2020年3月24日火曜日

審決取消訴訟 商標 令和1(行ケ)10121  知財高裁 拒絶査定審判 不成立審決 請求棄却

事件番号
令和1(行ケ)10121
事件名
審決取消請求事件
裁判年月日
令和2年3月11日
裁判所名
知的財産高等裁判所所第4部
裁判長裁判官          大      鷹      一      郎
裁判官          國      分      隆      文
裁判官          筈      井      卓      矢 
 「1  本願商標の指定商品と引用登録品種の種苗との類否について
  (1)  商品の類否判断の手法について
    ア  商標法4条1項14号は,種苗法18条1項の規定による品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標であって,その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用をするものについては,商標登録を受けることができない旨を規定する。この規定の趣旨は,種苗法においては,出願品種に名称を付与することを登録要件とし(同法5条3号),登録品種の種苗を業として譲渡する場合の登録品種の名称の使用義務(同法22条1項)及び登録品種又はこれに類似する品種以外の種苗を業として譲渡する場合の登録品種の名称の使用禁止(同条2項)を規定していることから,登録品種の名称をその品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用する商標を商標登録の対象から除外し,当該名称については,特定の者に登録商標を独占的排他的に使用することができる専用権(商標法25条)及び登録商標と類似する商標を指定商品又は指定役務に類似する商品若しくは役務について使用する行為を排除する禁止権(同法37条1号)が生ずることを防止することにあるものと解される。
        次に,商標法は,商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発展に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とすること(同法1条)に鑑みると,商標の本質は,商標の使用をする者の自己の商品又は役務と他人の商品又は役務とを識別する機能を有することにあると解されるから,同法4条1項14号が「その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」を要件とし,品種の種苗に類似する商品若しくは役務について使用をする場合であっても同号に該当するものとした趣旨は,それらの商品が通常同一の営業主により生産又は販売されている等の事情により,商品又は役務の出所の誤認混同を生じさせることを防止する趣旨をも含むものと解される。
 そうすると,本願商標の指定商品が登録品種の種苗と類似のものであるかどうかは,商品自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判断すべきものではなく,上記事情により,指定商品及び登録品種の種苗の商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一の営業主の生産又は販売に係る商品と誤認混同されるおそれがあると認められる関係にある場合には,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても,類似の商品に当たると解するのが相当である(最高裁判所昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁,最高裁判所昭和39年(行ツ)第54号同43年11月15日第二小法廷判決・民集22巻12号2559頁)。 
・・・
 前記アのとおり,商標法4条1項14号が「その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」を要件とし,品種の種苗に類似する商品若しくは役務について使用をする場合であっても同号に該当するものとした趣旨は,商品又は役務の出所の誤認混同を生じさせることを防止する趣旨をも含むものと解されるから,属が異なるが同一又は類似の名称の種苗は,外見の違いによって商品自体の誤認混同が生じない場合であっても,同一の営業主の生産
又は販売に係る商品と誤認混同されるおそれがあると認められる関係にある場合には,類似の商品に当たると解するのが相当である
。そして,このように解することが国際常識上及び社会通念上著しく妥当性を欠くものとはいえない。 
・・・
 (2)  本願商標の指定商品と引用登録品種の種苗との類否について
ア  本願商標の指定商品は,第31類「ハオルシア,ハオルシアの苗,ハオルシアの種子」であるところ,「ハオルシア」は,ハオルシア属の多年生草本であり,観賞用の小型多肉植物(甲1)であると認められる。そして,園芸店の通信販売を行うウェブサイトにおいて,「ハオルチア・クーペリーの種」,「マザーリーフの種」といった多肉植物の種子類が販売されていること(乙8)からすれば,多肉植物の種子類は,園芸店の店舗や,園芸店の通信販売を行うウェブサイトを通じても販売されているものと認められるから,多肉植物の種子類の主な需要者は,家庭において観賞用の植物を育てる一般の消費者であると認められる。
 一方,引用登録品種の農林水産植物の種類は,「ばれいしょ種」であり,作物区分は「食用作物」(乙4)であり,野菜の一種であると認められる。そして,「種苗」とは,「植物体の全部又は一部で繁殖の用に供されるもの」(種苗法2条3項)であるから,引用登録品種の種苗は,「ばれいしょ種」の種芋であると認められる。そして,園芸店の通信販売を行うウェブサイト(乙7,8)には,「国華園が厳選!オススメ  じゃがいも種イモ」として,複数の種類のじゃがいも種芋が販売されているように,野菜の種子類は,園芸店の店舗や,園芸店の通信販売を行うウェブサイトを通じても販売されているものと認められるから,野菜の種子類の主な需要者には,野菜を生産する農業関係者に加え,家庭において園芸を行う一般の消費者も含まれるものと認められる。
 そうすると,多肉植物の種子類と野菜の種子類は,用途において観賞用と食用の違いがあるものの,いずれも植物の種子類であって,園芸店やその通信販売用のウェブサイト等で販売され,家庭における園芸に用いられ,需要者が一般の消費者である点において共通する。
 以上によれば,本願商標の指定商品「ハオルシアの種子」及び引用登録品種の「ばれいしょ種の種芋」に本願商標を使用した場合には,これに接する取引者,需要者は,同一の営業主の生産又は販売に係る商品であると誤認混同されるおそれがあるものと認められる。
 したがって,本願商標の指定商品中「ハオルシアの種子」は,引用登録品種の種苗である「ばれいしょ種の種苗」と類似の商品に当たるものと認められる。
・・・
(3)  小括
 以上によれば,本願商標は,引用登録品種の名称と類似する商標であって,その品種の種苗に類似する商品に使用をするものと認められるから,商標法4条1項14号に該当するものと認められる。」

【コメント】
 「粉雪」の文字を標準文字で表してなる商標について拒絶査定(4条1項14号)を受けた原告が,拒絶査定不服審判を請求したものの,不成立審決を受けたため,審決取消訴訟を提起したものです。
 
 これに対し,知財高裁4部(大鷹部長の合議体です。)は,請求を棄却しました(審決とおりでよいということです。)。

 非常に珍しい条文だったので,取り上げた次第です。

 まず,本件の商標は,「粉雪」の標準文字商標で,指定商品を第31類「ハオルシア,ハオルシアの苗,ハオルシアの種子」としたものです。
 ハオルシアとは,観賞用の植物で,一見アロエのようにも,キャベツのようにも見える,そんな感じのものです。

 つぎに,引用の登録品種の方は, 「Solanum  tuberosum  L.」(ばれいしょ種)の品種の名称である「コナユキ」(登録番号第21865号)です。

 条文は,こんな感じです。
種苗法(平成十年法律第八十三号)第十八条第一項の規定による品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標であつて、その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

 こう見ると,前半の「品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標」という要件については,
 「コナユキ」VS「粉雪」
ですので,少なくとも類似かなあと思います。

 では,問題の後半の「その品種の種苗又はこれに類似する商品・・・について使用をするもの」について,です。
  「コナユキ」の品種の種苗は,ばれいしょ種,つまりジャガイモ~♪ですから,ハオルシアとは似ても似つかぬものです。なので,ここはスルー。

 では,ハオルシアが「これに類似する商品」 という所が問題になってきます。

 で,上記のような判旨で判断したということになります。

 まあ色々意見はありましょうが,これはこれで仕方ないかなという気がします。
 勿論,原告の言うとおり,ジャガイモとハオルシアは全く別物で区別できます。そりゃそうです。
  だけど,商標法ってそういう法律じゃないのですね。

 だって,なんかの商標の指定商品がリンゴだけだったからと言って, 他人がそれをミカンに使って商標権侵害にならないか,っていうとそうじゃないですからね。

 判決の言うとおり,個別の区別性がポイントじゃないのです。判決で引いたいわゆる橘正宗事件~のとおり,対象となる商品等に同じような商標をつけたら誤認混同を起こすか,ここがポイントなのですね。

 法目的がそうであり,その法目的には一定程度の合理性がありますので,この結論は致し方ないかなあと思います。