2019年12月30日月曜日

侵害訴訟 特許 令和1(ネ)10052 知財高裁 控訴棄却(請求棄却)

事件番号
事件名
 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日
 令和元年12月19日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部                    
裁判長裁判官      森              義      之                                  
裁判官         眞      鍋      美  穂  子 
裁判官       佐      野              信  

「 (2)  争点2-1(構成要件1Aの充足性)について
      ア  控訴人は,構成要件1Aは,画像情報を取得する機能の有無に限らず,
「画像情報・・・を対応するパターンに変換するパターン変換器」であると主張する。 
 本件発明1の構成要件1Aは,「画像情報,音声情報および言語を対応するパターンに変換するパターン変換器と,パターンを記録するパターン記録器と,」というものであるところ,画像情報を取得する機能の有無に限らないという控訴人の主張によると,本件発明1は,パターンに変換する画像情報が取得されたものでない場合には,パターン変換器は,予め保持している画像情報を対応するパターンに変換するものということになるが,このとき画像情報は,パターンに変換されることも,また,パターンとして記録されることもなく,画像情報として予め保持されていたものということになる。
  しかし,本件発明1の特許請求の範囲及び本件明細書等1には,画像情報が,パターンに変換されることも,また,パターンとして記録されることもなく,予め保持されたものであるとは読み取ることができる記載はない上,かえって,本件明細書等1の段落【0017】には,「【課題を解決するための手段】(請求項1に対応)」として,「この発明における思考パターン生成機は画像情報,音声情報および言語をパターンに変換する。画像情報は画像検出器により検出され,対象物に応じたパターンに変換される。・・・」と記載され,画像検出器により検出されるものとされている。
  したがって,本件発明1の構成要件1Aが,画像情報を取得する機能の有無に限らないとの控訴人の主張を採用することはできない。
  そして,本件装置が,外部から入力された表情等に関する画像をパターンに変換する機能を有していると認めるに足りる証拠がないことは,原判決「事実及び理由」の第4の2(2)イに判示するとおりである。
  よって,本件装置が構成要件1Aを充足していると認めることはできない。 」

【コメント】
  本件は,発明の名称を「自律型思考パターン生成機」とする特許権1(特許第5737641号 )と, 発明の名称を「自律型知識向上装置 」とする特許権2(特許第5737642号 )と,発明の名称を「自律型知識分析器」とする特許権3を有する原告(自然人:人工知能技術開発等を目的とする訴外株式会社オメガ・レゾンの代表取締役)が,被告を特許権侵害として訴えた特許権侵害訴訟の事件です。

 一審(東京地裁平成29(ワ)15518,令和元年6月26日判決)では構成要件該当性がないとして,請求棄却になりました。

 そして,この二審でも同様に構成要件該当性がないとして,控訴棄却になっております。

 そういうよくあるパターンの原告負け事件なのですが,ではなぜここで取り上げたかというと,クレームがなかなか貴重な感じがしたからです。
本件発明1
      1A  画像情報,音声情報および言語を対応するパターンに変換するパターン変換器と,パターンを記録するパターン記録器と,
          1B  パターンの設定,変更およびパターンとパターンの結合関係を生成
するパターン制御器と,
          1C  入力した情報の価値を分析する情報分析器を備え,
          1D  有用と判断した情報を自律的に記録していく自律型思考パターン生成機。
  」
 なかなかに広いクレームだという感があります。

 さらにこんなクレームもあります。
 「 本件発明2-1 
          2A  言語情報をパターンに変換するパターン変換器と,パターンおよびパターン間の関係を記録するパターン記録器と,
          2B  処理を行うためにパターンを保持するパターン保持器と,パターン保持器を制御する制御器と,パターン間の関係を処理するパターン間処理器を備え,  10
          2C  入力した言語情報の意味,新規性,真偽および論理の妥当性を評価し,自律的に知識を獲得し,知能を向上させる人工知能装置。

 構成要件2Cを見てください。一歩進んだ感があります。
 
 本件発明1の方は, 外部入力データを前提としているのに,被告装置の方はそうなっておらず(内蔵データのみ),構成要件該当性なしと判断されております。

 他方,本件発明2-1の方は,構成要件2Cが上記のような書きぶり(意味,新規性,真偽および論理の妥当性)ですから, 現在の最先端の技術力をもってしても,構成要件該当性がある!というのは難しいと思います。

 ですので,判決も,「本件装置が,意味を評価した上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得していると認めることはできない。」,「本件装置の質問は,顧客の要望を明らかにするためのものであって,真偽を判断するためのものであるとは認められないから,本件装置が,真偽を判断した上で,自律的に知識を獲得していると認めることはできない。」, 「論理的な結論を得るためには,情報間の結合関係を正確にする必要はあるが,必ずしも入力した言語情報の真偽の妥当性を評価する必要性は認められない。」 という感じで判断しております。

 ということですので,広いクレームではあるのですが,ちょっと未来志向過ぎて(特許権者自身も今のところ実施できていないのではないかと思います。),このレベルまで誰もまた到達していないところが玉にキズだった事件ではないかと思います。

 あと10年,20年経てば,構成要件該当性のある技術も実現しているかもしれませんが,そのときは,この特許自体エクスパイアしているでしょうね。