認定するのが相当である。 
 かかる観点から本件発明について検討するに,本件明細書の発明の詳細な説明には,米糖化物含有食品であるライスミルクの製造時に各種酵素を制御することなく加えると,プロテアーゼによりアミノ酸,オリゴペプチドが生成し,うまみ調味料様の雑味がついてしまい,用途が限られたこと(【0002】),食感が滑らかで雑味がなくすっきりした味を持つ米糖化液としてアミノ酸濃度が一定範囲である米糖化液が開発されたが,甘味,コク(ミルク感)等の風味は十分に改善されておらず,必ずしも満足できるものではなかったこと,さらに,グラノーラ,パンケーキ等が流行する一方,牛乳アレルギー,大豆アレルギーの人口は増加傾向にあり,風味が改善された牛乳や豆乳の代用品が求められていたこと(【0003】)などが背景技術として記載されている。その上で,発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題として,「本発明は,米糖化物含有食品のコク,甘味,美味しさ等を改善するという課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果見出されたものである。すなわち,本発明は,コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供することを目的とする。さらに,従来牛乳や大豆を用いて製造又は調理されていた多数の食品を作ることを可能にする食品を提供することも目的とする。」との記載がある(【0006】)。
 これらの記載からすれば,本件発明は,「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」それ自体を課題とするものであることが明確に読み取れるといえる。
イ  これに対し,異議決定は,「本件発明1の課題は,本件特許明細書の『コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること』(【0006】)との記載及び実施例(【0031】~【0043】)において,『コク(ミルク感)』,『甘み』及び『美味しさ』の各評価項目について評価を行っていることから,『コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること』と認められる。」と,一旦は上記アと同様に本件発明1の課題を認定しながら,最終的なサポート要件の適否判断に際しては,「本件発明1の課題は,上記aのとおり,具体的には,実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有するものを提供することであ(る)」とその課題を認定し直し,課題の解決手段についても,「本件発明1が課題を解決できると認識できるためには,…実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有することを認識できることが必要である。」としている(異議決定12頁16~25行)。
 この点について,被告は,発明が解決しようとする課題とは,出願時の技術水準に照らして未解決であった課題であるから,本件発明1の「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」という課題は,本件出願時の技術水準を構成する米糖化物含有食品(具体的には,実施例1-1のライスミルク)に比べて,コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供することであり, したがって,異議決定においては,本件発明1の課題について,「具体的には,実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有するものを提供すること」としたものである(したがって,異議決定の課題の認定に誤りはない)と主張する。
 確かに,発明が解決しようとする課題は,一般的には,出願時の技術水準に照らして未解決であった課題であるから,発明の詳細な説明に,課題に関する記載が全くないといった例外的な事情がある場合においては,技術水準から課題を認定するなどしてこれを補うことも全く許されないではないと考えられる。
 しかしながら,記載要件の適否は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載に関する問題であるから,その判断は,第一次的にはこれらの記載に基づいてなされるべきであり,課題の認定,抽出に関しても,上記のような例外的な事情がある場合でない限りは同様であるといえる

 したがって,出願時の技術水準等は,飽くまでその記載内容を理解するために補助的に参酌されるべき事項にすぎず,本来的には,課題を抽出するための事項として扱われるべきものではない(換言すれば,サポート要件の適否に関しては,発明の詳細な説明から当該発明の課題が読み取れる以上は,これに従って判断すれば十分なのであって,出願時の技術水準を考慮するなどという名目で,あえて周知技術や公知技術を取り込み,発明の詳細な説明に記載された課題とは異なる課題を認定することは必要でないし,相当でもない。出願時の技術水準等との比較は,行うとすれば進歩性の問題として行うべきものである。)。
 これを本件発明に関していえば,異議決定も一旦は発明の詳細な説明の記載から,その課題を「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」と認定したように,発明の詳細な説明から課題が明確に把握できるのであるから,あえて,「出願時の技術水準」に基づいて,課題を認定し直す(更に限定する)必要性は全くない(さらにいえば,異議決定が技術水準であるとした実施例1-1は,そもそも公知の組成物ではない。)。
 したがって,異議決定が課題を「実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて有意な差を有するものを提供すること」と認定し直したことは,発明の詳細な説明から発明の課題が明確に読み取れるにもかかわらず,その記載を離れて(解決すべき水準を上げて)課題を再設定するものであり,相当でない。
 以上によれば,異議決定における課題の認定は妥当なものとはいえず,被告の主張は採用できない。 」

【コメント】
 「米糖化物並びに米油及び/又はイノシトールを含有する食品」と題する発明の特許権(特許第5813262号)の異議申立てについての争いです。
 ここで,異議申立て関連の事件を紹介するのは初めてかもしれません。

 しかし,審決取消訴訟と特段何か大きく変わるところはありません。異議申立てでは取消決定となったため(サポート要件違反),それに不服の特許権者である原告が出訴したというものです。
 
 まずは,クレームからです。
 「【請求項1】
  米糖化物,及びγ-オリザノールを1~5質量%含有する米油を含有するライスミルクであって,当該米油を0.5~5質量%含有するライスミルク。 
 
 さて,異議決定では,本件発明1の課題は,「実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位(判決注:「有意」の誤記と認める。以下同じ。)な差を有するものを提供すること」という風に認定したのですね。つまり,かなりハードルの高い課題です。
 なぜなら,出願時において未解決の課題が本願発明の課題なのだから,こんな風に出願時の技術水準を斟酌してハードルを上げることも許されるのだ!としたわけですね。
 
 ま,この考え方も一理はあると思うのですね。
 今回の判断の規範は,いわゆるパラメータ事件の大合議判決ですけど,課題が解決できるように明細書に書いとらんとサポートされてるとは言えないっていうのがその趣旨で,そこでいう課題には当然出願時の技術水準が入りこんでいるはずですからね。 

 だけど,だからと言って,明細書にちゃんと本願発明の課題って書いているのに,それを超えた余計なことまで認定するのはやりすぎだ!というわけです。それ以上のことは,さすがに進歩性でやってくれ,こういうことなんでしょうね。
 
 それはそうかなあと思います。特許庁は技術の専門家ということになっていますので,だからこそ技術の見方には厳しいものがあります。それで良いこともあれば悪いこともある,今回は悪い方が出てしまったということでしょうか。


2018年5月17日木曜日

審決取消訴訟 特許   平成29(行ケ)10096  知財高裁 不成立審決 請求認容

事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成30年5月15日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 鶴      岡      稔      彦
 裁判官 杉      浦      正      樹  
 裁判官  間      明      宏      充  

「 (2) 相違点の容易想到性について
ア  本件訂正発明1と甲1発明との相違点である,甲1発明におけるSiO 2 粒子(非磁性材)の含有量を「3重量%」(3.2mol%)から「6mol%以上」とすることについて,当業者が容易に想到できるといえるか否かを検討する。
      イ  動機付けの有無について
 (ア) 上記3(1)において認定したとおり,本件特許の優先日当時,垂直磁気記録媒体において,非磁性材であるSiO 2 を11mol%あるいは15~40vol%含有する磁性膜は,粒子の孤立化が促進され,磁気特性やノイズ特性に優れていることが知られており,非磁性材を6mol%以上含有するスパッタリングターゲットは技術常識であった。
            そして,本件特許の優先日前に公開されていた甲4(特開2004-339586号公報)において,従来技術として甲2が引用され,甲2に開示されている従来のターゲットは「十分にシリカ相がCo基焼結合金相中に十分に分散されないために,低透磁率にならず,そのために異常放電したり,スパッタ初期に安定した放電が得られない,という問題点があった」(段落【0004】)と記載されていることからも,優れたスパッタリングターゲットを得るために,材料やその含有割合,混合条件,焼結条件等に関し,日々検討が加えられている状況にあったと認められる。
 そうすると,甲1発明に係るスパッタリングターゲットにおいても,酸化物の含有量を増加させる動機付けがあったというべきである(磁気記録方式の違いが判断に影響を及ぼさないことについては,後記オ(ア)に説示するとおりである。)。
        (イ) 次に,具体的な含有量の点についてみると,被告も,非磁性材の含有量を「6mol%以上」と特定することで何らかの作用効果を狙ったものではないと主張している上,証拠に照らしても,6mol%という境界値に技術的意義があることは何らうかがわれない
 さらに,本件明細書の段落【0016】及び【0017】に記載されているスパッタリングターゲットの作製方法は,本件特許の優先日当時,一般的に使用・利用可能であった通常の強磁性材及び非磁性材を用い,様々な原料粉の形状,粉砕・混合方法,混合時間,焼結方法,焼結温度を選択することにより,本件訂正発明に係る形状及び寸法を備えるようにできるというものであるから,甲1発明に基づいて非磁性材である酸化物の含有量が6mol%以上であるターゲットを製造することに技術的困難性が伴うものであったともいえない。
 そうすると,磁気特性やノイズ特性に優れたスパッタリングターゲットの作製を目的として,甲1発明に基づいて,その酸化物の含有量を6mol%以上に増加させる動機付けがあったと認めるのが相当である。 
・・・
エ  有利な効果について
 本件明細書には,本件訂正発明に係るターゲットを使用することにより,「品質の優れた材料を得ることができ,特に磁性材料を低コストで安定して製造できる」,その「密度向上は,非磁性材と強磁性材との密着性を高めることにより,非磁性材の脱粒を抑制することができ,また,空孔を減少させ結晶粒を微細化し,ターゲットのスパッタ面を均一かつ平滑にすることができるので,スパッタリング時のパーティクルやノジュールを低減させ,さらにターゲットライフも長くすることができる」という効果を有する旨記載されている(段落【0014】)。
 しかし,上記効果は,ターゲット中の非磁性材が3mol%(本件明細書記載の実施例2。上記1(2)カ(イ)参照。)という甲1発明と同様のものにおいても認められるというのであって,他の証拠に照らしても,非磁性材の含有量を6mol%以上とすることによって格別の効果を奏するものと認めることはできない。 」

【コメント】
 被告の有する「非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット」の特許権(特許第4975647号)について,原告の請求した無効審判が不成立審決(進歩性あり等)となったための,審決取消訴訟の事件です。

 色々,論点はあるのですが,結論としては,やっぱりそこなんだ!という感じのする判決です。
 
 まずは,クレームからです。本件訂正発明です。
 
1A  Co若しくはFe又は双方を主成分とする材料の強磁性材の中に酸化物,窒化物,炭化物,珪化物から選択した1成分以上の材料からなる非磁性材の粒子が分散した材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって,
1F  前記非磁性材は6mol%以上含有され,
1B  前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2㎛の全ての仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とからなり,
1C  研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域の最大径が40㎛以下であり,
1D  直径10㎛以上40㎛以下の非磁性材の粒子が存在しない領域の個数が1000個/mm 2 以下である
1E  ことを特徴とする焼結体からなる非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。

 つぎに,一致点・相違点です。
イ  本件訂正発明1の構成要件1Bに係る事項は択一的であるところ,甲1発明の構成要件bは,本件訂正発明1の構成要件1Bに規定された「研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子」についての択一的記載の一方である「非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2㎛の全ての仮想円よりも小さい」との事項に相当する。  
          したがって,本件訂正発明1と甲1発明とは,以下の点で一致する。 
 1A  Co若しくはFe又は双方を主成分とする材料の強磁性材の中に酸化物,窒化物,炭化物,珪化物から選択した1成分以上の材料からなる非磁性材の粒子が分散した材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって,
1B  前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2㎛の全ての仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とからなり, 
1C  研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域の最大径が40㎛以下であり, 
1D  直径10㎛以上40㎛以下の非磁性材の粒子が存在しない領域の個数が1000個/mm 2 以下である 
1E  ことを特徴とする焼結体からなる非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
  (3) 本件訂正発明1と甲1発明との相違点
 本件訂正発明1においては,非磁性材の含有量が「6mol%以上」であるのに対し,甲1発明においては,SiO 2 粒子(非磁性材)の含有量が「3重量%」である点。 
 
 構成要件が複数ある数値限定発明ですけど,結局違う点は,非磁性材の含有量という数値限定の違いだけ,というわけです。
 
 そして,その数値限定については, 臨界的意義が無かったというものです(判旨のとおり)。
 だとすると,これで進歩性を認めるのは至難の技です。
 
 本件のような数値限定しか違いがない場合は,顕著で有利な効果があるかどうか,つまりは臨界的意義があるかどうか,それ一本と言ってよいのですが,上記のとおり,これを認めることが出来なかったわけですので,結論は致し方ない所でしょう。

 このような認定で,むしろ,なぜ審決が進歩性を認めたのかが気になる所ですが,本件訂正発明の課題が当業者によく知られていたことではなく,本件訂正発明オリジナルのものだという認定が審決の認定でした。ですので,ここの部分の大元が異なるので,審決と判決で結論が違うという,複雑系というかカオス的な話になったのだと思います。

 

 
 

2018年5月16日水曜日

不正競争  平成28(ワ)6074  大阪地裁 請求一部認容

事件番号
事件名
 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日
 平成30年4月17日
裁判所名
 大阪地方裁判所第21民事部  
裁判官          野    上    誠    一  
裁判長裁判官森崎英二及び裁判官大川潤子は転補により署名押印すること
ができない。
裁判官        野    上    誠    一 

「(3) 原告標章と被告標章の類似性について 
ア  ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似のものに当たるか否かについては,取引の実情の下において,取引者,需要者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷・民集37巻8号1082頁参照)。 
 イ  これを本件についてみると,被告標章1及び4である「堂島プレミアムロール」は,「堂島」,「プレミアム」,「ロール」の3語で構成されているが,このうち,「プレミアム」との語は,優れたあるいは高品質なものを意味する語であり,商品が優れたり,高品質なものであったりすることを表現するため商品名に「プレミアム」という文字が付加される例も多い(乙C7の1,2,乙C8の1参照)ことが一般的に認められるから,「プレミアム」の部分は,これと結合する他の単語で表示される商品の品質を表すものと理解され,商品の出所識別機能があるものとは認められない。他方,「堂島」は地名,「ロール」は「ロールケーキ」の普通名詞の略称を表す語であるが,「プレミアム」が上記のとおり,品質を示す意味しか有しないことからすると,「プレミアム」を挟んで分離されているものの,被告標章1及び4からは,プレミアムな,すなわち高品質な「堂島ロール」との観念が生じ,これは原告の商品等表示として周知である「堂島ロール」の観念と類似しているといえるし,また称呼も同様に類似しているといえる。
 そうすると,被告標章1及び4と原告標章とは,被告標章4のみならず字体に特徴のある被告標章1を含め,取引者,需要者が外観,称呼又は観念の同一性に基づ く印象,記憶,連想等から,両者を全体として類似のものとして受け取るおそれがあるというべきである。
ウ  また被告標章2については,「(株)堂島プレミアム」と「プレミアムロール」との語を2段重ねで一体的に表示したものであるが,「(株)」というのは会社の種類を示す株式会社の略語にすぎないから,これ自体に出所識別機能は認めら れない。そこで,これを除くと,被告標章2は,「堂島プレミアム」と「プレミアムロール」が2段重ねで一体化している表示であるが,上段,下段で重複して使用されている「プレミアム」という語は,上記で判示したとおり,独自の出所識別機能を有しない語であるし,また取引の現場では長い名称の商品名は略して称呼され,観念されることが多いと考えられるから,繰り返される「プレミアム」の部分は一単語に省略され,さらにそれ自体の出所識別機能がないことも合わさって,「堂島 プレミアム,プレミアムロール」から,「堂島」と「ロール」という2語が需要者に強く印象付けられると考えられる。したがって,被告標章2からは被告標章1及び4についてみたのと同様,プレミアムな,すなわち高品質な「堂島ロール」という観念が生じるということができ,これは原告の商品等表示として周知である「堂島ロール」の観念と類似しているといえる。 
 また,称呼の点も,同様に「ドウジマプレミアムロール」との称呼が生じるといえるから,原告標章の「ドウジマロール」との称呼と類似しているといえる。
 そうすると,被告標章2と原告標章とは,取引者,需要者が外観,称呼又は観念の同一性に基づく印象,記憶,連想等から,両者を全体として類似のものとして受け取るおそれがあるというべきである。 
エ  さらに被告標章3は,被告標章2の上段部分の「(株)堂島プレミアム」部分を,下段の「プレミアムロール」より小さな文字で表示しているものであるが,上下段の一体性を損なうほど,文字の大きさに差はないから,被告標章2と同様の理由から,取引者,需要者は被告標章3と原告標章を類似のものと受け取るおそれがあるということができる。 
オ  被告標章5は,被告標章2及び3の「(株)」の部分を「株式会社」,「(株)」又は同部分に相当する部分がないものとしている標章であるが(ただし,2段重ねという限定はない。),「(株)」については既に説示したとおりであり,「株式会社」についても,単なる会社の種類を表示する語にすぎないから,これが全くない場合も含め,被告標章5と原告標章が類似しているといってよいことは,上記ウ, エで説示したところと同じである。
カ  以上のとおり,被告標章は,いずれも原告標章と類似しているものと認められる。
 
(4) 商品の混同を生ずるおそれの有無
 以上のとおり,原告標章と被告標章は類似しており,原告標章を付した原告商品と被告標章を付した被告商品はいずれも一般消費者を需要者とするロールケーキという点で共通しているだけでなく,両商品の販売価格はほぼ一緒であるから,被告商品を販売する行為は,他人である原告の商品と混同を生じさせる行為であるということができる。 ・・・」
 
【コメント】
 報道でも少し話題になった堂島ロールの表示の事件です。かれこれ一ヶ月近く前の判決なのですが,何故かサイトへのアップは遅れて,近々の話になっております。
 
 さて,原告の堂島ロールの表示は以下のとおりです。
 
 この外にも,標準文字のものやイラスト付きのものもあり,さらには,上記標章にて,商標権も取得しております(商標登録第5446720号)。
 
 他方,被告側の堂島プレミアムの表示は以下のとおりです。
  
 これ以外にも,社名の堂島プレミアムと二段重ねした
  
 こういうパターンもありました。
 
 で,結論は上記のとおりです。判断の規範となった最高裁の判決(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷・民集37巻8号1082頁)は,日本ウーマンパワー事件としてよく知られているものです(商標・意匠・不正競争判例百選なら,70です。)。
  
 基本的には,商標の氷山事件の流れを汲むものです。
 
 ただし,商標法と異なり,不正競争防止法の2条1項1号の周知表示混同惹起行為については,混同も要件の1つとされております。
 実は,上記の日本ウーマンパワー事件は,その「混同」の解釈についても判示があるのですが,本件での「混同」は大した判示はありません。 

 さて,この判決ですが,要するに,「堂島ロール」と「堂島プレミアムロール」は似ていると判断したわけです。
 商標の審査基準において,昔から廃れずに書かれている,類似の例,「スーパーライオン」と「ライオン」のことを考えると,質を表す語を付け加えただけでは類似の範囲からは逃れられないという結論は致し方ないと思えます。

 ということですので,知財高裁に仮に行ったとしても(不正競争だから大阪高裁でもいいのですね。),結論がひっくり返ることはないと思います。