2018年6月8日金曜日

侵害訴訟 特許 平成28(ワ)41720  東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 損害賠償請求事件
裁判年月日
 平成30年5月31日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第47部 
裁判長裁判官            沖      中      康      人 
裁判官            髙      櫻      慎      平 
裁判官矢口俊哉は転補のため署名押印できない。 
裁判長裁判官            沖      中      康      人 
 
「  (1) 本件発明の構成要件(4)及び(5)は,次のとおりである。
「前記受信機は前記地震データ,該受信機の位置,及び時計を用いて受信点における地震の到来方向,予想震度及び到達時刻を演算し,」「演算された地震の到来方向,予想震度及び到達時刻を警報・通報する,ことを特徴とした」  
・・・
 このほか,平成17年2月15日付け審判請求書(乙16)には,「(2)引用文献1(特開2000-57457)」欄に,「これに対して,本装置は,地震データを放送することは類似しているものの,これをそのまま告知に利用するのではなく,あくまでも,検出した地震データ(震源の震度,位置,検出,時刻)と受信位置(位置,時刻)に居る個人または集団を対象に,相互に演算し た結果により告知(到来時間,時刻,到来方向,予想震度)します。これは,すなわち,放送エリア内は同一であっても受信位置が異なれば全部違うということは当然で,極めて現実であって,引用文献とは根本的に大きく異なります。」との記載がある(3頁3行~9行)。
(4)  前記(1)のとおりの構成要件(4)及び(5)の文言に加え,前記(2)のとおりの明細書(甲2)の記載(とりわけ【発明が解決しようとする課題】(段落【0003】)及び【課題を解決するための手段】(段落【0004】)の記載)を総合すると,構成要件(4)及び(5)の「地震の到来方向,予想震度及び到達時刻」の「警報・通報」とは,個々の受信機において,「地震データ」に加え「該受信機の位置」及び「時計」を用いて,個々の受信機における「地震の到来方向」が「予想震度」及び「到達時刻」とともに「演算」されて,それが「警報・通報」されるものと解すべきであり,それ故に,地震データをそのまま告知に利用するのでは足りず,個々の受信機の受信位置ごとに異なる個別の情報を提供することを意味し,受信機における何らかの表示から地震の到来方向等が判断できればよいとするものではないというべきである。上記解釈は,上記(3)のとおり の本件特許の出願段階において原告(出願人)が提出した書面の記載内容からも裏付けられる。
(5)  他方,第2,1前提事実(3)イのとおり,被告が行う緊急地震速報の構成は次のとおりである。
・・・
(7)  上記(5),(6)のとおり,被告(気象庁)が行う緊急地震速報では,地震の観 測,データ処理,情報の発表を行うにすぎず,「受信」行為を行っていない(緊急地震速報を受信するのは,被告(気象庁)以外の第三者である。)。
 また,仮に上記第三者の受信行為まで考慮に入れたとしても,被告の緊急地震速報では,本件発明の「検出センタ」に相当する処理装置から「予想震度」や「到達予想時刻」が出力されており,受信機側で「予想震度」や「到達時刻」 の演算が行われることは想定されておらず,したがって,個々の受信位置ごとに異なる個別の情報が提供されることもない。
 さらに,被告の緊急地震速報で発表される情報は,上記(6)イのとおりであり,その中に「地震の到来方向」は含まれていない。なお,インターネット検索サイト Yahoo!JAPAN のニュースサイトに掲載された,高度利用者向け受信端 末の緊急地震速報に係る画像(甲5)上も,各地の予想震度を1つの地図内に図示しているにすぎず,地震データをそのまま告知に利用しており,個々の受信機の受信位置ごとに異なる個別の情報である「地震の到来方向」を提供していない。 したがって,上記地図をみた者は,自らの所在地と震源地とを比較することで「地震の到来方向」を判断できるとしても,同地図上,「地震の到来方  向」自体が「警報・通報」されているものとはいえない。
 このように,被告が行う緊急地震速報は,①「受信」行為が含まれていないほか,仮に第三者の受信行為まで考慮に入れたとしても,②受信機側で「予想震度」や「到達時刻」の演算が行われることが想定されておらず,③地震データをそのまま告知に利用しており,「地震の到来方向」を演算したり,これを警報・通報することを想定していないから,いずれにしても,本件発明の構成要件(4)及び(5)を充足しない。これに反する原告の主張は,上記説示に照らして
採用できない。」

【コメント】
 発明の名称を「地震到来予知システム」とする特許権(第4041941号 )を有する原告(個人)が,国の組織の一部である気象庁において行う緊急地震速報!が,特許権侵害だと訴えた事件です。

 判決をさらっと見たときは,また病んだ粘着系が特許庁や裁判所を訴えたパターン(拒絶査定がおかしいだとか,却下判決がおかしいだとか・・・)かと思いましたが,全く違いました。かなりまともな特許権侵害事件です。
 
 クレームからです。
(1) 3箇所以上に配置した検出器であって,地震計を含み,該地震計の出力による震度,位置及び時刻からなる検出データを出力する検出器と,
(2) 前記検出器から出力された検出データを受信・データ処理して震源の震度,位置及び時刻からなる地震データを出力する検出センタと,
(3) 前記検出センタから出力された地震データを放送局,電話局,データ端末,インターネットなどを介して受信機へ送信する手段と,を備え,
(4) 前記受信機は前記地震データ,該受信機の位置,及び時計を用いて受信点における地震の到来方向,予想震度及び到達時刻を演算し,
(5) 演算された地震の到来方向,予想震度及び到達時刻を警報・通報する,ことを特徴とした
 
(6) 地震到来予知システム。
」   

 これもさらっと読むと結構広いように思えます。気象庁のやっている緊急地震速報なら該当しそうな感じもします。回避するには無効の抗弁か・・・と思いましたが,そこも裏切られました。
 
 判旨のとおり,裁判所は構成要件該当性の所で決着をつけております。 いわば真正面から対峙しております。これは非常に好感の持てることだと思います。
 
 要するに,気象庁は自分の持ちデータというか解析結果を単に公表するだけです。
 他方,本件特許は,個別の受信機(国民一人一人が持つラジオやテレビレベルの物です。)において,やってきたデータからの「演算」までも行って,その結果を警報するという,手の込んだものです。

 そうすると,かなり異なる技術と言えますので,構成要件該当性がないと判断されたのも仕方がないでしょうね。

 ただし,今回構成要件該当性がないと判断された箇所については,均等論の主張がされておらず,控訴審で戦う余地はありそうです。ですが,しかし判旨だけから見ると,均等の第5要件及び第1要件ではねられそうで,ちょっと分が悪いかなという感がします。