事件番号
事件名
審決取消請求事件
裁判年月日
平成30年6月19日
裁判所名
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 鶴 岡 稔 彦
裁判官 寺 田 利 彦
裁判官 間 明 宏 充
「 本件発明が特開2001-353548号公報(甲1・先願明細書)に記載された発明(先願発明)と同一であって拡大先願(特許法29条の2)の規定に違反するとの主張(無効理由)は,原告が既に先行事件で主張し,先行事件審決及び先行訴訟判決で退けられた主張である(当裁判所に顕著な事実)。
そうすると,本件無効審判の請求が先行事件審決(先行事件判決)の確定前になされたものであり,特許法167条が定める効力が本件無効審判に及ばないとしても,これを奇貨として,先行事件におけるのと同様の主張を(本件審決の取消事由として)本件訴訟において行うことは,実質的に前訴の蒸し返しに当たり,訴訟上の信義則に反するものとして許されないというべきである。
また,仮にその主張内容を検討するとしても,本件発明1と先願発明との一致点及び相違点は,前記第2の3(2)イ,ウのとおりであるところ,両発明はマグネシウムを含有するか否かにおいてそもそも成分が異なるものである。この点,先願明細書の請求項3,【0007】及び【0014】には,「亜鉛又は亜鉛ベース合金」として,亜鉛をベースとして含む合金一般を広く意味する記載があるが,先願明細書において,「亜鉛ベース合金」として具体的に記載されているのは,実施例2(【0036】)の「50-55%のアルミニウムと45-50%の亜鉛とから成り,任意に少量のケイ素を含有する」合金のみであって,本件発明1の発明特定事項である「亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき」が記載されている又は記載されているに等しいということはできない。
また,原告は,先願発明の実施例2において,目的に応じてマグネシウムを適宜量添加することは周知慣用の技術の適用にすぎなかったといえる旨主張するが,その根拠とするところは,要するに,本件明細書において,マグネシウムを添加することの具体的意義が記載されておらず,「亜鉛系めっき層の組成は特に制限がなく,Al,Mn,Ni,Cr,Co,Mg,Sn,Pbなどの合金元素をその目的に応じて適宜量添加した亜鉛合金めっき層であってもよい。」(【0040】)と記載されている点のみであって,それだけでは到底,原告が主張する周知慣用技術を認めることはできず,ほかにこれを認めるに足る証拠はない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できず,取消事由3も理由がない。 」
そうすると,本件無効審判の請求が先行事件審決(先行事件判決)の確定前になされたものであり,特許法167条が定める効力が本件無効審判に及ばないとしても,これを奇貨として,先行事件におけるのと同様の主張を(本件審決の取消事由として)本件訴訟において行うことは,実質的に前訴の蒸し返しに当たり,訴訟上の信義則に反するものとして許されないというべきである。
また,仮にその主張内容を検討するとしても,本件発明1と先願発明との一致点及び相違点は,前記第2の3(2)イ,ウのとおりであるところ,両発明はマグネシウムを含有するか否かにおいてそもそも成分が異なるものである。この点,先願明細書の請求項3,【0007】及び【0014】には,「亜鉛又は亜鉛ベース合金」として,亜鉛をベースとして含む合金一般を広く意味する記載があるが,先願明細書において,「亜鉛ベース合金」として具体的に記載されているのは,実施例2(【0036】)の「50-55%のアルミニウムと45-50%の亜鉛とから成り,任意に少量のケイ素を含有する」合金のみであって,本件発明1の発明特定事項である「亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき」が記載されている又は記載されているに等しいということはできない。
また,原告は,先願発明の実施例2において,目的に応じてマグネシウムを適宜量添加することは周知慣用の技術の適用にすぎなかったといえる旨主張するが,その根拠とするところは,要するに,本件明細書において,マグネシウムを添加することの具体的意義が記載されておらず,「亜鉛系めっき層の組成は特に制限がなく,Al,Mn,Ni,Cr,Co,Mg,Sn,Pbなどの合金元素をその目的に応じて適宜量添加した亜鉛合金めっき層であってもよい。」(【0040】)と記載されている点のみであって,それだけでは到底,原告が主張する周知慣用技術を認めることはできず,ほかにこれを認めるに足る証拠はない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できず,取消事由3も理由がない。 」
【コメント】
発明の名称を「熱間プレス用めっき鋼板」とする特許権(特許第3582504号)についての無効審判(不成立)→審決取消訴訟となった事件です。
クレームは以下のとおりです。
「【請求項1】
表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えた亜鉛-ニッケル合金めっき層,亜鉛-コバルト合金めっき層,亜鉛-クロム合金めっき層,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層,スズ-亜鉛合金めっき層または亜鉛-マンガン合金めっき層を鋼板表面に有することを特徴とする700~1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用鋼板。 」
表層に加熱時の亜鉛の蒸発を防止する酸化皮膜を備えた亜鉛-ニッケル合金めっき層,亜鉛-コバルト合金めっき層,亜鉛-クロム合金めっき層,亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層,スズ-亜鉛合金めっき層または亜鉛-マンガン合金めっき層を鋼板表面に有することを特徴とする700~1000℃に加熱されてプレスされ焼き入れされる熱間プレス用鋼板。 」
原告被告とも大企業で引くに引けない戦いというのは分かるのですけど,実は,これ2回めです。
つまり,ここでも紹介した知財高裁平成26(行ケ)10201の事件の蒸し返しです。
前の事件は,請求人の敗訴,つまり無効にできずで確定しております。ところが,それが確定する前に,ほぼ同一の無効理由で再度無効審判を請求したわけです。
そうすると,何が良いかと言うと,特許法167条を回避できるというわけです。
「(審決の効力)
第百六十七条 特許無効審判又は延長登録無効審判の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」
上記のとおり,条文上は「確定したとき」ですから,確定してなきゃ,同一の事実and同一の証拠でもOK!というわけです。
原告の代理人の弁護士は大ベテランのようですから,蛇の道は蛇~みたいな手を使ったのでしょうかね。
ですが,前にダメだったのと同じもの(引例も同じです。)を使ってうまくいく可能性がないのが通常ですから,やはりここでもダメだったわけです。
はっきり言って金のムダです。原告はかなりの大企業ですけど,あまり知財部の程度というか全体的なオツムの程度が芳しくないようです。
まず,負けた同じ代理人に頼むということがダメです。儲かるのが代理人だけになります。
つぎに,代理人に儲けさせるくらいなら,同じ金で死に物狂いで先行技術を探すべきでした。大ベテランの有名代理人に払う何十分の一のお金で凄く近い先行技術が探せたかもしれません。
新しい先行技術が出てきた場合にのみ,新しい無効審判を起こせばいいのです。
日本の知財の夜明けは遠いようですね~。