2019年11月5日火曜日

侵害訴訟 特許  平成30(ワ)13400  東京地裁 請求棄却

事件名
 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日
 令和元年9月11日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第40部    
裁判長裁判官    佐      藤      達      文    
裁判官          三      井      大      有    
裁判官          今      野      智      紀 
 
「(1) 争点1-1(被告製品が構成要件1A及び1Dを充足するか)について
ア  被告製品の突出部が「給電用」の部材であるかどうかに関し,原告は,「~用」という表現は,その物が当該用途で実際に使用されていなくとも,当該用途で使用するのに適した形状等を備えている場合にも広く用いられるので,被告製品の実装時に給電線を通すのが突出部の空洞とは別の穴部であるとしても,「給電用」との構成を充足すると主張する。
 しかし,「給電用筒状部」とは,その文言の通常の意味に照らして,「給電」に「用」いられる「筒状部」と解するのが自然であり,本件明細書等の段落【0004】にも「給電用筒状部11は前記回路基板及びアンテナ素子部に接続する図示しない給電線(同軸ケーブル等)を通すために中空である。」と記載され,実際に給電線を通すことが前提とされている。 
 上記の特許請求の範囲及び本件明細書等の記載によれば,「給電用筒状部」とは,給電線を通すために用いられるものであり,給電線を通すことができるものであれば足りると解することはできない。原告の主張によれば,給電線を通すことができる形態を持つ部材は,それが電力を供給する機能や目的を有しなくとも,すべて「給電用」に当たることになり,相当ではない。
 これを前提に被告製品をみると,同製品には給電線を通すために,突出部とは別の位置に穴部が存在し,実装時には突出部の空洞ではなく,当該穴部を給電に用いていると認められる(乙1,12)ので,被告製品の突出部の空洞が「給電用」に該当するということはできない。
 したがって,被告製品の突出部は,「給電用」のものに該当しないから,構成要件1A及び1Dを充足しない。 」

「(2) 争点1-3(被告製品が構成要件1Fを充足するか)について 
    ア  原告は,被告製品のサブアーム部の爪部は,構成要件1F(「前記サブアーム部の上端部は前記メインアーム部の外側面よりも外方向に突出した係止爪をなし,」)の「係止爪」に該当すると主張する。
        しかし,構成要件1Fの文言及び本件明細書等の段落【0029】における「サブアーム部63の上端部はメインアーム部の外側面よりも外方向に突出した係止爪65をなしている」との記載によれば,「係止爪」がサブアーム部の「上端部」に位置するものであることは明らかである。そして,「端」とは「物の末の部分。先端」を意味するので(乙3),構成要件1Fの「係止爪」はサブアーム部の「先端」に位置するものと解される。
        上記解釈を前提にして被告製品についてみるに,被告製品のサブアーム部においては,爪部より上方にフック部が存在しており,爪部は最上端(フック部の先端)と最下端(サブアーム部の付け根)の中間付近に位置していると認められ,爪部が「上端部」に位置しているということはできない。
        これに対し,原告は,「上端」が最上端を意味すると解する必要はなく,係止爪の上面が車体パネルの内側面に当たってサブアーム部が撓む程度の上方であれば足りると主張するが,「上端」との文言の通常の意味に照ら して,そのように解することはできない。
        したがって,サブアーム部の爪部は「係止爪」に該当しない。
    イ  原告は,被告製品のコの字型部材におけるサブアーム部の爪部とフック部が全体として「係止爪」に該当すると主張する。
        爪部とフック部を全体として「係止爪」に相当するとした場合,係止爪 はサブアーム部の「上端部」に位置するということができ,被告製品を車体パネルに挿入すると,爪部及びフック部は協働して車体パネルに引っかかって抜け力を増大させる作用を果たしていると認められるので,爪部及びフック部は全体として「係止爪」に該当すると解することができる。さらに,被告製品のフック部はメインアーム部の外側面から外方向に約0.4mm程度はみ出していることからすると,「メインアーム部の外側面よりも外方向に突出し」ているということができる。
        したがって,爪部及びフック部は「係止爪」に該当する。
ウ  以上によれば,爪部を係止爪と構成する場合,被告製品は,構成要件1Fを充足しないが,爪部及びフック部を係止爪と構成する場合,構成要件1Fを充足する。  
(3) 争点1-4(被告製品が構成要件1Gを充足するか)について
  続いて,上記(2)のとおり,被告製品のサブアーム部の爪部とフック部が全体として「係止爪」に該当した場合において,同製品が構成要件1G(「かつ前記係止爪は上端に向かって肉厚が増加している,」)を充足するかどうかについて検討する。 
 上記のとおり,構成要件1Gは「係止爪は上端に向かって肉厚が増加している」と規定するところ,被告製品の爪部及びフック部についてこれをみるに,爪部及びフック部のうち,その下部に位置する爪部は,上端に向かって肉厚が増加していると認められるが,フック部については,水平方向の肉厚はほぼ一定であり,その肉厚は爪部の上部の肉厚の半分以下である上,その先端(上端)では減少していることが認められる。そうすると,爪部とフック部から形成される「係止爪」が「上端に向かって肉厚が増加している」ということはできない。 」
 
【コメント】
 原告がヨコオ,被告が原田工業という,いわゆるシャークフィンアンテナの有名メーカーによる特許権侵害訴訟第2ラウンドのものです。
 第1ラウンドの方は,今回被告となった原田工業の方が原告として提訴したもので,地裁レベルで勝利して,その後和解で終結しました。ですので,経緯からすると,原田工業側が勝訴的和解だったのではないかなと思う事例です。

 そして,今回は,攻守交代で,前回の被告だったヨコオの方が原告となったものです。
 
 さて,クレームからです。
【請求項1】  
1A  底面に給電用筒状部を有するベース体と,  
1B  ベース体の上側を覆うカバーと,  
1C  前記ベース体に設けられる仮固定用ホルダとを備え,  
1D  前記仮固定用ホルダは,可撓性樹脂で成形されており,前記給電用筒状部の外壁面に沿って下方に延びる複数のメインアーム部と,前記メインアーム部に対して下端部にて繋がったサブアーム部とを有し,  
1E  前記サブアーム部は前記下端部が前記サブアーム部の撓みの支点となり,  
1F  前記サブアーム部の上端部は前記メインアーム部の外側面よりも外方向に突出した係止爪をなし,  
1G  かつ前記係止爪は上端に向かって肉厚が増加している,  
1H  アンテナ。

 ポイントになっている所に下線を引きました。

 とは言え,文章だけではわかりにくいものです。
 明細書の図です。
  
 従来,このように,シャークフィンアンテナを取り付けるときの仮固定のジグとしては,上図のようなものを用いていたらしいです。
 ところが,これは取れやすいし,Jの部分でたわみが生じるので,爪の肉厚を増すと取り付けで余分な力が必要とのことでした。
 
 そこで,どうしたかというと,以下の図のようにしたわけです。これが本件特許です。
 
  こうすると,たわみは,Sの部分に生じます。こうすると,抜けにくい上に,取り付けに余分な力も要らない,というわけです。
 
 で,被告製品です。
  
 構成要件AとDに関する所です。
 上記の写真のとおり,突出部と別に給電部があります。
 ヨコオの特許の方が,取り付け等は簡単なのでしょうが,別に突出部に給電部を統合しないといけないわけはなく(つまり特許の回避が容易だったってことです。),実製品の被告製品では別々にして,構成要件充足性はないとなりました。

 また,次の写真です。
  
 上記のとおり,本質とは関係ない所で破れた原告ですが,本質的な所でも破れております。
 被告製品は,上記のような「爪」形状でして, 「係止爪」と見える所の一番上の方が,サブアームの上端に来ていないのですね(そこにはフック部がある)。

 とは言え,そこを大目に見て,フック部を含めた全体を「係止爪」と見ると,上に向かって肉厚が増加しているとは言えない(やはりそこにはフック部があって,肉厚になっていない。)~♫

 特許でよくある,あちらを立てるとこちらが立たずってやつです(通常は,構成要件充足性と無効論での話ですが,各クレーム解釈でも本事件のようなこともありえます。)。
 
 ということで,本件のような結論に至ったのですね。
 
 さて,しかしながら,未だ地裁レベルです。このあと,やはり知財高裁での攻防があるのかもしれませんね。
 
 ところで,判決の期日に比べて,ここでの事件のアップが遅れました。実は,「最近の知的財産裁判例一覧」という所をチェックしていたのですが,いつまで経ってもここにはアップされないままでした。
 ということで,思い切って,通常の 知的財産裁判例のところで検索したら,漸くぶち当たった次第です。
 何かの裏があったのでしょうか,よくわかりません。