事件番号
事件名
特許権侵害差止請求事件
裁判年月日
平成29年1月26日
裁判所名
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川 浩二
裁判官 萩原孝基
裁判官 中嶋邦人
裁判長裁判官 長谷川 浩二
裁判官 萩原孝基
裁判官 中嶋邦人
「原告は,本件発明等における「緩衝剤」の意義につき,外部から添加したシュウ酸のみならず,オキサリプラチン水溶液において分解して生じるシュウ酸も含まれると主張する。この主張を採用することができなければ,その余の構成要件充足性を検討するまでもなく,被告製品は本件発明等の技術的範囲に属しないことになる。他方,原告の上記主張を前提とした場合に本件特許に無効理由があり,かつ,訂正によって無効理由が解消されないとすれば,原告の請求は棄却されるべきものとなる。そこで,まず,無効理由の有無(後記1)及び訂正の再抗弁(後記2)について検討する。
1 (乙3発明に基づく新規性欠如)及びカ(乙3発明に基づく進歩性欠如)について
(1)乙3発明に基づく新規性欠如について
ア 本件特許の優先日前に頒布された乙3公報の記載(乙4公報の【特許請求の範囲】請求項1,6頁~8頁)によれば,乙3発明は,濃度が1~5mg/mlのオキサリプラチン,水及びシュウ酸を包含するpHが4.5~6の安定オキサリプラチン溶液組成物であることが認められる。
(1)乙3発明に基づく新規性欠如について
ア 本件特許の優先日前に頒布された乙3公報の記載(乙4公報の【特許請求の範囲】請求項1,6頁~8頁)によれば,乙3発明は,濃度が1~5mg/mlのオキサリプラチン,水及びシュウ酸を包含するpHが4.5~6の安定オキサリプラチン溶液組成物であることが認められる。
本件発明等と上記の乙3発明を対比すると,シュウ酸の量につき,本件発明等が構成要件G及びIに規定するモル濃度の範囲としているのに対し,乙3発明がこれを特定していない点で相違するから,本件発明等は乙3発明との関係で新規性を有するものと認められる。・・・
(2)乙3発明に基づく進歩性欠如について
上記イ(ア)及び(イ)の各認定事実によれば,少なくともオキサリプラチンの濃度を5mg/mlとしたオキサリプラチン水溶液を乙3公報に記載された条件に準じて調製すれば,調製条件に多少の差異があったとしても,構成要件G及びIに規定するモル濃度の範囲内のシュウ酸を含有するオキサリプラチン溶液組成物が生成されると認められる。そして,乙3発明におけるオキサリプラチンの濃度が1~5mg/mlの範囲に設定されていること(前記(1)ア),乙3発明のオキサリプラチン水溶液についてシュウ酸の濃度が測定されていたこと(前記イ(ウ))からすれば,オキサリプラチンの濃度を5mg/mlとするオキサリプラチン水溶液を調製してこのシュウ酸の濃度を測定することは当業者にとって容易であるということができる。また, 前記イ(ア)の各測定経過をみても,シュウ酸のモル濃度を構成要件G及びIに規定されている範囲内とすることが格別困難であるとはうかがわれない。さらに,本件明細書の記載上,緩衝剤の濃度を上記範囲とすることに何らかの臨界的意義があるとは認められない。
そうすると,乙3発明に接した当業者がオキサリプラチンの濃度を5mg/mlとしたオキサリプラチン水溶液を調製し,そのシュウ酸のモル濃度を構成要件G及びIに規定する範囲内のものとすること,すなわち本件発明等と乙3発明の相違点に係る構成に至ることは容易であったというべきである。したがって,本件発明等は進歩性を欠くものと認められる。」
そうすると,乙3発明に接した当業者がオキサリプラチンの濃度を5mg/mlとしたオキサリプラチン水溶液を調製し,そのシュウ酸のモル濃度を構成要件G及びIに規定する範囲内のものとすること,すなわち本件発明等と乙3発明の相違点に係る構成に至ることは容易であったというべきである。したがって,本件発明等は進歩性を欠くものと認められる。」
【コメント】
まだまだあるよ,例の判決!というわけです。
要するに,例のオキサリプラチンの特許の(特許第4430229号)事件のものです。
年明け,さすがに,これで最後?と思ったのですが,どうやら違ったようです。
そして,今回も,そんなに広いクレーム解釈をすると,無効になりまっせ,ということで足切りをしたという点です。
何故かというと,46部の判断だからです。さすがに,同じ部で原告寄りクレーム解釈をするわけには行かないってことでしょうが,いやあ恥ずかしいというか,何というかですね。
最初の判断は何だったのでしょうか?
ということで,まとめましょう。
1 平成27(ワ)12416 46部 被告1 差し止めのみ 請求認容 原告寄りクレーム解釈
2 平成28(ワ)15355 29部 被告1 賠償請求のみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
3 平成27(ワ)28468 40部 被告2 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
4 平成27(ワ)12415 40部 被告3 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
5 平成27(ワ)28699等 40部 被告4~6 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
6 平成27(ワ)29001 47部 被告7 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
7 平成27(ワ)29158 40部 被告8 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
8 平成28(ネ)10031 知財高裁3部 被告1 請求棄却 被告寄りクレーム解釈 1の控訴審
9 平成27(ワ)28467 46部 被告9 差し止めのみ 請求棄却 進歩性なし
10 平成27(ワ)29159 46部 被告10 差し止めのみ 請求棄却 進歩性なし
しかし,原告はアグレッシブですね。