2017年12月22日金曜日

侵害訴訟 特許 平成26(ワ)6163その1  大阪地裁 請求一部認容(特許Aについては請求棄却)

事件番号
事件名
 特許権侵害行為差止等請求事件
裁判年月日
 平成29年12月14日
裁判所名
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長 裁判官 髙 松 宏 之
裁判官 野 上 誠 一
裁判官 大 門 宏 一 郎

特許Aについて
「事案に鑑み,まず争点(2)から判断する。当裁判所は,本件発明A-1の構成は公知発明1の構成と同一であり,本件発明A-2の構成は公知発明2の構成と同一であるから,本件各発明Aはいずれも新規性を欠くという無効理由が存在すると判断する。以下,詳述する。
    ア  本件各発明Aについて
 本件各発明Aは,家庭用ゲーム機などの情報処理装置を対象としたシステム作動方法に関し,より詳しくは,CD-ROMなどの高密度記憶媒体をソフトウェア供給媒体として使用する場合に好適なシステム作動方法に関する発明である(本件特許A明細書の【0001】)。
 従来,家庭用ゲーム機の分野においては,ゲーム機本体を所有しているユーザを対象として,半導体ROMカセット等によってゲームソフトが供給され,ユーザは, ゲームソフトを家庭用ゲーム機本体に装着してゲームを楽しんでいたところ,ゲーム機本体の機能能力の限界,半導体ROMカセットの容量の限界等の理由により,ROMカセットは,その容量とユーザが入手可能な価格に見合ったゲーム内容(ゲームプログラム,データ等)を包含するにすぎなかった。しかし,最近になり,家庭用ゲーム機本体も32ビットのCPUを搭載した高速型が開発され,ゲームソフト供給媒体としても,その記憶容量が一般的に約500MBもあり,半導体ROMに比較して約100倍以上の容量を持つCD-ROMが採用されつつあるところ,ゲーム進行プログラム,制御プログラム等のプログラム及び映像データ,サウンドデータ等のデータを含んで構成されるゲームソフトを開発し,かつこれをCD-ROMに記憶させて供給することが技術的に可能であったとしても,そのゲームソフトの開発コストが高騰し,比較的低年齢層を対象とするユーザが1回に支払うことができる価格で供給することが困難となるという問題があった。そのため,シリーズ化された一連のゲームソフトを買いそろえていくことにより,豊富な内容のゲームを楽しむことができるようにすることが課題となっていた(同【0002】ないし【0008】)。 
 そこで,本件各発明Aは,別紙「構成要件目録A-1」及び同「構成要件目録A-2」各記載のとおりの技術的構成を取ることにより,ユーザにとっては,一回の購入金額が適正なシリーズもののCD-ROMを買いそろえていくことによって,最終的にきわめて豊富な内容のゲームソフトを入手したのと同じになる一方,メーカにとっては,開発コストが相当かかる膨大な内容のゲームソフトを,ユーザが購入しやすい方法で実質的に提供することができるようにした(同【0012】, 5 【0013】,【0022】)。そして,好ましい実施形態は,記憶媒体をCD-ROMとする構成であり(同【0014】),第2のCD-ROMに記憶される拡張したゲーム内容は,標準のゲーム内容に対し,ゲームキャラクタの増加,ゲームキャラクタの持つ機能の豊富化,場面の拡張,音響の豊富化等を達成するためのプログラムおよび/またはデータが含まれる(同【0017】)。もっとも,記憶媒 10 体として,CD-ROMに代えて,フロッピーディスク,ハードディスク,光磁気(MO)ディスクを使用してもよいとされている(同【0042】)。
 また,本件発明A-2は,以上に加え,第2の記憶媒体がゲーム装置に装填されるとき,第2の記憶媒体中の制御プログラムに他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示するものである。・・・

 ウ  本件各発明Aと公知発明の対比
      (ア) 本件発明A-1と公知発明1の対比
上記で認定した公知発明1によれば,①「ファミリーコンピュータとディスクシステムとテレビ」は,本件発明A-1の「ゲーム装置」に相当し,②「魔洞戦紀DDⅠ」は本件発明A-1の「第1の記憶媒体」に相当し,③「勇士の紋章DDⅡ」は本件発明A-1の「第2の記憶媒体」に相当し,④「勇士の紋章」の標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」は,本件発明A-1の「標準ゲームプログラムおよび/またはデータ」に相当し,⑤「『魔洞戦紀』にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報」ないし「『魔洞戦紀』にセーブされたキャラクタのレベルが21,すなわち16以上であることを示す情報」は,本件発明A-1の「所定のキー」に相当し(以下,所定のキーは後者のみで表記する。),⑥「魔洞戦紀DDⅠから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以上であるときには,そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最初から2となり,神殿で祈ると『ゆうけんしのしそん  じゅんくよ。がんばるのだぞ。』とのメッセージが表示され,アイテム『くさのつゆ』及び『しろきのこ』が1つ増える」ことは,本件発明A-1の「ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化」に相当し,そのためのプログラム等は,「拡張ゲームプログラムおよび/またはデータ」に相当するから,本件発明A-1は,公知発明1と同一の構成であると認められる。したがって,本件発明A-1は新規性を欠く。 ・・・

(2) 争点(3)(訂正の対抗主張の成否)について
 上記(1)のとおり,本件特許Aには無効理由が存在したことから,更に進んで, 訂正の対抗主張の成否について検討すると,当裁判所は,本件訂正は適法であるが,本件訂正発明A-1及びA-2はいずれも進歩性を欠くため,本件特許Aには無効理由がなお存在すると判断する。以下,詳述する。
    ア  訂正要件の充足性
      (ア) 訂正事項2  15
  訂正事項2は,「記憶媒体を」を,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)を」に限定する,いわゆる除くクレームとする訂正であるところ,被告は,本件特許Aの当初明細書の記載の範囲を超えて訂正したものであると主張する。 ・・・

 以上によれば,訂正事項1ないし3,7ないし14はいずれも訂正要件を充足しているから,本件訂正は適法である。

イ  本件各訂正発明の容易想到性
      (ア) 本件訂正発明A-1
a  公知発明1との相違点
 先に認定した公知発明1と本件訂正発明A-1とを対比すると,以下の相違点があることは当事者間に争いがなく,その余の構成は一致していると認められる。原告は,他に相違点1-4ないし1-6の相違点があると主張するが,先に述べた公知発明1の認定に照らして採用できない。
(a) 相違点1-1
 本件訂正発明A-1は,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対し,公知発明1は「セーブデータなどを記憶可能なディスク」(RWM-Read/Write Memory)である点。
          (b) 相違点1-3
 本件訂正発明A-1の「第1の記憶媒体」は,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除くから,「所定のキー」はセーブデータを含まないのに対し,公知発明1では,魔洞戦紀DDⅠに包含される「所定のキー」が,魔洞戦紀DDⅠに記憶されたセーブデータであって,魔洞戦紀DDIにセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報である点。      
b  相違点に係る構成の容易想到性(b) 検討  25
            ⅰ  前記認定事実によれば,ゲームソフト業界においては,本件特許Aの出願前からゲームソフトの大容量化が進められており,ゲーム内容や音楽効果をより多彩にするためにゲームソフトの記憶媒体に大容量のCD-ROMを用いることは,本件特許Aの出願前の時点で周知技術であったと認められる。そうすると,ゲームプログラム等の記憶媒体としてCD-ROMを採用すること(相違点1-1)は,それ自体としては,当業者が容易に想到し得たものであるといえ,その 5 場合には,CD-ROMは読出し専用の記憶媒体であることから,セーブデータを記憶できない記憶媒体であることになる(なお,CD-ROMも,ゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体である。)。
ⅱ  もっとも,公知発明1のゲームプログラム等の記憶媒体として,RWM(ディスク)に代えてCD-ROMを採用することの容易想到性については,それにより所定のキーもセーブデータでなくなること(相違点1-3)から,別途の検討が必要であり,原告は,公知発明1のRWMをセーブデータを記憶できない読出し専用の記憶媒体に変更することには阻害要因があると主張する。
  確かに,前記認定のとおり,公知発明1に係るディスクシステムは,ゲームのデータをセーブする機能を有するようになったことや,ディスクに書き込まれたゲームプログラムの書換えができることを大きな特徴としているから,公知発明1の記憶媒体をRWMからCD-ROMに変更したときには,これらの機能が損なわれることが想定される。
  しかし,まず,公知発明1や前記のMSX規格の複数のゲームソフトの存在からすると,連作もののゲームソフトにおいて,続編のゲームソフトのみでもその標準ゲーム機能を楽しむことができるが,前編のゲームソフトを有しているユーザであれば,それに記録されたキー・データを用いて続編のゲームソフトの拡張ゲーム機能を楽しむことができるようにするという技術は,本件特許Aの出願前で,ゲームソフトの記憶媒体としてCD-ROMが普及する以前の,セーブ機能がないROMカセットの時代から既に当業者の間で周知であったと認められる(以下「上記の周知技術」という。)。そして,複数の大手ゲームソフト企業からその技術を採用したゲームソフトが発売されていたことからすると,その技術がゲームソフトを販売する上で有用であるとの認識が,当業者の間で共有されていたものと推認される。
 そうすると,ゲームソフト業界がソフトの大容量化を進める状況下で,ゲームソフトの記憶媒体として新たに普及してきたCD-ROMという大容量の記憶媒体についても,既に公知発明1や前記のMSX規格のゲームソフトにおいて採用されていた上記の周知技術を適用していくことについて,当業者には十分な動機付けがあったと認めるのが相当である。 」

【コメント 特許A】
 大手のゲームソフトメーカー同士の特許権侵害訴訟の事件です。原告が大阪のカプコンで,被告が横浜のコーエーテクモです。
 特許が大きくAとBに分かれているので,ここでも話を分けます。
 今回は,特許A(3350773)についてのみです。
 
 結論は,無効の抗弁成立で請求棄却です。訂正前は新規性なし,訂正後でも進歩性なしという結論です。

クレームは以下のとおりです。
A  ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶する記憶媒体を所定のゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって, 
B  上記記憶媒体は,少なくとも,
B-1  所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,
B-2  所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており,
C  上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに対し,ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するように形成されたものであり, 
D  上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,
D-1  上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,
D-2  上記所定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,
E  ゲームシステム作動方法。


 さほど難しいものではありません。標準のCD-ROMに拡張CD-ROM組み合わせ遊ぶというゲームで,標準のCDーROMに「キー」を含ませて,その読み込みで拡張機能をオンさせるというものです。

 そして,構成要件該当性があるかどうかは判断しておりません。

 他方,無効の抗弁について,判旨のとおり,昔のディスクシステムファミコンとテレビの組み合わせで,似たようなものがあった,ということなのですね。

 そこで,原告としては,下記のように訂正したわけです。

A´  ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶する[1]とともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体[2](ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)を[3]上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって,・・・

 要するに,ディスクシステムでは書き換えができるけど,CD-ROMなら書き換えが出来ないのだ,そこで新規性はあるぞ,というわけです。

 しかし,RMM を含まないように,CD-ROM系のものだけに減縮したからと言って,進歩性まであるかは別問題です。書き換え不可能な媒体でのゲームというのは結構昔からあったよね~♫ということで,やはり進歩性なしとされました。

 なかなか原告にとっては厳しい所ですが,これは致し方ないかなと思います。
 ちょっと訂正がちょっぴり過ぎです。所謂除くクレーム化して進歩性まで認められるのは,化学分野などの,小さな構成の違いも大きな効果の違いとなる,そのような分野だけだと思います(化学分野ですらいつもいつも認められるわけではありません。)。

 ですので,このような分野では構成要件該当性を考えても,結構バッサリの訂正にいかないと裁判官の心証を覆せないのです。

 恐らく二審,知財高裁へ行くのが必須と思いますので,控訴理由書等で是非大胆な訂正の再抗弁を行って(法上,訂正請求が出来なくても),被告に泡を吹かせるとよいかなと思います。