2019年6月18日火曜日

不正競争 平成30(ネ)10081等 知財高裁 中間判決

事件番号
事件名
 不正競争行為差止等請求控訴事件等
裁判年月日
 令和元年5月30日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官               森   義 之                                 
裁判官                     佐 野   信                                      
裁判官                熊 谷 大 輔 

「   4  争点4(被告標章第1の営業上の使用行為及び商号としての使用行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争行為に該当するか)について  
・・・
エ  なお,原告文字表示マリカーの周知性についても検討しておくに,原告文字表示マリカーは,一審原告自身が「マリオカート」シリーズを表すものとして用いていたものではないものの,①ゲームソフト「マリオカート」の略称として,遅くとも平成8年頃には,ゲーム雑誌において使用されるようになっており,②平成22年頃には,ゲームとは関係性の薄い漫画作品においても何らの注釈を付することなく使用されることがあった。また,③一審被告会社が設立される前日である平成27年6月3日には,その1日をとってみても,「マリオカート」を「マリカー」との略称で表現するツイートが600以上投稿されたことが認められる。そして,一審被告会社の設立後においても,テレビ番組において,タレントが,一審原告のゲームシリーズである「マリオカート」の略称として「マリカー」を使用していたと発言し,本件訴訟提起に係る報道が出された後には,複数の一般人から,一審被告会社の社名である「マリカー」が一審原告のゲームシリーズ「マリオカート」を意味するにもかかわらず,一審被告会社が一審原告から許可を得ていなかったことに驚く内容の投稿がされた事実が認められる。
 以上の事実からすると,原告文字表示マリカーは,一審原告のカートレーシングゲームシリーズである「マリオカート」を示すものとして,遅くとも平成22年頃には,日本国内のゲームに関心を有する需要者,すなわち日本国内の本件需要者の間で,広く知られていたと認められる。
      オ  以上のとおり,「MARIO KART」表示は日本の国内外の本件需要者の間で,原告文字表示マリオカートは日本国内の本件需要者の間で,それぞれ著名であったものと認められる
。 
・・・・
  (4)  小括 
 以上の検討のとおり,原告文字表示マリオカートは著名であって,被告標章第1の1の需要者である日本国内の本件需要者との関係で被告標章第1の1と類似しており,「MARIO KART」表示は著名であって,被告標章第1の2~4の需要者である日本国内外の本件需要者との関係で被告標章第1の2~4と類似するものである。
  また,前記第2の2(4),第3の1~3で認定した一審被告会社が単独又は関連団体と共同で行っている被告標章第1の使用行為は,いずれも被告標章第1を,自己がしている本件レンタル事業という役務を表示するものとして使用するものといえる。
 そして,不競法2条1項2号は,著名表示をフリーライドやダイリューションから保護するために設けられた規定であって,混同のおそれが不要とされているものであるから,一審被告らが主張するような打ち消し表示の存在や本件各コスチュームの使用割合が低いこと(ただし,この点についての一審被告らの主張を採用できないことは,後記6(2)エのとおりである。)といった事情は,何ら不正競争行為の成立を妨げるものではない。
 したがって,その余の点について判断するまでもなく,自ら又は関係団体と共同して被告標章第1を前記第2の2(4),第3の1~3で認定したとおり使用する一審被告会社の行為は,外国語のみで記載されたウェブサイト等で用いることも含めて不正競争行為に該当するものである。 
・・・
6  争点7(本件宣伝行為及び本件貸与行為が,不競法2条1項1号又は2号の不正競争行為に該当するか)について 
・・・    
 そして,前記イと同様に,本件各動画中において,本件マリオコスチューム,本件ルイージコスチューム,本件ヨッシーコスチューム及び本件クッパコスチューム並びにそれらのコスチュームを着用した人物の表示は,いずれも原告表現物の特徴の一部を備えていて,外観上,原告表現物と類似することや「マリオカート」シリーズが,「マリオ」や「ヨッシー」等によるカートレーシングゲームとして日本国内外の本件需要者の間で著名であることからすると,本件各動画中の上記表示と原告表現物は類似するといえる。 
・・・・
  エ  本件貸与行為について
      (ア)前記第2の2(4)イ,前記第3の1,2からすると,本件各店舗において本件貸与行為がされていると認められるところ,証拠(甲110~115)及び弁論の全趣旨によると,本件貸与行為で用いられている本件各コスチュームは,ライセンシーが一審原告の許諾・監修のもとに作成したものであって,前記アで認定した原告表現物の特徴の全部又はその大部分を備えていて,原告表現物に類似するものである。
      (イ)次に,前記5で認定したとおり,平成29年2月までの間において,「スーパーマリオのコスプレをして乗れば,まさにリアルマリオカート状態!!」などと,本件貸与行為を強調し,それを前面に出して本件レンタル事業の宣伝が行われてきた。
 また,原判決が本件貸与行為は不正競争行為に該当すると判断した後も,本件各店舗において本件貸与行為が継続されていること及び前記1(1)判決後の平成31年2月17日の時点で京都店がルイージやヨッシーのコスチュームを着用した者らの写真をウェブサイトの予約ページで用いていること(甲220)からすると,現時点でも本件貸与行為は,一審被告会社がしている本件レンタル事業を特徴付けるものとして,従来と同じく重要な地位を占めているものと推認することができる。
 したがって,一審被告会社は,本件各コスチュームを自己の商品等表示として使用しているものと認められる。
  (ウ) 以上からすると,本件貸与行為は,不競法2条1項2号の定める「使用」に当たるものとして,同号の不正競争行為に該当するというべきである。  」

【コメント】
 いわゆるマリカー事件の控訴審の中間判決です。
 漸くアップされました。

 一審は,東京地裁平成29(ワ)6293(平成30年9月27日判決)です。このブログでも紹介しました。
 で,前提となる,被告標章第1というのは,以下のとおりです。
 「1  マリカー
 2  MariCar 
 3  MARICAR
 4  maricar

 最初だけ日本語で,あとはアルファベットです。ただし,マリオカートを英語に訳すと,mario kartのカートのカがk!なのですが,被告の標章は,どれもcであることに注意です。

 さて,本件は一審の判決を踏襲しているようですが,多少違う所があります。
 まず, 外国語のみ~の件です。
 二審では,以下のとおり,著名の地域を認めました。
「MARIO KART」→日本+外国
「マリオカート」→日本のみ
「マリカー」→日本のみ
 そうすると,一審のとおり,「外国語のみで記載されたウェブサイト及びチラシにおける被告標章第1の使用についての差止及び抹消請求は認められない。」ということになりそうです。

 ところが,上記の判旨のとおり,
「MARIO KART」は著名だから→「2  MariCar 3  MARICAR 4  maricar 」と類似
「マリオカート」も著名だから→ 「1  マリカー」と類似
と,被告標章第1の全部ダメ!としたのですね。 

 なので,つまり,ここは一審と異なり,「外国語のみで記載されたウェブサイト等で用いることも含めて不正競争行為に該当する」としたわけです。

 違いはもう一つあります。大した話ではありませんが,一審では被告代表者への損害賠償を否定し,被告会社のみに賠償を認めていました。
 しかし,この二審では,「取締役としては,会社が不正競争行為を行わないようにする義務があるところ,上記検討によると,一審被告Yにはそのような義務に違反した点について,悪意又は少なくとも重過失があるものといえ,一審被告Yは,会社法429条1項に基づく責任を負うというべきである。  」と,不真正連帯債務であろう損害賠償責任を認めています。

 一審との違いはこのくらいでしょうか。
 あとのコスチューム関係はほぼ一審とおり,また著作権の判断もありませんので,まあ着目すべき点は,上記の話に尽きるかなと思います。