事件番号
事件名
不正競争行為差止等請求控訴事件
裁判年月日
令和元年8月21日
裁判所名
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 高 部 眞 規 子
裁判官 小 林 康 彦
裁判官 関 根 澄 子
「ウ 検討
上記イ(イ)のとおり,類似箇所1に係る本件ソースコードと被告ソフトウェアのソースコードとの共通点⑦によれば,一審被告らが,本件ソースコードの変数定義部分を参照した可能性は否定できない。
しかし,上記イ(ア)によれば,類似箇所1に係る本件ソースコードは,変数定義部分であり,字幕データの標準値を格納する変数を宣言するもので,処理を行う部分ではないこと,変数は,いずれも字幕を表示する際の基本的な設定に関する変数であること,変数名は,字幕制作ソフトで使用する一般的な内容を表す,ごく短い英単語に基づくものであって,その形式も開発者の慣習に基づくこと,変数のデータの型は,マイクロソフト社が提供する標準のデータ型であること,注釈の内容も,変数名が表す字幕の意味をそのまま説明したものであることが認められる。
そして,字幕表示に必要な設定項目は,原告ソフトウェアの設定メニューから把握できること(乙64),変数の定義の仕方として,変数名,型,注釈で定義することは極めて一般的であること,変数名は字幕ソフトが使用する一般的な名称であること,データの型はマイクロソフト社が提供する標準の型であること,注釈も一般的な説明であることによれば,類似箇所1に係る本件ソースコードの情報の内容(変数定義)自体は,少なくとも有用性又は非公知性を欠き,営業秘密とはいえない。
一審被告らが,類似箇所1に係る本件ソースコードの変数定義部分を参照して,被告ソフトウェアのソースコードを作成したとしても,このことから他の部分を参照したことまで推認されるものではない上,それ自体が営業秘密とはいえない変数定義部分を参照したことのみをもって,本件ソースコードを使用したとも評価できないというべきである。
エ 小括
以上によれば,一審被告らが,類似箇所1について,本件ソースコードの変数定義部分を参照した可能性が否定できないとしても,そのことをもって,一審被告らが本件ソースコードを使用したとは評価できない。 」
上記イ(イ)のとおり,類似箇所1に係る本件ソースコードと被告ソフトウェアのソースコードとの共通点⑦によれば,一審被告らが,本件ソースコードの変数定義部分を参照した可能性は否定できない。
しかし,上記イ(ア)によれば,類似箇所1に係る本件ソースコードは,変数定義部分であり,字幕データの標準値を格納する変数を宣言するもので,処理を行う部分ではないこと,変数は,いずれも字幕を表示する際の基本的な設定に関する変数であること,変数名は,字幕制作ソフトで使用する一般的な内容を表す,ごく短い英単語に基づくものであって,その形式も開発者の慣習に基づくこと,変数のデータの型は,マイクロソフト社が提供する標準のデータ型であること,注釈の内容も,変数名が表す字幕の意味をそのまま説明したものであることが認められる。
そして,字幕表示に必要な設定項目は,原告ソフトウェアの設定メニューから把握できること(乙64),変数の定義の仕方として,変数名,型,注釈で定義することは極めて一般的であること,変数名は字幕ソフトが使用する一般的な名称であること,データの型はマイクロソフト社が提供する標準の型であること,注釈も一般的な説明であることによれば,類似箇所1に係る本件ソースコードの情報の内容(変数定義)自体は,少なくとも有用性又は非公知性を欠き,営業秘密とはいえない。
一審被告らが,類似箇所1に係る本件ソースコードの変数定義部分を参照して,被告ソフトウェアのソースコードを作成したとしても,このことから他の部分を参照したことまで推認されるものではない上,それ自体が営業秘密とはいえない変数定義部分を参照したことのみをもって,本件ソースコードを使用したとも評価できないというべきである。
エ 小括
以上によれば,一審被告らが,類似箇所1について,本件ソースコードの変数定義部分を参照した可能性が否定できないとしても,そのことをもって,一審被告らが本件ソースコードを使用したとは評価できない。 」
【コメント】
本ブログでも一審の判決を紹介しました。ソフトウエアのソースコードが営業秘密に当たるかどうか問題になった事件です。
で, 一審では一定程度の認容があったのですが,この高部部長の合議体では,逆転で原告全面敗訴になっております。
さて,比べてほしいのがその評価です。つまり前提となる事実は同じだと思います。
類似箇所1というのがあり,一審は,そのような類似箇所があるのは不自然だから,そりゃ見てやったのだろう,営業秘密の使用はあったのだ!と認定したわけです。
ところが,二審の方は,そもそも営業秘密じゃない!としたわけです。
見てやった可能性はあるけど,そこは有用性も非公知性もない部分~なので無罪~っとしたわけです。
いやあ,これはちょっと有りえない感じがします。
まあもちろん,事実の経緯からすると,これで原告だけ独占的に商売やるのは利益衡量的に良かれとはできないんだとは思います(ソースコードの非類似率は,99.91%らしいです。)。
だけど,こういう事案で原告が知財権を使って精一杯自分の事業を守ろうとするには,他にどうしろっていうのですかね??
じゃあやはり著作権でってことになりますけど,これは今度はソースコードの開示をなかなかしてくれない日本の裁判所に思いっきり阻まれますしね(それが本件での前訴です。)。
やはり日本の裁判でもディスカバリーを導入しないと,もはやどうしようもないって感じがしますけどね。
日本のこの手の訴訟の未来は暗いなあと思わせた事件でした。