2016年2月26日金曜日

審決取消訴訟 商標 平成27(行ケ)10134 無効審判 不成立審決 請求認容

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成28年2月17日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官清水 節
裁判官片岡早苗
裁判官新谷貴昭

「 (3) 検討
 以上によれば,本件査定時において,本件商標と引用商標の指定商品に関連する体脂肪計,体組成計,体重計等の取引の実情に関し,次のことがいえる。
ア まず,業務用として販売されている体組成計及び体重計は,医療用として使用することを想定した機能や性能を有し,医療用製品に該当するといえるところ,家庭用の体組成計及び体重計のシェアが極めて高い原告と被告は,医療用製品の製造者でもある。また,医療用の体組成計しか製造していないメーカーが存在する一方,医療用の体組成計を製造していない家電メーカーも存在し,家庭用の製品と医療用の製品に関し,シェアが一致しているとは認められない。
イ 次に,メーカーによって,販売用のカタログの種類,掲載対象は異なるが,家庭用の体組成計や体重計のシェアが高い被告は,家庭用と業務用の両方を掲載したカタログを用意している。また,多数の医療機器販売メーカーのカタログにおいて,小型の体脂肪計,体組成計,体重計が掲載され,販売されているが,その中には,原告や被告の製品で,業務用のものと家庭用のものの両方が含まれているため,医療関係者は,医療用機器の購入時に家庭用機器も併せて購入対象として検討することになる。
 小売店における体脂肪計,体組成計,体重計の販売では,業務用の大型のものは展示されていないが,健康意識の向上に伴い,血圧計や体温計といったヘルスケアに関する製品と一緒に展示されており,一般消費者は,家庭用体組成計,体脂肪計及び体重計を,健康維持や病気予防の目的で使用できる製品と近い性質のものと認識し得る。
 また,近時は,ネット販売の増加もうかがわれるところ,体脂肪計,体組成計,体重計のネット販売は,家電メーカー,医療機器メーカーに限られず,オフィス用品取扱会社などにおいても取り扱われており,医療関係者の購入を前提とし,医療用製品を主に取り扱うウェブサイトもあれば,一般消費者の購入を前提とし,家庭用製品を主に取り扱うウェブサイトもある。前者では,医療用機器として大型の体重計,体組成計以外に小型の製品も掲載され,医療用に限定されず,家庭用の体組成計,体重計が販売されていることが多いため,主たる需要者である医療関係者にとって,医療用機器と同様に,家庭用機器が購入検討対象となる。しかも,医療用製品を主として取り扱うウェブサイトであっても,一般消費者がアクセスすること自体に制限はなく,購入も禁止されていないため,一般消費者も需要者となることがあり,その場合の購入対象は,家庭用機器に必ずしも限られず,医療用機器も候補となる。他方,一般消費者向けのウェブサイトであっても,業務用体重計が販売される場合もあり,医療用製品が購入候補になることもあるし,リンクが貼られた業務用製品販売通販サイトへアクセスすることで,他の医療用製品等が購入候補となることもある。
ウ さらに,医療用と家庭用の体脂肪計,体組成計,体重計において,その品質及び価格は様々であるが,医療用と同程度の品質及び価格が用意されている業務用のものは,医療現場以外の学校やフィットネスクラブ等でも使用され,学生やフィットネスクラブの会員である一般消費者が,直接接する場合がある。具体的には,医療現場に設置されることが多いと考えられる業務用の製品は,価格が100万円を超えるものや,一般住宅内での設定が想定できないほど大型のものがあるが,一方,業務用の体重計であっても,価格が3万円程度で,一般家庭での購入が十分可能な製品もある(被告のWB-260A)。
 他方,家庭用の体脂肪計,体組成計,体重計であっても,多数の機能が付加されていることが通常であり,1万円を超えることも珍しくない。これらの家庭用の体重計等は,家庭用計量器の基準しか満たさないものとはいえ,その測定対象や測定単位が医療用のものと同様のことがあり,医療関係の研究論文で使用される程度の精度を備えていて,医療現場で購入される場合もある。
エ このように,家庭用の体重計の需要者である一般消費者は,医療用の体組成計,体重計も入手可能な状況となっていたといえる上に,医療用の体組成計,体重計は,医療現場での利用に限定されず,学校やフィットネスクラブ,企業等でも利用されるから,その需要者は,医療関係者に限定されず,学校関係者やフィットネス関係会社,企業の物品購入部門,健康管理部門の従業員も含まれる。そして,医療用の体組成計及び体重計のシェアの正確な数値は不明であるが,被告の医療用の体組成計の販売台数は相当数に及び,販売シェアも小さくないから,これらの需要者は,家庭等で被告の家庭用の体組成計を目にするだけでなく,学校やフィットネスクラブ等で被告の医療用の体組成計を目にする機会もあることが推認される。
 また,一般消費者の一部を構成する医療従事者は,一般消費者よりも高い注意力をもって商品を観察するとはいえ,医療用と家庭用の両方の製品を製造し,家庭用のシェアの大半を占める原告と被告の製品に日常的に接することになるから,医療用製品の出所について,家庭用製品の出所と区別して認識することが困難な状況といえる。
 さらに,その他の学校関係者,フィットネス関係会社や企業の物品購入部門,健康管理部門の従業員には,一般的な消費者も含まれており,しかも,医療用と家庭用の体重計,体組成計の測定対象は同じであり,性能等が近づきつつあるといえる上に,精度の違いは一般消費者には識別し難い場合があることから,性能による明確な区別も困難である。
オ よって,本件査定時においては,医療用の「体脂肪測定器,体組成計」と家庭用の「脂肪計付き体重計,体組成計付き体重計,体重計」は,誤認混同のおそれがある類似した商品に属するというべきである。したがって,審決の指定商品の類否判断の誤りをいう原告の取消事由3は,理由がある。」

【コメント】
 大手の”ヘルスメーター”メーカー同士のガチンコの戦いです。と言っても,意匠や特許ではなく,商標での争いです。

 そして,この事件で珍しいのは,指定商品の類否(商標法4条1項11号)が問題となったのです。

 問題となった本件商標(タニタの登録商標)はこちらです。
 
 指定商品は, 第9類「脂肪計付き体重計,体組成計付き体重計,体重計」です。

 これに対して,引用商標は,
「DualScan」(標準文字)
で,指定商品は,第10類「体脂肪測定器,体組成計」です。

 ということで,商標自体が類似していることに争いはありません。問題は,指定商品の類否です。

 指定商品は,それぞれ9類と10類,つまり,9類が電子機器,測定器関係なのに対し,10類の医療機器関係の違いがあるのではないかということです。
 そのため,審決では,「本件商標の第9類「脂肪計付き体重計,体組成計付き体重計,体重計」と引用商標の第10類「体脂肪測定器,体組成計」とは、一般的な取引の実情として、生産部門、販売部門、品質、用途、需要者の範囲において異なり、類似していないことが明らかである」としたのです。

 勿論,9類とか10類とか当局側の都合で分けた分類ですので(「前項の商品及び役務の区分は、商品又は役務の類似の範囲を定めるものではない。」という商標法6条3項などもあります。),形式的に類が違うから,非類似というわけではありません。

 ただ,やはり,類が違うということには,それなりの理由があり,仮に類が違うのに,類似だというからには,それなりの理由がなければいけません。
 そして,審決では,お店(専門店か,一般電気店か),需要者(医療従事者か,一般人か )の違いなどを重視して,交わりがないと判断し,非類似と認定したようです。

 他方,判決では,これとは異なり,上記のとおり,類似と判断しました。
 これは,審決ではあまり検討していない,ネット販売,さらには,設置場所の交錯(フィットネスクラブ,学校)などを検討し,医療用も一般人が入手でき,実際医療従事者でない学校関係者,フィットネスクラブ関係者,一般人も医療用のものを目にすることもある等の認定によるのだと思います。

 つまり,違いはあるのだけど,今回争いになった指定商品について,医療用と家庭用が,交錯し錯綜している実情から,誤認混同することもあろうと判断したわけです。

 私としては,審決よりもこちらの判決の方がすっきりと理解できるかなと思います。とは言え,こういうのは事実認定次第ですので,他の合議体でも同じ判断をするとは限りません。

 ところで,勝った請求人のオムロンヘルスケア側は,審決時と代理人が変わっております。 様々な事情があったのでしょう。