2020年2月19日水曜日

侵害訴訟 特許  平成28(ワ)16912  東京地裁 請求一部認容

事件番号
事件名
 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日
 令和元年9月4日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第40部    
裁判長裁判官              佐      藤      達      文      
裁判官                       三 井 大 有      
裁判官                      𠮷 野 俊 太 郎 
「 2  争点1-1(被告プログラムにおける架電番号が「架電先の電話器を識別する識別情報」に当たるか)について
(1) 証拠(甲6,7)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件不動産サイトにおける物件の連絡先への架電等の仕組みは,以下のとおりであると認められる。
ア  本件不動産サイトにおいて,ユーザが特定の不動産物件の詳細情報を選択すると,例えば,以下の画面のような,当該物件についてのウェブページが表示され,同ページの下段・右側に「電話」ボタンが表示される。
 
イ  上記「電話」ボタンをユーザが選択すると,例えば,次の画面に遷移する。同画面には,架電番号が表示されるとともに「このページを開いてから10分以内にお電話をお願いいたします。」「上記無料通話番号は,今回のお問合せ用に発行したワンタイムの電話番号です。」と表示される。
 
ウ ユーザが上記画面に表i示された架電番号に架電すると,当該物件を管理する不動産業者に直接通話が繋がるが,一定時間を経過すると,当該架電番号に架電しても電話は繋がらず,接続先がない旨の自動音声案内が流れる。
エ 上記イの画像の表示から,架電することなく10分以上経過してから,同一携帯端末で,同一の不動産物件について架電番号を表示すると,例えば,以下のとおり,別の架電番号が表示される。
 
 オ 上記ウにより繋がらなくなった架電番号は,別のユーザ端末や商品に対応した電話番号として再利用し得る。なお,ユーザが,同架電番号にいったん架電をすると,その後も,同番号は端末上にリダイヤルのため再表示され,同時に,別の端末において異なる物件の連絡先として同一
の架電番号が表示され得る。
(2)被告は,被告プログラムにおける架電番号が「架電先の電話器を識別する識別情報」(構成要件①)に該当しないので,被告プログラムは,構成要件①を充足しないと主張する。
 しかし,「識別情報」の意義については,本件明細書等の段落【0019】には「識別情報とは,架電先に関連付けられることによりその架電先を識別する情報であ」ると記載されているところ,証拠(甲6,7,乙2)によれば,被告プログラムを使用してサービスを提供している本件不動産サイトにおいては,ユーザが希望する物件を選択すると,当該物件の詳細情報が表示された画面に問合せのための専用電話番号が表示され,当該番号が表示されるとその時点で架電番号がロックされた状態となり,その表示から一定期間,当該架電番号に架電するとその不動産業者に架電されるとの事実が認められる。そうすると,被告プログラムにおける架電番号は,「架電先に関連付けられることによりその架電先を識別する情報」であり,構成要件①にいう「識別情報」に該当するということができる。
(3) また,原告が行った実験結果(甲8・実施結果1。なお,以下の実験結果はいずれも被告プログラムを使用している本件不動産サイトを利用したものである。)によれば,(ⅰ)本件不動産サイトのユーザが,端末を用い,特定の物件の連絡先画面を表示させると,特定の架電番号が表示された,(ⅱ)そのまま架電せずに前記連絡画面を閉じ,再び物件の連絡先画面を表示させる
と同じ架電番号が表示された,(ⅲ)ユーザが,異なる端末の電話機能を用い,同一の架電番号に架電しても,同一の連絡先である広告主に接続されたとの事実が認められる。
 上記結果は,被告プログラムにおいて,ある端末に特定の物件の連絡先に繋がる架電番号を表示させると,それにより当該番号と架電先が関連付けられ,それ以降は当該架電番号に対応する連絡先の不動産業者が識別されるとの上記(1)の認定を裏付けるものであり,同結果に照らしても,被告プログラムにおける架電番号は,構成要件①にいう「識別情報」に該当するということができる。 
・・・
(7) 以上によれば,被告プログラムにおいて,未架電の端末にのみ架電番号が表示されている場合には,当該架電番号は,「架電先に関連付けられることによりその架電先を識別する情報」であり,構成要件①にいう「識別情報」に該当するということができる。そして,前記判示のとおり,被告プログラムが架電後においては架電番号と発信者番号とで架電先を識別しているとし
ても,このことは被告プログラムが構成要件①を充足するとの結論を左右するものではないというべきである。
 したがって,被告プログラムは,構成要件①を充足する。 

3  争点1-2(被告プログラムが,架電番号を「送出可能な状態から送出不可能な状態へと変化させる機能」を有するか)について
(1) 被告は,被告プログラムは,構成要件③及び⑥の「識別情報を…ウェブサーバに向けて送出可能な状態から送出不可能な状態へと変化させる」との構成を備えていないと主張する。
    そこで検討するに,構成要件③及び⑥の「識別情報を…ウェブサーバに向けて送出可能な状態から送出不可能な状態へと変化させる」の意義については,特許請求の範囲の記載に加え,本件明細書等に「識別情報がウェブサーバに向けて送出可能な状態とは,例えば,利用者がウェブページにアクセスしたときに,広告情報に関連付けられた識別情報がウェブサーバへと送信されてそのウェブページ上に表示され得る状態をいう。」(段落【0020】),「識別情報をウェブサーバに向けて送出可能な状態から送出不可能な状態へと変化させるステップが,第1の所定条件の成立に基づき実行されてもよい。」(段落【0021】),「第1の所定条件の成立は,例えば一定期間の満了,一定回数の満了を含む。例えば,一定期間満了に基づき,識別情報をウェブサーバに向けて送出不可能とすれば,一定期間のみ識別情報をウェブサーバにおいて提供可能とし,その後ウェブサーバにおいて提供不可能とすることができる。」(段落【0022】)などの記載を参酌すると,連絡先に関連付けられた識別情報をウェブページに表示可能な状態から,ウェブページに表示することができない状態に変化させることをいうものと解される。
(2) 被告は,識別情報が「送出不可能な状態」にあるとは,ユーザからのアクセスがあっても当該識別情報がウェブサーバに送出される可能性が存在しない状態を意味し,そのような可能性が存在するのであれば「送出可能な状態」に当たると解すべきであると主張する。
 しかし,被告の主張によれば,「送出不可能な状態」に変化するとは,結局のところ,架電番号が再利用される可能性がなくなる場合をいうと考えざるを得ないが,例えば,本件明細書等における「関連付け解除期間T4」の識別情報(段落【0098】~【0100】)は,新たな管理IDとの関連付けが行われるとウェブサーバへの送出が可能になる以上,送出される可能性は有することとなるが,同明細書等において,「関連付け解除期間T4」の識別情報が,ウェブページに表示することができない「送出不可能な状態」にあるとされていることは明らかである。
 このように,被告の上記解釈は,本件明細書等の記載と整合しないものであり,採用し得ない。  
・・・
(4) 以上を前提にして,被告プログラムが構成要件③及び⑥の「識別情報を…ウェブサーバに向けて送出可能な状態から送出不可能な状態へと変化させる」との要件を充足するかどうかについて検討する。
 前記(2(1))のとおり,本件不動産サイトにおいて,①ユーザが特定の不動産物件の詳細情報を選択すると「電話」ボタンが表示され,②ユーザが表示された架電番号に架電すると,当該物件を管理する不動産業者に直接通話が繋がるが,一定時間を経過すると,当該架電番号に架電しても電話は繋がらず,③上記表示から架電することなく10分以上経過してから,同一携帯端末で同一の不動産物件について架電番号を表示すると,別の架電番号が表示され,④上記②により繋がらなくなった架電番号は,別のユーザ端末や商品に対応した電話番号として再利用し得るものと認められる。これによれば,被告プログラムにおいて連絡先に関連付けられた識別情報は,ウェブページに表示可能な状態からウェブページに表示することができない状態に変化するものということができる。
 被告は,被告プログラムにおける識別情報の管理について,「番号発行後所定時間以内の架電待ちの番号の状態」(状態①),「発行したが,架電されなかった番号(発行後,架電がなく所定時間以上が経過した番号)」(状態②),「架電後,所定時間冷却中の番号(架電後180分以内の状態)」(状態③),「冷却済  架電後所定時間経過した番号(架電後180分経過
後の状態)」(状態④)の4つの状態で管理しており,いずれの状態であっても新たにユーザからアクセスがあれば架電番号が発行され,ウェブサーバに送出されることになるのであるから,送出不可能な状態には変化しないと主張する。  
 しかし,「送出不可能な状態」の意義に関する被告の主張が採用し得ないことは前記判示のとおりであるところ,被告の主張する上記管理状況を前提としたとしても,少なくとも状態②における架電番号は,同番号が表示された端末の画面に表示することができない状態にあるので,これに送出され得ない状態,すなわち「送出不可能な状態」で管理されているというべきである。
 したがって,被告プログラムは,有効期間の経過によって,架電番号を「送出可能な状態から送出不可能な状態へと変化させる機能」を有するということができる。
 なお,被告は,本件不動産サイトにおいて,端末に表示させた架電番号が,前記の有効期間が経過した74ミリ秒後,別の端末に表示されたこと(乙12・実験2)を根拠に,被告プログラムは送出不可能な状態になることはないと主張するが,当該架電番号は,状態②に遷移した後,再び端末に発行され,送出されたにすぎないと考えて何ら矛盾せず,前記の結論を左右しない。
(5) 以上のとおり,被告プログラムは,構成要件③及び⑥の「識別情報を…ウェブサーバに向けて送出可能な状態から送出不可能な状態へと変化させる」という要件を充足するということができる。 」

【コメント】
 発明の名称を「情報管理方法,情報管理装置及び情報管理プログラム」とする本件特許権(特許第5075201号)を有する原告(コムスクエア)が, 訴外アットホームに被告(TIS)が提供しているCallクレヨンのプログラム(被告プログラム)が,原告の本件特許権を侵害しているとした,特許権侵害訴訟の事件です。
 
 これに対して,東京地裁の民事40部(佐藤部長の合議体です。)は,原告の請求を認め,本件プログラムの差止と損害賠償を認めました。

 まずは,クレームです(上記特許の請求項7)。
①  ウェブページにおいて明示的又は黙示的に提供され,かつ架電先の電話器を識別する識別情報を管理するための情報管理プログラムであって,
②  コンピュータに,
③  前記識別情報に基づく架電が第1の架電先の電話器に接続される状態の該識別情報を,前記ウェブページを構築するウェブサーバであって前記コンピュータとは異なるウェブサーバに向けて送出可能な状態から送出不可能な状態へと変化させる機能と,
④  前記送出不可能な状態とされた前記識別情報に基づく架電を第2の架電先の電話器に接続される状態にする機能と,
⑤  前記識別情報に基づく架電が前記第2の架電先の電話器に接続される状態となった場合の該識別情報を,前記ウェブサーバ又は他のウェブサーバに向けて送出可能な状態にする機能と,
⑥  前記識別情報を前記ウェブサーバに向けて送出可能な状態から送出不可能な状態へと変化させるステップを,前記ウェブサーバに向けて前記識別情報が送出されてから一定期間が満了した場合に,又は前記ウェブサーバへアクセスされた回数が基準に達した場合に実行する機能とを
⑦  実現させるための情報管理プログラム
 プログラムのクレームです。 私の知りうる限り,明示のプログラムのクレームで侵害が認められた初めての事例じゃないでしょうか(私の知らない所で以前にあったとしても,非常に稀有だということです。)。

 で,どういう内容かと言いますと, 「本件発明は,①広告提供サイトのウェブページに連絡先の電話番号を掲載する場合における情報管理プログラムに係る発明であり,②利用者がいずれの広告提供サイトを見て電話を架けてきたかなどを把握するため,数多くの広告提供サイトや商材ごとに異なる電話番号を掲載しようとすると,電話番号資源が枯渇するという課題の解決のため,③電話番号を指標する識別情報を動的に割り当て,一定時間の経過又は一定回数のアクセスを基準として,その提供を終了することで,識別情報の再利用を可能とし,識別情報の資源の有効活用及び枯渇防止を図るものであるということができる。 」らしいです。
 これでも分かりにくいですかね。

 要するに,サイトの表示をクリックすると広告代が発生するのではなく(これはよくあります。),サイトに表示された電話番号に電話することで広告代が発生するビジネスモデルの発明です。
 しかし,電話した人の属性やらどの商品で電話したかなんていう履歴をバカ正直に電話番号から遡ろうとしたら,電話番号がいくつあっても足りない,だから動的に電話番号を管理すると,こういうやつなわけです。

 明細書の図4です。多少,そういうことが表れていると思います。
 

 で,他方,被告プログラムの方は,上記の判旨に出ているとおりです。
 詳しくは,この別紙3を見た方が早いかなと思います(プログラムの特許にしては随分分かりやすいと思います。)。

 特筆すべき点は,本件,ソースコードの解析等はない!ということです。
 端末から実際に電話をする等の外部的な実験のみで,「原告の行った実験結果(甲9)によれば,発信者番号を送信し得ないパーソナルコンピュータに本件不動産サイトを表示した場合であっても,物件の連絡先に繋がる架電番号が表示され,携帯端末から当該番号に架電したところ,当該連絡先に接続したとの事実が認められ,これによれば,被告プログラムは,架電前の時点において,架電番号により架電先を識別していると推認することが相当である。」 等の認定を得ているということです。

 これは,クレームが優秀だからだと思います。・・・機能でも・・・ステップでもいいのですが,ソースコードを見ないと分からないようでは,少なくとも日本の裁判所では戦えません。
 本件は,端末等から検出可能なクレームだったため(ゲームソフトのクレームに近いと思います。),今回のような良い結果を生んだのだと思えます(ただし,それにしてもほぼドンピシャに近いため,分割出願かなあと思いましたが,そうではありませんでした。こんなこともあるのですね。)。
 非常に参考になります。

 つぎに,本件は黒塗り部分が多くて,損害賠償金がいくらだったかは分かりません。
 しかしながら, 「本件における計算鑑定の結果によれば,・・・」とありますので,本件は,何と珍しい!計算鑑定を使ってるのです。
 計算鑑定というのは特許法105条の2にありますが(もうすぐ105条の2の11になりますけど),まあ滅多に使われないものです。そういう意味でも本件は稀有な事件と言えそうです。

(追伸)
 損害賠償金は2億8000万円くらいであることがわかりました。
 判決当時のマスコミ発表です。
 これは結構な大金ですね。