2020年2月21日金曜日

審決取消訴訟 商標 令和1(行ケ)10125  知財高裁 拒絶査定審判 不成立審決 請求棄却

事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 令和2年2月12日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部 
裁判長裁判官    森          義    之 
裁判官            佐    野          信  
裁判官            熊    谷    大    輔 

「 1  取消事由1について
    (1) 商標法3条1項3号は,その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状(包装の形状を含む。・・・),生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,態様,提供の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は,商標登録を受けることができない旨を規定しているが,これは,同号掲記の標章は,商品の産地,販売地その他の特性を表示,記述する標章であって,取引に際し必要な表示として誰もがその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないことから,登録を許さないとしたものである。
 同号掲記の標章のうち商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえるのであり,需要者としても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。
 したがって,商品等の形状は,同種の商品が,その機能又は美感上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するのが相当である。
    (2)  本願商標は,前記第2の2(1)に記載の商標であり,「三つの略輪状の炎の立体的形状」(本願形状)を付する位置が特定された位置商標である。
  そして,本願形状を採用することにより,対流形石油ストーブの燃焼筒内の輪状の炎が四つあるように見え,これにより対流形石油ストーブの美感が向上するから,本願形状は,美感を向上するために採用された形状であると認められる。また,原告特許は,特許請求の範囲を「1  燃焼室や赤熱体を囲繞する様に位置せしめ,かつ燃焼室の外殻を構成する燃焼筒をリング状の表面凸凹部を形成するとともに耐熱性の透明もしくは半透明物質で造製し,この燃焼筒の表面にTi,Zr,Fe等の金属もしくは金属化合物被膜を付着きせてなる暖房器。2  燃焼炎や赤熱体から発する光が,金属被膜による干渉と屈折特性により多重かつ虹状に見ることが出来る特許請求範囲第1項記載の暖房器。」とするものであって,「また燃焼筒をリング状の表面凸凹部を形成せしめたから,前記発熱・発熱部が多段に見えるのを,凸凹部がレンズ状に拡大して観者に対して大きな炎の輪を多段に確実に詔めさせる効果がある。この様にこの発明は透明もしくは半透明燃焼筒に金属被膜もしくは金属化合物被膜を形成する簡単な構造によって暖房に最も適する波長の熱線を良好に透過せしめると共に,該被膜によって燃焼炎より発生する光を干渉させて各色に色付いた沢山の燃焼炎や赤熱体の像を形成して燃焼炎や赤熱体から発生する熱線が多方向から届く様になり,見せると共にリング状の凹凸部によるレンズ効果により,暖房効果を高めるものであり,更に各色に色付いた沢山の燃焼炎や赤熱体の像は非常に美しく,視覚的な暖房効果を高め,光の交差による優れたデザイン効果を生むものである。」(4段落の8行~24行)との効果を生じさせるものであり,特許公報には別紙図面が第1図として付けられているから,本願形状は,暖房効果を高めるという機能を有するものと認められる。
  そうすると,本願形状は,その機能又は美感上の理由から採用すると予測される範囲を超えているものということはできず,本願形状からなる位置商標である本願商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であると認められる。
  したがって,本願商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきである。 
・・・
 2  取消事由2について
    (1) 前記1のとおり,本願形状は,その機能又は美感上の理由から採用すると予想される範囲を超えるものではないから,本願商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標というべきであるが,このような商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合は,商標法3条2項により,商標登録を受けることができる。 
  そして,本願商標のように立体的形状からなる位置商標が使用により自他商品識別力を獲得したといえるかどうかは,当該商標の形状,その使用期間及び使用地域,当該商標が付された商品の販売数量やその広告の期間及び規模並びに当該商標の形状に類似した形状を有する他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
    (2) そこで,本願商標が使用により自他商品識別力を獲得したか否かについて,以下検討する。
      ア  前記第2の2の前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。なお,本件において判断の基準時は,本件審決時であるので,その時点までの事実を認定した。
      (ア) 石油ストーブは,・・・
 
イ  前記アの認定を前提に以下検討する。
(ア) まず,開放式石油ストーブは持ち運びが可能であるのに対し,半密閉式及び密閉式石油ストーブは持ち運びが不可能であること,開放式石油ストーブのうち,自然通気形石油ストーブと強制通気形石油ストーブとでは,送風機が内蔵されているか否か,電源が必要か否かという点で異なることからすると,開放式石油ストーブと半密閉式及び密閉式石油ストーブとの間,自然通気形石油ストーブと強制通気形石油ストーブとの間で需要者は必ずしも同一であるということはできない。
 もっとも,それらは,いずれもストーブに変わりはないのであるから,需要者が全く異なるとまではいい難い。東日本大震災の発生直後の平成23年度は,自然通気形石油ストーブの出荷台数は前年度の約2倍となったことからすると,自然通気形石油ストーブと強制通気形石油ストーブとは,同一の需要者による需要がある場合もあり得ると認められる。
  そして,自然通気形石油ストーブにおいては,対流形石油ストーブは,周囲全体を温めるのに対して,反射形石油ストーブは機器正面を中心に暖めることから,対流形石油ストーブは,比較的狭い部屋に適しているのに対し,反射形石油ストーブは,比較的広い部屋に適しており,キャンプや災害時にも適しているということができるから,これらの点で,両者には違いがあるということができる。しかし,いずれもストーブであることには変わりがなく,対流形石油ストーブの中にも,比較的狭い部屋に対応する型もあり,両ストーブは,対応する部屋の広さにおいて重なる部分もある。また,原告カタログでは,対流形石油ストーブと反射形石油ストーブの機能等を比較できる一覧表が掲載され,ポータブル石油ストーブというカテゴリーの中に対流形石油ストーブ及び反射形石油ストーブが記載されているなど,対流形石油ストーブ及び反射形石油ストーブが同一のカテゴリーとして扱われている。さらに,他社の暖房機器のカタログにおいても,対流形石油ストーブ及び反射形石油ストーブを一緒にした仕様一覧表とファンヒーター(強制通気形開放式石油ストーブ)の仕様一覧表を別の一覧表として掲載したり,「石油ストーブ(反射型)・石油ストーブ(対流型)・石油こんろ」との表題を付して,反射形石油ストーブ,
対流形石油ストーブ及び石油こんろを記載するなど,対流形石油ストーブと反射形石油ストーブとが同一のカテゴリーとして扱われている。
 以上からすると,対流形石油ストーブと反射形石油ストーブの需要者は全く同一ではないものの,かなりの程度重なり合うものと認められる。
  (イ) そこで,自然通気形開放式ストーブ(対流形石油ストーブと反射形石油ストーブ)に占める原告使用商品の販売シェアを見るに,平成23年度以降の平均シェアは2%程度であり,石油ストーブ全体から見ると,そのシェアはさらに低いものとなる。また,原告使用商品の出荷台数も,平成24年度以降の平均は約2万9000台と決して多いとはいえない
  本願形状は,原告使用商品を使用していないときは現れないのであるから,店頭で石油ストーブを選び,購入しようとして来店した者は,展示されている原告使用商品を見ただけでは本願形状を認識することはできず,このような本願商標の特殊な事情から,需要者が本願商標を認識する機会は限定されるということができる。
  また,前記1で判示したことからすると,本願形状は,美感や機能の観点から採用されたと認識され,そのような点に着目されるものといえる。
        (ウ) 原告使用商品のテレビでの広告は,平成24年10月~12月までの間に三つの番組で広告されたのみであって,極めて少なく,原告使用商品がテレビ番組で取り上げられたのも5回だけであり,新聞や雑誌等で紹介されたのも前記ア(ケ)の程度であって,多いとはいい難い
  また,平成27年12月1日には,原告使用商品の広告がヤフートップページに掲載されたが,同広告が継続的にされたと認めるに足りる証拠はない
  さらに,原告カタログの頒布方法,頒布地域及び頒布枚数は不明であり,原告ウェブサイトにおける原告使用商品の広告も,他の石油ストーブの同種広告に比較して規模が大きかったり,注目を集めるような特別な工夫がされているなどの事情は認められないから,同広告に大きな効果があるということもできない
  (エ) 原告使用商品は,楽天サイト,Amazonサイト及び価格サイトの各種ランキングにおいて上位にランクインしており,また,同ページの原告使用商品の欄の商品名等は,原告使用商品の使用時の写真や原告使用商品についてのレビューが掲載されているページに移ることができるリンクボタンとなっていることから,同ランキングページで商品を検索した者には,本願形状の詳細や高評価のレビューを認識する機会があったといえるが,同ランキングページを閲覧したとしても,原告使用商品に興味を持たなければ,リンクボタンを押して本願形状の詳細や高評価のレビューを認識することはない。そして,リンクボタンを押してそれらを認識した者の数は不明である
  また,原告使用商品は,インターネットの記事で取り上げられ,その際,使用時の写真も掲載されているが,それらの数は前記ア(サ)のとおりであり,多いとはいえない
  さらに,原告使用商品の使用時の写真が石油連盟の広告に使用され,同広告は,新聞や雑誌に掲載され,また,地下鉄の駅のホーム等で掲示されていたが,同広告には,同写真の商品が原告使用商品であることの説明はないから,同写真を見た者が同写真に写っている本願形状の出所を認識することはできない。そうすると,同広告が本願商標の自他商品識別力の獲得に格別寄与するということはできない。
  なお,YouTubeサイトにおいて,「トヨトミ  レインボー」という文字で検索した結果,原告使用商品が使用されている状態の映像が多数検索されたことから,同サイトには,原告使用商品の使用状況の動画が多数掲載されていることが認められるが,「トヨトミ  レインボー」という文字以外で検索した場合にどの程度上記各動画を閲覧することができたかは明らかでないから,上記各動画は,原告使用商品を知らない者に対して本願商標を認識させる効果が高かったということはできないし,また,それらの動画の再生回数が多数回に及んでいるとしても,それら
の再生が,その動画の商品が原告の商品として識別されることにどの程度結び付いているかは明らかでない。
        (オ) 以上の事情からすると,本願形状を有する商品である原告使用商品が約30年もの長期間販売されており,OEM商品を除いて本願形状を有する他の商品は存在しないこと,本願形状は,比較的特徴的であるといえること,原告使用商品は,グッドデザイン賞を受賞したことを考慮しても,本願商標について原告の事業に係る商品であることを認識することができるとまで認めることはできないというべきである。
    (3) 以上のとおり,商標法3条2項該当性についての本件審決の判断に誤りはないから,原告の取消事由2についての主張は理由がない。 」

【コメント】
 大手の石油ストーブメーカーである原告(トヨトミ)が,下記の位置商標!を出願したところ(商願2016-9831号),拒絶査定を受け(商標法3条1項3号該当,同条2項非該当),拒絶査定不服審判を請求したものの,不成立審決を下されたため,審決取消訴訟を提起したものです。
 
 
 商標は,上記図の黒い部分(3連の炎の立体形状)で,指定商品は,第11類「対流形石油ストーブ」です。
 
 これに対して,知財高裁2部の森部長の合議体は,請求を棄却しました。つまりは,審決のとおりで問題なし!ってわけです。
 
 新タイプの商標が導入されたのは,2015/4/1ーからです。もう5年も経つのですね。
 
 で,新タイプの商標について訴訟で争いになったという例はそんなに聞きません。ですが,本件はこの新タイプの商標で訴訟までいった例です。
 
 上記のとおり,原告の方は,対流型のストーブでは結構良い線行っているのですよと散々主張したのですが,特許庁にも知財高裁にも聞き入れてもらえませんでした。
 
 上記の3連の炎での識別力は発生しうると思うのですが,いかんせん,シェアが小さいとか,そんなに広告されていないよねとか,結局みんな知らんじゃん,という所で,あえなくダウンとなった次第です。
 とは言え,今後識別力が得られた場合には登録の可能性がありますので,原告はこれに懲りずに広告宣伝等をドンドンやっていけばいいのではないかと思います。

 なかなかに興味深い事例でした。